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第10話:3人組を作りたいコミュ障2人組

「まあでも、土橋と同じ班にはなりたい……なりたくない?」


 中田の提案に、楓は顔を真っ赤にしていた。


「え????? どういうこと!?!?!?!?」


「どういうことも何もそのままの意味よ。折角学校じゃない非日常へと繰り出していくんだから、そりゃ同じ班の方が色々と関係が縮まるでしょ?」


「関係って……」


「そもそも、なんで家に押しかけておいて何もしないで帰ってきてんのって、私的にはそこ追求していきたいわよ」


 嫌なところを突かれたのか、楓はすっと顔を隠した。


「女の子が男の子の家に行くってなったらそりゃ同衾したり朝チュンしたりそういう展開になるのが普通では!?」


「それは……ネット小説だけだよお」


「いーやそんなことない。健全な高校生ならそうなる」


 楓は健全の意味を問いただしたくなった。


「ってゆうかさ、土橋も土橋でその辺察しろよ。1年間ほとんど話したことなかった相手がいきなり看病だって家に来たってなら、色々期待するのが真っ当な男子高校生よ?」


「土橋君はそんなことしないもん」


 土橋のことなどまだまだよく理解していないのに、楓はそう言って頬を膨らませた。


「それはあいつがおかしいのよ。大体あいつ、昔は……」


「あー疲れた!!!」


 教室の扉が開いて、いつものように衛藤と土橋が入ってきた。中田は土橋について何か言おうとしていたようだったが、これを機にまた心の中にしまった。


「???」


 首を傾げる楓に対して、中田は話題を逸らしにかかった。


「そういや、私ら以外に3人組作れてない人っていないのかな?」


 確かに気になるな。楓はそう思ったから、ふと教室を見渡すことにした。1人でご飯を食べている女子となると、見つけるのは容易ではない。女の子は群れて生活する生き物だ。孤高の存在なぞ皆無に等しい。


 しかしこの教室に2人ほど、1人で昼ごはんを食べている女子生徒がいた。


「誘うの?……」


「まあ私らもほぼあぶれものみたいなものだし、いいんじゃないと思うよ」


 中田も楓もクラスで目立つ方じゃないし、むしろ1人でいる人達の気持ちの方がよくわかるくらいだった。だから声をかけようと……いやそこまでできるほど対人能力が高いわけではない。


「じゃあまずあそこに居る人だけど……」


 2人の目に入ってきた色は白。


「なんであの人……いっつも包帯を頭に巻いてるのかな?」


 楓はビクビクしながら中田に同意を求めていた。家田という名前の少女は、身長こそ楓より少し大きいくらいだったが、顔付きは楓より幼かった。いつも1人でお弁当を食べているその子は、人を寄せ付けない空気を纏っていた。


 というか大多数の人間は、彼女が頭から片目にかけて巻いている包帯を見て話しかけるのをやめていた。彼女の噂は、情報に疎い楓の耳にすら入ってきていた。曰く、自分のことを宇宙人だと自称しているらしい。


「まあ中二病なら友達できないよ。仕方ない」


 中田は中二病であると断じたようだ。まあそう言われてしまうのも仕方ない。何故なら彼女、どこからどう見ても普通の女子高生だからだ。寧ろ異能の力があるならここで出して欲しいくらいの溶け込みようだった。


 しかし楓は、何か辛い過去でもあったのかなと思っていた。現実からの逃避は、そう単純な思考で起こるものではないと。彼女は、どこまでも優しい少女だったのだ。


「もう1人は……姫路さんかあ」


 姫路さんは剣道部のエースで、嫌いな黒髪ポニーテールがビシッと決まった眉目秀麗の優等生だ。ここまでのスペックなら友達がいてもおかしくないとそう思うだろう。しかし姫路は優等生がすぎるのだ。


「姫路さん……今日もご飯食べながら問題集解いてるね……」


 これが姫路の昼休みの過ごし方だ。剣道と勉強以外で時間を使わない。ならば、友達の数は少なくなる。


「皮肉なしにすごいわよね私らみたいな学年順位中流層には考えられないことよ」


「そうだね……」


 めちゃくちゃ声をかけ辛かった。なんせ数学のチャートをひたすら解きつつエビフライを口に入れて居るのだから。顔もなんか殺気立ってるし。


「どうする?」


「どうしよう……」


「………………」


「………………」


 コミュニケーション音痴な2人はそのまま黙ってしまった。そしてそのまま、予鈴がなった。あと5分で昼やすいが終わってしまう。遠足の班決めは、今日の放課後だ。


「私、声かけてみる!!!!」


 ここで楓は思いきって宣言した。ぐっと握り拳を作ったが、プルプルと振動していた。


「できる!?!?!?」


「やってみる!!!!!」


 この物語を読んでいる人間の中に陽キャが居たとしたら、たかが声をかけるだけに何をやっているんだと呆れ返っているかもしれない。しかしふざけるなと。これがコミュ障だと。人1人声をかけるのもままならないのだと。肝に銘じて読み進めてほしい。


「楓……あんた……成長したんだね……」


 中田は冗談抜きで感心していた。


「うん……頑張る……深呼吸して……深呼吸して……」


「鼻から吸って口から吐くんだぞ!!! 口から吸って鼻から吐くんじゃないぞ!!!」


 すーはーと息を交換し、脳みそに新鮮な酸素を送り届ける。


「よし、行こう……」


 そう思って楓が立ち上がったその瞬間だった。姫路の席に1人の女子が近づいて話し始めた。


「姫路さん!」


「え!?!?あっはい!!!ど、どうしましたか???」


「いやそんな驚かないで……遠足の班って決まってる?」


「あっ……えっと……決まって……ないです」


「そっか! うちさ、2人しかまだ居ないから良かったら一緒の班にならない?」


「!?!?!?!? 恐縮です!!!!!」


 クラスの中心にいる女子にこう声をかけられ、姫路は快諾していた。そしてまた別の方では……


「家田さん」


「……何?」


「遠足の班決まってないでしょ」


「……そうだけど?」


「一緒の班にしてあげた」


「……どうでもいい」


 家田さんもまた、朗らかな陽気グループに誘われていた。そう、楓の決意は無駄なものとなったのだ。


「見るな……楓。あれは、私達とは住む世界の違う生き物なんだよ……」


 中田がこうフォローしても、虚しさが募る一方だった。こうして彼女達は、余り物の2人組枠に入ることとなったのだった。

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