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58.



 (きれい・・・)


 沖田の立ち止まった店の前、

 冬乃が遠慮がちに横へ並んで覗いた、その店の内には。先にいたお客さんへ展示していた後らしく、冬乃の好きな日本独特の色調で色とりどりに美しく並べられた太物や帯が並び。

 冬乃は吸い寄せられるように見つめていた。


 「入る?」

 あまりに魂をとられたように凝視している隣の冬乃を横に見おろして、沖田が微笑った。


 「っ・・はい」

 はっとして返事をした冬乃が顔をもたげる前、沖田が暖簾を上げて入ってゆく。


 店の番頭が揉み手でやってきて、それから冬乃が稽古着を着て、下ろし髪でいる姿に一瞬ぎょっとしたような目をしたが、

 隣の沖田の着こなしが品のある涼しげなさまで、未だ若いのにどっしり落ち着き払っている様子に、安心したように「おいでやす」と愛想笑いを向けた。


 だが冬乃はどれを選んでいいのかわからず、沖田を見上げた。


 「好きなものを」

 選んでいい、と。

 こちらがどきりとするほどに、あいかわらず低く穏やかなその声が優しく、冬乃の背を押し。



 店まで来る途中に、冬乃は前借りというかたちで、と願い出た。これ以上の迷惑をかけたくないのだ。

 だが沖田はとり合わず、どうやら冬乃のために買ってくれるような様子で、 冬乃はすっかり恐縮していたところで。


 目の前に並ぶ太物はどれも絹仕立てのようにつやがあり、高価にみえる。


 (いくらするのか分からない)

 使用人としての雀の涙の給金のうちでは、いつまでたっても返せないくらい高いのかもしれず。



 「少し急いで。まだ寄るところがある」

 そんなこんなで目移りしている冬乃に、沖田がたまりかねたのか耳打ちしてきた。


 (っ・・)

 店の者を気遣い、他にも寄る店があるとは知らせぬべく耳元で囁かれた冬乃のほうは、飛び上がった心臓を押えつけるのに一苦労しながら、


 「そうしたら、これでお願いします・・」

 店に入った時から惹かれていたその太物を指さすと、

 「帯も」

 巾着も、

 と次々と一式を揃えるよう沖田に言われ、

 もはや番頭の見立てに任せるような状態で、冬乃は目の前に並べられてゆく色とりどりに呆然とした。



 全てまとめて仕立て後に届けてもらうようにして、冬乃と沖田が漸くその店を出た頃には、茂吉との約束の時間がだいぶ迫っており。


 二人、駆け込むようにして入った次の店は、先程の太物屋とは違ってすでに仕立てられた着物が用意された、こざっぱりとした古着屋だった。

 そこで帷子、上掛けと寝衣、襦袢、履物、作業着など一通りを買い求めた冬乃たちは、そうして慌てて屯所へと戻ってきた。



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