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豊穣神イナリの受難  作者: 岬 葉
アルテミア復興

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230 油断ならない街

「そういえば、君たちの泊まる場所を用意しないといけないね。さて、どうするか……」


夕食を終え、皆で厨房で片付けを行っている中、カウンター席に座って休んでいたウィルディアがそう呟いたので、イナリは首を傾げる。


「何か問題があるのかや」


「ああ。今、災害被害者は基本的に自宅待機させて定期的に訪問するか、街の各地に設けた診療所で過ごすかのどちらかを選んでもらっている。それで、その診療所というのが、宿などの施設を使っていることが多くてな。果たして君たちに斡旋できる場所があるかどうか……」


「話が長くてようわからんが、要するに場所が無いということじゃな」


「……端的に言えば、そういうことになる。どうしたものか……」


「あ、そういえば、街の端っこの方のパーティハウスがいくつか空いてた気がする。……結構遠いけど、それで良ければ、書類に印を押しちゃうよ!」


「……らしいが、皆はどうだろうか」


 リズの言葉に、ウィルディアが皆の方を見る。


「俺は構わないぞ。運動量は多いに越したことは無い」


「僕も大丈夫です、用意して頂けるだけでも十分なので。それに、外での仕事が多くなる場合は、その方が都合がいいこともあるだろうし……。他の皆はどうかな?」


「我は雨風が凌げれば何でもよいのじゃ」


「私はイナリさんが居ればどこでもいいですね」


「……ええっと。私は錬金術ラボに籠ることになると思うので、考慮しなくて大丈夫です。……ですよね、ウィルディア先生?」


 イナリとエリスの返答に困惑しつつ、ハイドラがウィルディアの方を向けば、ウィルディアはそれに頷いて返した。


「……では、そのパーティハウスを借りようと思います」


「おっけーい!じゃ、契約書に印を押しちゃうね!いやあ、一回やってみたかったんだよねえ……!」


 リズはウキウキとした様子で事務室の方へと去っていった。


「……些か不安だから、私はリズ君の方を見てくるよ」


「……お願いします」


 ウィルディアがそういえば、エリックが手を顔に当てて頷いた。




 さて、無事に契約は交わされたので、一行は一晩を冒険者ギルド内で過ごし、翌朝になってから、リズの案内によりパーティハウスに向かった。


 なお、ラボとやらを用意する関係で、ハイドラとウィルディアは別行動になっている。イナリも後で合流する予定だ。


「ふう、やっと着いた……案内しておいて何だけど、絶対ここ、不便だよ……」


「まあ、アルテミアが一望できるぐらいには街の端だしな……」


 リズとディルが言うように、パーティハウスは本当に街の端の方……というか、森に接していて、もはや街の外と判定できそうな場所に位置していた。しかも妙に高所に位置するため、坂がそこそこ体力を削ってくる。しかし、その代わり、振り返って見るアルテミアの街並みは実に趣がある。


 それに、ややこじんまりとしつつも、木の温かみがよく感じられ、別荘のような雰囲気を醸しているのも高評価だ。何より、畑が備え付けられているのが素晴らしい。魔の森の自宅を改装するなら、こういうのもいいかもしれない。


 そう思っているのが伝わったのか、エリスはイナリの頭に手を置いて撫でてくる。


「ふふ、どうやら、イナリさんは気に入ったみたいですよ?」


「あまり贅沢を言ってリズを振り回すのも悪いからね。しばらくはここで過ごそう」


 エリックの言葉に、皆が頷き返した。


 これにてアルテミアの住居は決まった。


 その後小一時間、皆が荷物を軽く整理する傍ら、隙を見て畑でエリスに成長促進を使わせ、ブラストブルーベリーを増殖させて回収したところで、各々別行動をすることとなった。


「それではリズさん、私のイナリさんをお願いしますね」


 エリスは、イナリから十数歩ほど離れた位置から声をかけてくる。


 というのも、現在のイナリの背には背嚢がつけられており、その中にはブラストブルーベリーがぎっしり詰まっていて、万が一のことがあれば大惨事間違いなしだからだ。一応、多少の衝撃では爆破しないように工夫は凝らしてあるのだが、怖いものは怖いのだろう。


 一方のリズは、イナリのすぐ隣に立ってエリスに返事を返す。


「うん。でも、リズはハイドラちゃんのとこに送るだけなんだけど……」


「道中の送迎は重要任務ですよ。……もしイナリさんに手を出そうとする愚か者が居たら、骨も残さず燃やしておいてください。一切の慈悲は不要です」


「う、うん……」


 笑顔で物騒な事を告げるエリスに、リズは一歩引き下がって返事を返した。記憶が正しければ、リズは以前、己の口から似たようなことを告げていたような気がするが。


「それじゃ行こっか、イナリちゃん!」


「うむ」


 エリスに手を振られて見送られつつ、リズの手に引かれて、イナリは街の中心部の方へ向けて足を運ぶことになった。




「――君の体をもっとよく見せてくれ!!」


 ……そして、変態に絡まれた。


 イナリはゴミを見るような眼差しと共に、両肩に手を乗せて縋りつき話しかけてくる翁の手をはたき落とし、リズの方に振り向いた。


「リズよ、やるのじゃ」


「えっ、いや、えっと……この人、確か、結構魔術学界隈で有名な人なんだけど……?」


「知らぬ。我には開口一番、体を求めてきた変態にしか見えぬ」


「そ、それはそうなんだけど。ええと、多分、検査したい的な文脈だと思うんだけど……」


「知らぬ」


「う、ううーん……」


 取り付く島もない様子のイナリに、リズは頭を抱えて唸った。


 彼女は魔術に造詣が深いので、目の前の魔術界の大物とやらをどうするべきか悩んでいるのだろう。しかし、神と人間を比較したら、どちらを選ぶべきかなど一択ではなかろうか?


「……あ、すみません、衛兵さん!この人、連れてってください!」


 折衷案としてか、リズは偶然近くを通りかかった兵士を呼び、翁を連行させた。……燃やしてもよかったのに。


「ま、待て、この娘には何か、世界の核心に迫るような何かが!待ってくれ――」


「はいはい、続きは取調室で聞きますから」


 翁の抵抗虚しく、彼は兵士に連行されていった。これでまた一つ、この街は平和になっただろう。


「全く、治安が悪いというのは本当なのじゃな。油断ならんのじゃ」


「え、ええっと、うん……そうだね……」


 肩をはたきながら呟くイナリに、リズは歯切れ悪く返事を返した。




 イナリ達は、アルテミアの錬金術ギルド内で割り当てられたハイドラの部屋――厳密にはラボと言うらしいが、どれも同じようなものであろう――に到着した。


 その部屋は、メルモートのハイドラの研究室と比べると、圧倒的に広々としていて、収納や機材もそろっている印象を受ける。どれが何をするための器具なのかは一切わからないけれども。


 さて、ラボ内で機材や備品の確認をしているハイドラに、イナリが先ほどの出来事を愚痴ると、ハイドラは作業を直ちに止めて立ち上がり、慈悲に満ちた声色で喋りかけてくる。


「……大変だったね。大丈夫?落ち着くまで、少し休む?」


 ハイドラはイナリをそっと抱き締め、背中をやさしくさすってくる。……エリスとはまた違った安心感だ。


「……んや、問題ないのじゃ。何もされておらぬしの」


「そう?神様なら平気なのかもしれないけど、あんまり無理したらダメだよ?必要なら、精神安定剤も作れるからね」


 ハイドラはイナリから離れ、再びラボ内の確認作業に戻った。


 多分イナリには効かないだろうが、しれっと何かヤバそうな薬を紹介された。多分ハイドラなりの気遣いなのだろうが、料理センスと言い、彼女の感覚は、どこかズレているように思える。


 しかし、リズにとってハイドラのそういった面は既に知った事なのであろう。彼女は、何も無かったかのようにイナリに話しかけてくる。


「ハイドラちゃんにもイナリちゃんの事、伝えたんだね?」


「うむ。魔王と誤認されていることまで、しっかりじゃ」


 イナリが頷くと、リズは部屋に備え付けられた椅子に座り、杖の先端を手で弄りながら、小声で喋りはじめる。


「……それじゃあ言うんだけど。よくよく考えたら、さっきのおじさん、イナリちゃんの正体に気づきかけてたんじゃないかなって」


「む?」


「先生がイナリちゃんの正体に気がついた時の事、覚えてる?」


「……どんな感じじゃったっけ」


「ええっと。先生は、イナリちゃんの中に流れている力が、何か魔力とは違う力であることに気がついたんだ。……それはリズもそうだったけどね。で、先生はそこから、それが神の力とほぼ同質だと気がついて、イナリちゃんが神だと結論付けたはずなんだよ。さっきのおじさんも、きっと同じような違和感を抱いたんだと思う」


「……ふむ」


「つまり……イナリちゃん、この街では外に出ない方が良いかもしれないなって」


「なるほどのう……。しかし、そんな程度で分かってしまうものなのかや?」


「一応、他人の魔力の流れを見れるような魔術師は一握りだし、初見で看破ってことは無いだろうけれど……ほら、魔法学校があるでしょ?それも、転移術の理論を確立させるような人たちがいる様な所が……」


「ふーむ……」


 イナリは腕を組んで唸った。リズが言いたい事というのは要するに、この街の魔法学校が抱える魔術師の程度次第では、誰もがイナリを見て違和感を抱く可能性があるということだろう。


「どうせなら、我の威厳に慄いて神だと思ってくれた方が気分が良いのじゃがなあ……」


「それは多分、無理なんじゃないかなぁ……」


「うん。そうなるには、あと一億年くらい必要だと思う」


 イナリの言葉は、ハイドラとリズに容赦なく切り捨てられた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >結構魔術学界隈で有名な人なんだけど 無事魔術学界隈で有名な変態にクラスチェンジだ
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