81.
『あの二人が間者であるということは以前から疑ってましたが、確証は無かった。貴女のおかげです』
戻ってきた沖田に送られて八木家人の部屋まで向かう途中で、沖田が冬乃に話した内容が、布団に入った後も頭の中でこだましている。
あの時、蔵の前で、春井が沖田へ背後からいきなり斬りつけようとした事。新庄が同時に冬乃を口封じに殺そうとした事。
そして、春井を返り討ちにした沖田が、 転んだ冬乃へ二の太刀を降らせていた新庄の背を同じく峰打ちにしたのだった。
二人は間者として隊に入ったものの、いつまでも芳しい収穫もないままで、上から催促を受けて焦っていた。
機会ができたかに見えた今夜、土方の部屋へ機密書類を盗みに入ったが、探している最中に、早めに食事を終えた土方が帰ってきてしまったために、二人は片付けもままならず部屋を飛び出した。
片付けてこなかった以上、盗みが入ったことは気づかれている。誰かが下手人にならなければいけない。
詮索が及ぶを恐れた二人は、間者の疑いがかけられていた冬乃を代わりの下手人に仕立てることにした。
冬乃を人気の無い蔵まで連れ出し、自白の書置きを書かせてから自害したように見せかけようとしたが、冬乃が蔵へゆくことに抵抗したため、とにかく斬捨ててから、蔵にでも運ぼうとした。
だが、二人を探しがてら冬乃が厨房にいるか確かめにきた沖田が、茂吉から二人が冬乃を連れ出したことを聞いて駆けつけたため、二人の計画は狂ってしまった。
もとい冬乃を蔵に引っ張るために適当にでっちあげた話であるから、蔵内に冬乃が密偵である証拠などあるはずもない。
二人どうしようかと当惑しているところに、
少なくとも二人が何らかの嘘をついていると推測していた沖田が、土方の部屋から二人が出てくるところを見た証人達がいるというハッタリを言ったことで、
事実土方の部屋に忍びこんでいた二人のほうは追い詰められてしまい、もはや逃げようとして沖田に背後からいきなり斬り掛けたのだった。




