第72話 尾張の悪役令嬢様との思い出(55)
特にさ、《《あの頃》》の俺……。
まあ、少年徳川家康さまは物心がついたか、つかないかぐらいでさ、綺麗で若い母君さまと離別……。
そう別れ離れになり、幼い俺は母の温かさ、温もりの方をほとんど言ってよいほど覚えていない状態で母ちゃんと離別したからさ……。
《《あの頃》》の吉姉さまの俺への優しさは本当に心から嬉しくてさ……。
俺は中身がアラサーのおじさんだけれど、いつも《《尾張の悪役令嬢さま》》に騙されて、しくしくと涙が止まらないぐらい歓喜した気がするよ……。
この後もさ、俺の許に《《ラブコメの女神さま》》が降臨してテンプレ通りの試練を与えてくるとも知らずにね、俺は『ムシャムシャ』、『モグモグ』と嬉しそうに食べるのだった。
吉姉さまが俺の頭を撫でる度に優しく微笑むのではなく、《《尾張の悪役令嬢さま》》らしく、妖艶に薄ら笑いを浮かべていたことに俺は気がつかず嬉しそうに夕飯を食べ続けたよ……。
《《あの頃》》の俺は本当にどうしようもない阿保だったからね、いつも《《尾張の悪役令嬢さま》》の邪な計略に堕ちていたよ。
吉姉さまはただ俺のことを想っているわけではなく、《《子たぬき》》を美味しくたぬき汁にするために肥えさせているだけだともしらずにね。
だから子たぬきが食事を終え。
「食った、食った……。美味しかった……。余は満足じゃ……」
俺が床に転がり、自分のお腹をポンポンと叩きながら呟けば。




