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75.
冬乃の内に芽生えた闘気に対し、
だが男たちは不意に刀を引いた。
「かんざしを得物にした女と、闘えるか。馬鹿馬鹿しい」
(・・今更そう思えるなら、はじめっから抜かなきゃいいのに)
冬乃は冬乃ですっかり呆れて、
「それなら、私は仕事が残っているので帰ります」
そこを退いて、とばかりに二人を見て返した。
だが。
「帰すとは言っておらぬ」
かんざしを構えた手を下ろした冬乃を見やり、男が今度は大きく上段に刀を構えた。
「そこに直れ!」
(・・・は?)
どうやら男は、自分は冬乃と闘うのではなく、冬乃を一方的に密偵とみて斬り捨てる立場のつもりらしい。
冬乃は今度こそげんなりと二人を見やった。
「私は密偵じゃありませんから、あなた達にハイどうぞと斬られる理由はないんですが」
「おぬしが誰であろうがどうでもいいっ。隊には、後からいくらでも言える、元々密偵の疑いが濃かったのだから、不意に居なくなっても誰も不思議にも思わないだろうからなっ」




