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53.


 「・・・」



 冬乃はぶるりと身震いして、脳裏に浮かんだ想像を蹴散らすように頭をふった。


 (考えるのはよしな)



 運命、


 この先どうなっていっても。



 (もう私がなんとかできるハンイなんか、どうせ越してるし)




 この世界に来たと実感した瞬間から、感じていた。



 ───運命だと



 なぜ逢ったこともなかった昔の人に恋をして、


 なぜ今の今まで彼しか愛せずに、



 なぜ、


 こんな奇跡を得ることができたのか、



 その答えが。



 そうなるべくして成ったことだからだと。




 (・・・そうやって、信じて)



 この先もなるようになってゆくのに任せて、いけばいい。



 もうすでに決められた道を歩いているんだと、


 だから、



 (この先どうなろうと受け入れられるね、冬乃。)






 「冬乃はん!」


 (っわ)


 不意の茂吉の呼びかけに、冬乃はぎょっと顔を上げた。



 「何ぼーとしてん。夕餉の支度にかかる時までに、その稽古着みたいな服、着替えてきておくんなせ」



 (・・・は、着替え・・??)


 もってたっけ?


 いや、着の身着のままで来たのに、代えなんか持ってきてるはずがなく。



 「すみません・・。着替えは持っていません」


 「その服以外、何も持ってへん言うんか」


 あいかわらずの早口で、冬乃の返事をおうむ返した茂吉に、

冬乃は畏まって頷いた。


 訝しげに眉をひそめる茂吉の顔には『使用人として働きにきたくせに作業用の着物ひとつ持ってこないとは何事だ』としっかり描いてある。


 どうやら早口弾丸トークと同時に、さすがというか、使用人の長として模範になる心構えの持ち主でもあるらしい。



 (て、分析してる場合じゃなくて)


 「あの、借りれませんでしょうか?」

 作業着を。


 尋ねた冬乃に、だが茂吉はまさかとばかりに首をふった。


 「人の分まで余分に持てるんやったら、こないとこに雇われてへんわ」


 「・・・」


 新選組の東男達は、京の人々には押しかけてきた厄介者だ。そんな京の余所者嫌いを感じさせる台詞を吐いて茂吉は、諦めた様子で腕を組んだ。


 「しゃあないわ、そのままでも構わへん」



 すみません、とぺこりと返しながら、

 冬乃も困って溜息をついた。



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