2.
冬乃は手にしていた簪を髪に再び添えながら、沖田が書類を幾つか選別しては懐へ仕舞ってゆくのを見つめた。
沖田が、恐らくは土方の密命を受けたのだろうが、芹沢たちの部屋でこんなことをしている理由など冬乃には大方想像がついても、
驚いたのは、沖田が冬乃に見つかっても平然と続けていることだった。
いや、驚いたというより。まるで信頼されているみたいで嬉しさすら。
(沖田様・・・お手伝いしましょうか)
つい、そんなことまで思ってしまって冬乃は、実際どうしたものかと立ち尽くす。
新見がこれまでの目に余る狼藉の咎により、土方達から切腹を申し付けられる日は近い。
その決行日に向け、いま最後の詰めとして、沖田がさらなる証拠となるものを片っ端から集めているのではないだろうか。冬乃はそんなことを一抹の哀感の傍らで考えながら、沖田の悪びれない探索姿をぼんやり眺めて。
「新見局長を糾弾する手はずでね、」
だが不意に、
沖田のほうから打ち明けてきた。
「今夜にでも。局長の座から引きずり下ろす為に」
(あ・・)
いきなり腹を切らせはしないのだ。
局長の立場のままでは外聞も悪い。ゆえに前段階として、身分を剥奪するということか。
いま確かに最終準備が着々と為されてるのだと。
冬乃は理解して。何も言えず。
「・・・」
言葉を発しない冬乃へ、ふと沖田が視線を向けてきた。
彼は目を細め。
冬乃の無言を賢明だ、とでも言うかのようだった。
冬乃は、もしかしたら自分が悲しげな顔でもしてしまっていたのではと、頭の片隅で思い、
彼の目を見ていられずに、逸らした。
八木夫妻の声が、玄関口から不意に聞こえてきたのは、その時だった。




