80.
知らせに走ってきた冬乃を連れて土方は、
土方にとって沖田と同じく身内と呼べる存在である井上を呼びにいくと、その足で沖田の待つ蔵前まで戻り、
気を失っていた春井と新庄を、持ってきた縄で縛り、猿轡をしてから叩き起こした。
(生きてた・・さっきのは峰打ちだったんだ・・)
起き上がる二人を見てほっとした冬乃は、だがそのまま沖田に引きずられて蔵に入ってゆく二人の怯え具合に、すぐに不安になった。
そして、その後いったい沖田と土方が二人に蔵の中で何をしたのか、冬乃は想像したくない。
井上とともに蔵の外で見張りとして立っている間、蔵内から時折こぼれてくる呻き声に、 冬乃の脳裏では拷問という二文字が嫌でも浮かんで、耐え切れず最後には耳を塞いで蹲ってしまった。
ようやく開け放たれた蔵から出てきたのは沖田と土方だけだった。
縋るように目で追った冬乃に一瞬目を合わせてその横を通りすぎた沖田からは、纏った血の臭いがした。
(・・・・っ)
「冬乃さん、」
中に残る春井と新庄はどうなったのかと、恐る恐る蔵の中を覗こうとした冬乃を、すぐに沖田の声が呼び止めた。
「井上さんと厨房に戻ってなさい。後ほど追います。井上さん、宜しくお願いします」
頷く井上に促され、 冬乃は蔵内を確かめ得ることなくその場を後にした。




