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豊穣神イナリの受難  作者: 岬 葉
人間の街へ

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41 ごまかし

 リズとイナリはウィルディアの部屋を出て、隣の部屋で待っているエリスに声を掛けに行った。


「エリスよ、待たせたの。我じゃ」


「お二人とも、おかえりなさい。リズさん、あの方からされた話は、どういった話だったのでしょうか?リズさんとしても、私が聞くべきではない話だと思いましたか?」


 エリスは今日初めて見たウィルディアについて知らないからか、あるいはこの場で自分だけが知らない話の内容を探りたいのか、リズに対して探りを入れてきた。


「んんー、そうだね、私でも難しかったかも……。なんか、非自発的魔力発生現象による相対的な魔力濃度の変化によって、イナリちゃんのコアがフローする、みたいな?正直私も正確には理解できてないと思う。やっぱり先生はすごいねえ」


 リズは先ほどの話では全くでなかった言葉を適当に並べてごまかすことにした。


「な、何じゃそれ?我の何がなんじゃって??」


「大丈夫、適当に言ってるだけだから。イナリちゃんも話を合わせて!」


 リズは、困惑するイナリに対し、小声で指示を促す。


「あ、そ、そうなのじゃよー!その、非自発てき、うんちゃらかんちゃらが、バーッとなってすごいみたいな話じゃ!」


「うーん、イナリさんのおかげでリズさんの説明がより不可解になりましたね……」


 イナリの頓珍漢な発言を聞いたエリスが、首を傾げて考え込む。


「よし、イナリちゃん、いい感じだよ!」


「いや、我ながらこんなのでいいのか疑問なのじゃが……」


「ともあれ、私は門外漢ということですかね。うーん、少しモヤモヤしますが仕方ないですね……」


「まあ、ありていに言えばそんな感じ。で、先生曰く、今日はもう言いたいことは言ったから帰っていいってさ」


「そうですか。でしたら何かと先送りになっていたイナリさんの必要な生活雑貨をそろえに行きませんか?」


 三人は校舎の廊下を歩きながらこの後について話し始める。


「む、それはありがたいことじゃが、お主らの家に我の物を置くような場所があるじゃろうか……?」


「確かに私たちの部屋は二人で分割してますから、スペースはなさそうですが。しかし、イナリさんならそれなりの大きさの木箱を用意すれば、そこに全部入りそうじゃないですか?」


「なんだか失礼なことを言われているように感じられるのじゃが」


「そういえばリズ、イナリちゃんが何持ってきたのか知らないや。ブラストブルーベリー持ってきて色々と荒れたのは聞いたけど。結局、何持ってきたの?」


「ブラストブルーベリーと茶の木です。それだけです」


「え、聞いた限りだと、箱すらいらなそうなんだけど」


「実際いらないと思いますよ……」


「必要なものを持ってきたら実際そうなったのじゃ。仕方なかろうて」


「すごいな……人と神の感覚の違いってこういうところでも出てくるのかな……」


「どういうことですか?何故ここで神の話に?」


「えっ!?あっ、いやっ、ひとつかみの感覚の違いって言ったの!!私もイナリちゃんに近い考え方だから!!あはは!」


「ミニマリストの極致みたいなイナリさんと、部屋中私物まき散らし魔術師のリズさんのどこに共通項があるんですか……?」


 リズはイナリが魔王だと思われていることを伏せることにばかり注意を向けていたが、そもそもイナリが本物の神であることも秘匿すべきことであることを失念していた。


 普段からイナリは自身が神であることを主張してきたが、エリスもまさかイナリが本物の神だとは思っていないので、そこにツッコミを入れることはほぼ無くなりつつある。


 しかし、リズの口からイナリが神だという発言が出るのは別問題なのである。


 うっかりリズが「神」というワードを口に出してしまったのが拾われてしまったので、強引に話を捻じ曲げることでどうにか乗り越えた。


「うう……今後もこんな感じでやってくのかあ、ちょっと自信ないかも……」


「その、世話をかけるのじゃ……」




 イナリ達は商業地区の適当な雑貨屋に入り、商品を眺め始めた。


「イナリちゃんが必要な物って何だろう」


 商品棚に並べられていた瓶を手に取ったリズが、ふとイナリに尋ねた。


「……何じゃろうか。とりあえず火打石と打ち金じゃろうか」


「なんで???」


 イナリとしては、お茶を飲める環境の構築は最優先事項と言ってもいい。


 ともすればそれに必要な道具をそろえる必要があるわけだが、まずは湯を沸かすために火をつける道具が必要だろうと考えたわけだが。


「イナリちゃん、最近の家には調理用の魔道具があるし、なくても私が火をつけられるから、今時火打石なんて使う人は殆どいないよ……」


「な、なんと……」


 イナリは驚愕した。そのような便利な道具がある事に対する驚きもあったが、それ以上に魔術が日常に浸透しすぎていて、魔術に傾倒する文明に太刀打ちできるとは到底思えなくなったからだ。


「魔術がここまで浸透していようとは……おのれ……」


「一体何をそんなに仇みたいな感じに思っているのかはしらないけど、調理用魔道具とかは魔術史的にはかなり初期からあったよ……」


「他に欲しいものは無いのですか?ほら、これとかどうですか?キツネ柄のかわいい硬貨入れですよ」


「……我、お主らが使う通貨を持ち合わせてないのじゃ……」


「……やっぱり無職……」


「い、言うでないのじゃ……」


「イナリさんの懐事情はさておき、この財布良いですね。私、これ買いますけど、イナリさんも欲しいですか?」


「まあ、どうしても献上したいというのならしょうがないのじゃ」


「はいはい。二つ取っておきますね」


 エリスをはじめ、彼女らのパーティのメンバーはイナリの偉そうな態度に動じなくなりつつある。そして、たまに「じゃあやめとこうかなー」などと言いながらイナリの望まぬ決定をすると、イナリが震えだすのがお決まりのパターンになっている。


「で、他にイナリちゃんが欲しいものはある?」


「鍋とか、急須とかじゃろうか。後者は最悪自作できるのじゃがな」


「きゅうす……知らない道具ですね……」


「まあ、それなりに歴史ある道具じゃからな。茶を淹れるのに使うのじゃ。我の茶はうまいのじゃよ?一度飲んだら二度と手放せなくなるのじゃ」


「それ本当にお茶かな。なんか別のヤバいものに聞こえるんだけど」


「一応街に入るときの検査によると、その手のものではないらしいですよ。言い方が終わっているだけですね」


「誠に遺憾じゃ……」


 イナリが口をへの字にして遺憾の意を示していると、リズが改まって話しだす。


「話は戻るけど、必要な物っていう括りだと殆ど何もいらない気がしてきたな。大体私が何とかできそうじゃない?」


「確かにそうかもしれぬな。お主、本当便利じゃよな」


「確かにそうですけどね、将来的にはイナリさんも色々買ってみるといいですよ。その、お金を自分で稼いで、ですね」


「我は今まで与えられたものだけで生きてきたからの、そういったことの意義がわからぬよ」


「イナリさん、大変な人生送ってきましたよね……。今度からは私がイナリさんに色々と与えてあげます。しっかり支えていきますから……」


「エリス姉さん、何か全体的にイナリちゃんに甘くない?なんというか、必要以上に……?」


 エリスは、というよりかは、リズ以外のパーティの面々は、イナリの出自が悲惨であると未だに考えている。そのため、全員がイナリに対してそれなりに気を遣っているのだ。


 しかし、その中でもエリスは飛びぬけてイナリに対して過保護である。


「何というか、リズさんと同年代なのにリズさんって子供らしくないじゃないですか?だからその分の反動っていうんですかね?とてもイナリさんが可愛らしく思えるのですよね。それに尻尾もあって癒しなんですよね……ふふ……」


「うわ、絶対そっちがメインじゃん……」


「我は子供じゃないのじゃ」


 イナリの頭を撫でているエリスの供述を聞いたリズは引いた。


 そしてイナリも尻尾でエリスを叩いて対抗したが、エリスには全く効果が無かった。それどころか、むしろ逆効果であった。

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