66.
冬乃の師匠もそうだが、剣の道を究めてゆく過程で身に帯びてゆく、独特の雰囲気というのがある。
近藤も沖田も、剣を手にしていない時でさえ、それを纏い、存在そのものでまわりを圧倒できてしまう。
同じ剣の道を歩んできた冬乃にとって、それは憧れだった。
そして、この幕末の時代には、そんな男たちが多くいるのだと。
(ほんとに、かっこいい・・)
冬乃はそんな想いを感じて、
ふと、
これから時代がさらに進み、混沌の渦へと堕ちた時、
そんな男たちの多くが命をおとすのだと不意に。そんな知っていたくもない事が胸に急襲して冬乃は、いたたまれない苦しさに俯いた。
───そう、
(あと五年で沖田様は・・・・)
冬乃は思考を止め。
顔を上げた。
(たった五年。でも、それでもまだ、ずっと先の事だから。・・)
考えるなと────
顔を上げた先で、
楽しそうに会話しながら食事をしている隊士達と目が合い、冬乃はとっさに目礼し微笑んだ。
目の端に、新見の姿が見える。
・・・彼の命が、残り少ないことも冬乃は知っている。
「冬乃さん」
「はいっ・・」
突然、隣から掛けられた沖田の声に冬乃ははっとして振り返った。
「山南さんともまだ会ってませんでしたね」
そう言った沖田の斜め背後、
いつのまに来ていたのか男が立っていた。
「組のもう一人の副長、山南敬介先生です」
「初めまして」
穏やかに微笑した優しげな顔を、冬乃は慌てて箸を置きながら見上げた。
(この方が山南様)
「初めまして、冬乃と申します。宜しくお願い致します」
───山南の纏う雰囲気もまた、剣を修めた者のそれで。
山南も、近藤も沖田も。
向こうに居る芹沢も新見も、そして今ここに居ない土方も藤堂も、皆、
(この人たちは本当に、すごい)
剣豪が集まっている、その密度の濃さ。
のちに新選組が、泣く子も黙ると恐れられるまでに強大な組織になるのが今から目に見えるように。




