169 逆転移魔法を使ってみよう ※別視点
引き続き、リズ、ウィルディア視点からになります。
リズとウィルディアが再び魔法学校に足を運ぶと、演習場の観覧席へと案内される。
演習場はスタジアムに近い構造の場所で、観覧席には数十名の学者や魔術師、アルテミア魔法学校の学生の姿が見られた。
「何だろうね、先生?」
「さあ、皆目見当がつかない。誰かが座標測定器を破壊したとかじゃないといいが」
「えっ、それは嫌だなあ……やっぱり帰る?」
「それはそれで不審だろう……。それに、よくよく考えればそれで演習場に通されるのも変な話だな。恐らく、何かを見せられるのだろうが……」
二人が適当な空席に座って待っていると、演習場中央にアルテミア魔法学校の学者が数名現れ、口を開く。リズ達と彼らとの距離は離れているが、魔道具によって増幅されているので、しっかりと聞き取れる。
「皆様、急な呼び出しに応じていただきありがとうございます。本来の予定では、昨日の転移術の共有のみとさせていただく予定でしたが、急遽、逆転移術の試運転に立ち会って頂きたく、お呼び出し申し上げました」
「……逆転移術って、以前先生が言ってた、アポートの事?」
「恐らくそうだろうな。昨日はそんな話全くなかったのに、なぜこんな急に……?」
リズが周囲を見渡せば、ウィルディアと同じように不思議そうな表情になっている者も何人か見られた。
「実を言いますと、まだ逆転移術は魔法陣による実行のみで、魔法として運用する方法に関してはまだまだといったところです。それに、もっと最適化できる部分も多々ありますので、本来であれば発表するに足るだけのレベルには到達していません。しかし、それでも皆様を集める必要があるだろうと判断し、今に至るというわけでございます。その詳細は後程お話させていただくとして、まずは実演をご覧いただきます」
司会役が挨拶をしている間に、既に中央には術者と魔法陣が書かれた木の板、そして逆転移の対象になるであろう、それなりの大きさの木箱が準備されていた。
早速杖を持った術者が魔法陣を発動させると、木箱のすぐ横にもう一つの魔法陣が現れる。
そして新しく現れた魔法陣の上に木箱を置くと、魔法陣と同等の大きさの穴が空き、そこに木箱が落ちて魔法陣が消失し、始めからあった魔法陣の上に木箱が現れ、落下して音を立てる。
「……では、逆転移の仕組みについて解説させていただきます。この魔法は、指定した座標に、発動場所へ向けて物を転移させる魔法陣を生み出す魔法です。その場所の指定法については、転移術の際に利用した座標を流用しています。この魔法によって生成した魔法陣は、それと接触することで発動します」
「何か……粗くない?」
「そうだな。どうやら、最初に断ったように、本当に急遽らしい」
解説の言葉を聞いたリズが端的な感想を述べると、ウィルディアもそれに頷く。
「とりあえず、アポート……逆転移か。これってほしい物を取り寄せる魔法っていうイメージだけど、この魔法だと転送したい物に合わせたサイズの魔法陣を作らないといけないし、座標を指定するってことは、欲しい物がある場所を測定しておかないといけないよね。でも、それなら最初から持ってけばいい話だし……。思いつくメリットはせいぜい、持ち物が減らせるとか……?」
「……まあ、それが解消すると、今度は窃盗し放題社会が到来しかねないという恐ろしい話もあるが……ここは議会で詰めるべきところだろうし、今は置いておこう」
「試運転だし、仕方ないことではあるんだけど……ううん、考える程呼ばれた意味が分からないねえ」
周囲を見れば、他の観衆の反応も芳しくない。何なら、既に荷物をまとめ始めている者すらいる始末だ。
しかし司会役の男は、その反応も織り込み済みなのか、特に動揺することもなく、再び口を開く。
「さて、ここからが本題でございます。皆様、今私の隣にある、こちらの魔道具をご覧ください」
彼の隣には、昨日リズ達が試した座標測定器と同じような魔道具が置かれていた。その相違点は、箱のような部分からコードのようなものが伸びているところだ。
「こちらは現在開発中で、この一点限りのため、昨日皆様にお披露目はしなかった、ポインタ式座標測定器のプロトタイプです。従来の物とは違い、こちらのポインタを向けた場所の座標を算出する魔道具です」
「……ふむ、あれは普通に便利だな。実地に行かなくとも座標が取得できるというのは、凄まじいインパクトを与えることだろうね。仕組みも気になるところだ。恐らく光魔術を使っているのだとは思うが……どうやって座標を取得して魔力液晶に出力しているのか……ううむ……リズ君、後で考えてみようか」
「はい、先生」
「この魔道具の計測可能範囲は、正確な部分はまだ計測中です。しかし少なくとも、人間が目視できる範囲まで計測できることは確認しています。そして昨夜から今朝にかけて、我々は夜空に浮かぶ星々の座標を計測できるか実験していました。結果から言えば、ある一点を除いて計測は出来ませんでした」
もったいぶったような話し方をする男に、そこにいる皆が静まり返る。
「そして、その計測できた場所というのが……どうにも、異次元のようなのです。そう判断した理由は、座標の桁数からして、明らかにこの世界に存在しうる座標ではなく、星の座標だとしても不適当であったためです。一度は魔道具の故障かとも思いましたが、その一点以外は正常に計測が可能だったため、不具合ではないと判断しました」
「……何というか、話の流れが読めてきた気がするな。どうにも嫌な予感がする……」
「そして、この異次元の座標がいつまで残っているのかも定かではないので、少しでも早く実験をしたいと考えたのです。……というわけで、我々はこれから、異次元からの逆転移を試みたいと思います。皆様には、異次元との接触に立ち会って頂き、万が一の際には助力をしていただきたいのです。勿論、これは提案であって、強制するものではありませんので、退席して頂いても結構です」
司会の男の言葉に、会場がにわかにざわつきだす。その一方で、ウィルディアは全力で顔を顰める。
「先生、そんな顔しなくても……」
「いやリズ君、よく考えた方が良い。異次元との接触とやらに失敗したならば、それはそれで構わない。しかし、もし成功して、我々が到底敵わないような存在を引きずり出したりしたらどうする?恐らく、ここに招かれた我々に期待されているのは、そういったものに対する対処だ。……はっきり言って、こういった実験は、こんな風に勢いに身を任せてやるような事ではない。もっと十全に準備をしてから、慎重に、万全を期して行うべきことだ」
「……確かに、それはそうかも……」
「それに、帰って良いとは言うが、これでもし劇的な成功を収めたら、今後一生、他の学者から『あれ?異次元との接触に立ち会えなかったウィルディアさんじゃないっすか、何してんすか?』とか言われて煽られ続けるんだ。つまり何が言いたいかというと、これは拒否権があるようでない、卑劣な罠ということだ」
「いや、先生、それは考えすぎじゃないかな。何か昔、嫌な事でもあった……?」
「……失礼、後者についてはやや私情が過ぎたな。とにかく、ここは慎重に判断すべきだ」
「うーん、でもリズは気になるなあ。流石にいきなり超大きい魔法陣を使うわけでも無いだろうし、そんなヤバい物が出てくることは無いと思うし……立ち会ってみたいです、先生」
「……はあ、まあ、君ならそう言うだろうとは思っていたよ。しかし、危険だと判断したらすぐに逃げられるようにしておこう。実験中だろうが何だろうが、私達の命が第一だ。いいね?」
「はい、先生!ありがとうございます!」
会話を終え、二人が演習場の中央へと視線を戻す。ある程度ざわめきが収まったところで、視界の男が進行する。
「……皆様、ご協力ありがとうございます。それでは、早速詠唱を始めたいと思います。長期戦になるとは思いますが、しばらくお待ちください」
司会の男は演習場の中央で作業をする学者たちに混ざっていった。
<アルト視点>
「歪な状態で生成されているマナを取り除いて……よし、これで今日生まれた歪みの対処は終わりですね。休憩休憩!」
私は今、天界で一人、椅子に座って世界の調整をしていました。
歪みというのは、世界生成時が一番多く生まれますが、それ以外でも、勝手に少しずつ生まれていくので、その都度処理していかないと、また歪みが実体化して地上を荒らしてしまうのです。
世界の歪みの対処が終わってからは、地上を狐神様に丸な……一任したのもあって、ものすごく楽させていただいています。適宜地上のミクロな情報も教えて下さるので、天界から一切監視しなくていいのは本当に楽です。
ただ、人間の文明が完全に魔術側に振り切ってしまったのは少々残念ですね。狐神様にどうこうできる問題でもないですし、こればかりは我々神陣営でうまくやっていく他ありませんが。
「さて、今日は何を食べましょうかね……。お、新作のアイスですか。これにしましょうかね」
地球から調達したスマートフォンを使って、地球のコンビニの情報を確認します。最近は人間や機械を使って宅配するシステムなんていうのも流行っているようですが、私の場所まで運べるものなら運んで見ろって感じですね。
ちなみに、何故地球から食事を調達できているのかについては、偏に地球神の厚意のおかげです。どうにも、狐神様を引き受けてくれたお礼だとか。狐神様だけでも十分助けになっているのに、さらにおまけまで付けてくださるなんて、何と慈悲深いことでしょう。
……いや、これが所謂迷惑料的な位置づけなのだろうな、ということはわかりますよ。しかし、狐神様は少々お茶目なところはありますし、権能もやや場所を選ぶものではありますが、とてもいい方ですし、少なくとも、地球神が思っているような方ではないと思うのです。誤解を解くためにも、どうにか三人で会談する機会を作らねば、ですね。
あ、ちなみに、私が使っているスマートフォンに回線が通っているのも地球神の御業です。どうやって時空を跨いで回線を引いているのかという点については、神の成せる技ということでご理解頂きたいところですがね。
ひとまず、先ほど狐神様に稲荷寿司を買うために使った時空ゲートを開いて、稲荷大社跡地に最寄りのコンビニへ行ってきます。
「うーん、商品名は攻めてる割に、ちょっと味が大衆受けを狙いすぎですね……あれ?」
アイスを片手に稲荷大社へ戻ると、何故か時空ゲートがちょっとだけ開いていました。私、ちゃんと閉じましたよね……?
嫌な予感がして慌ててゲートを潜ると、そこには、腕を組んで黒く長い髪を靡かせ、漆黒のドレスを身に纏った地球神の姿が。その口は、明らかにへの字型に曲がっています。
「貴方、どういうつもり?」
「地球神様、こんにちは。え、ええと、どういうつもりとはどういった……?」
「知らないなんて言わせないわ。貴方の世界に私の世界の人間が転移しているのよ?一体どういうつもりなの!?」
「……すぐに確認します。少々お待ちを」
地球神の機嫌を損ねないよう細心の注意を払いつつ、私は慌てて地上の様子を確認します。
……残念ながら、楽をできるのは今日までかもしれませんね。




