69.
厨房へ入ると、すでにお孝は帰った後のようだった。
冬乃は流しに立って、すでに片付けられていた膳から食器をとって洗いはじめる。
(なんか・・まだ夢のようで)
冬乃は小さく溜息をついた。
隣に沖田が居て、話をして食事をして、
そして、史料を読書本のようにして過ごしてきた冬乃でさえ想像がつかなかった沖田の一面を知ってゆく。
一方で。
沖田の纏う雰囲気は、ずっと想像していた彼のそれと寸分違わぬものだった。いや、良い意味で想像以上に冬乃を圧倒したとはいえ。
沖田は十代の思春期を他家で大人に囲まれて過ごしたことで、
自然に他人や年長者を気遣えて、自他共の感情の扱いに非常に長けていると。冬乃がそう思い描いていたとおりの彼が、
あの穏やかで、よく笑っていて余裕のある物腰から、ありありと感じられる。
それと同時に、猛者としての誇りと、若く溢れるような力強さに満ちていて。
(きっと、だからこその、あの綺麗な目)
冬乃は、沖田に最初に出逢ったときの、覗き込んできた澄んだ瞳を思い出していた。
そして、彼の褐色の肌と、精悍な顔立ちを。
一説にヒラメ顔だったとも噂される彼だけに。たしかにヒラメのあの、体に比べて小さい顔に、きりっとした面構えからは言われてみれば似てなくもない、と・・




