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76.
(何それ?)
「あなた達、それでも武士?私が思い通りに動かないからって、怒りに任せて罪のない女を斬ろうとするなんて、人の風上にもおけないね」
「何とでも言えッ!!」
男の振りかぶった刀が、冬乃めざして降ってきた。
────刹那に、
冬乃は頭で考えるよりも、先に体が動いて、かんざしで刀を受け止め──正確には、受け流し──刀をかんざしの脚の内に挟んで、
そのまま刃の表面を滑るようにかんざしを走らせて、刀の鍔元まで来てから、
最後に一足飛びで男の喉前へ跳び込み。
かんざしの丸い先端で、男の顎下を強かに突き上げた。
「──・・ッ」
声が出せず男は、衝かれた顎下のみぞを押さえて、
痛みに呻き数歩、後退さり。
隣の男が今の刹那の間の、冬乃の動きに驚愕して一瞬、動きも無くした後、
はっとしたように目の色を変え。次には激昂して刀を振り上げた、
その時だった。
「そこまでだッ」
腹の底へ響く制止の声に、
男も冬乃もびくりと動きを止めて、声のしたほうを振り返った。




