77.
(沖田様・・っ)
一体いつのまに来たのだろうか。冬乃は目を丸くして見つめた。
「これは何事だ」
沖田の問いに、
男達は冬乃への先ほどの横柄な態度などかき消し、近づいてくる沖田をどこか怯えたように見上げた。
「・・この女が密偵だと分かったため、・・処罰を・・」
男の返事に、沖田が眉を顰めた。
「そのような勝手な行為が許されると思うのか」
「は・・・申し訳ありません」
冬乃は、次にこちらを見やった沖田を、とくりと鳴った心の音を胸に見つめ返した。
「春井、」
名を呼ばれた男が身を硬くするのを横に、
冬乃は、
沖田から目を離せずに。息を殺した。
春井を呼んでおきながら、冬乃の瞳を見たままの沖田の眼が、
冬乃の心奥までを一瞬に見極めようとするかのようで。
「・・・密偵だと分かった、と言うその証拠は何だ」
つと沖田の眼が冬乃を解放し。
冬乃は息をついた。
春井と呼ばれた男は、沖田が次に自分へと向けてきた眼から逃れるように、目を逸らし。
「証拠は蔵にあります」
と小さく答え。
その横で、冬乃のほうは次の瞬間に、おもわず叫んでいた。
「沖田様っ、この人達が何を言ってるのか、私には全く思い当たりません・・!私は密偵じゃありません、証拠なんて出るはずない」
「嘘をつくな!!」
「そうだ、こっちは見たんだぞっ」
春井が声を張り上げ、
先ほど冬乃に顎を衝かれた男も、取り戻した声で返してくる。
(・・って何なの、マジに?!)
「だったらその証拠とやらを見せてみなさい!!」
あ・・
沖田の前でおもわず勇ましく叫んでしまった冬乃が、顔を赤らめる前、
「蔵へ行く」
沖田が背を見せ、すたすたと蔵のほうへ歩き出した。
ちらりと冬乃を見た春井たちが、どこか焦った表情で沖田の後に続くのへ。
(その様子じゃ・・・やっぱ嘘なんでしょ)
冬乃も後に続きながら、胸中、吐き捨てた。




