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55.
「冬乃さん」
(・・・あ)
あまりに目立っていたらしい。
結局、沖田のほうが冬乃を見つけて声をかけてきた。
「一通り、仕事の概要は掴みましたか」
「はい・・」
冬乃は沖田の穏やかな低い声を耳に、心がほっと落ち着くのをおぼえ。
秋の夕時の風がさわさわと過ぎてゆくなか、
涼しそうな薄い灰色の袴に帯刀姿の沖田を、あいかわらずうっとり見上げながら冬乃は、
「お願いが、あるんです」
尋ねようと思っていたことを、切り出した。
「身のまわりの物を、揃えたいんです。たとえば他に着るもの・・」
「ああ、」
お金を前借したいと、最後まで冬乃が言うまでもなく沖田が分かった様子で頷いた。
「・・仕事着もありませんね?」
時間があるか、と立て続けに聞いてきた沖田へ、冬乃は確証なく首をかしげた。
「食事の支度を始めるまで一時ならあります・・」
「十分です。出ましょう」
(・・・て、マジ)
どうやら彼と“ショッピング” に行ける展開に。
冬乃は内心飛び上がりたい想いで、
大きな背を向け歩き出す彼のあとに、続いた。




