73.
「傷というなら、沖田先生が戸につけた傷があると思うのですけど、」
沖田の名前に、はっと瞠目した二人を見とめながら、冬乃は続けた。
「貴方がたの仰っている傷は、そうではなく内側にあるのですか?」
「そうだ」
まるで繕ったように男が即答するのを、
冬乃は寒々と見返した。
「組の為と思って私を疑ってらっしゃることはお察ししますけど、本当に身におぼえがないのです。どうかもうお許しください。蔵に傷なんて、存じません」
「逃げるのか」
「私は逃げも隠れもしません。せめて明日の朝、蔵に光が入ってその傷がよく見えるときに同行させてください」
「ますます怪しい、火を持って入ればいいだけではないか。」
(ああもう、っつうか、いいかげんにしろ)
冬乃は内心キレかけながら、
「沖田先生にこの件を通してください」
先ほど沖田の名を出した時のぎょっとしたような反応ならば、沖田の名に縋ってみるのもいいかもしれないと、切り出してみると、
「あの証拠を知られていいのか」
「わしらはおぬしの出方によっては証拠を隠滅してやれるのだぞ」
二人同時に口走るように返してきた。
(ようするに、こいつら、沖田様に知られちゃヤバいってことにも取れなくない?)
「私は密偵ではありません。ですから、知られても困りません。どうか、この件、沖田先生を通してください」
男達は完全に、冬乃を説得して同行させるのは不可能と悟ったらしい。
「ならばッ」
おもいきり顔をしかめ、忌々しげに言い放った。
「今ここでおぬしを斬るッ。あの証拠は動かぬものだ!」
(このっ・・・)
「何をもって証拠としてるのか知らないけど、勝手に裁かないでくれる?それとも斬るとか言って脅せば、私が怖がっておとなしく同行するとか思ってないよね?」
「このアマ・・・ッ」
「このバカさんぴん!」
言い返した冬乃に、白刃が降ってきたのはいうまでもない。




