59.
「沖田様、ほんとうに有難うございました・・!」
別れ際、深々と頭を下げる冬乃に、
「どういたしまして。そうしたら急いで着替えておいで」
と沖田のほうは返事を返し、
それへ顔を上げた冬乃の手に、荷物を渡してきた。
畏まって受け取り、もういちど礼をして部屋へと戻る間、冬乃はもう心じゅうで踊っていて。
(しあわせーーー!!!)
叫んでもいた。
沖田に着物を買ってもらって、そのうえ彼は当然のように帰り道、荷物を持ってくれて、これを幸せといわず何というの勢いで冬乃は舞い上がってしまっているのだった。
とはいえ心浮かれつつも大急ぎで仕事着に着替えた冬乃は、
さすがに仕事着は略装だし拘らないにしても、帷子のほうは果たして自分で着付けできるだろうかと心配になる。
剣道をやってきているのでむしろ得意、というか当然にできてしまうのは袴の着付けのほう、
なのだから全くもってこの時代の女性らしくないというか・・・
(いや、もともとこの時代の女性じゃないけどさ。なりたいよね、やっぱ)
着付けくらい習っておくんだったと、今ごろ後悔しつつ冬乃は、
それでもこうして生活の最低必需品が揃ったことで、ただそれだけの事でも、この時代でやっていける自信をさらにいま感じていた。
だが、やっていけるかも、と思える、その基の最大の支えは。
傍でこうして面倒を見てくれる人が居るから、で。
(沖田様、有難うございます)
本当に信じてくれているかどうか、まだ分からない。だけどもう、無下にしないでいてくれる。
ありがたすぎるくらいだと冬乃は思う。
(がんばろう)
冬乃は一呼吸つくと、部屋の障子を開け出て。
仕事先の厨房へと向かった。




