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51.




 「では八木さんところへ挨拶に行きましょうか」

 

 冬乃の元へ帰ってきた沖田が、そう言って微笑んで。

 

 冬乃は、漸く向けられるようになったその微笑みに、胸をどきどきさせながら、

 こくんと頷いて。彼を見上げた、

 

 その時。

 「何故未来から来たのです」

 

 「え」

 突然に、核心を突かれて冬乃は息を呑んだ。

 

 「・・・・」

 

 (沖田様・・・)

 


 貴方に、

 

 逢いたいと

 


 「・・・来たいと、祈願して来たのです」

 

 「来たいと祈願すれば来れるのですか、未来の世からは」

 

 貴方に、

 

 「ち、違います」

 

 逢いたいと願い。

 

 「こんなこと普通、ありえません」

 


 祈って。でももうとっくに、諦めていたのに。

 


 「では貴女は奇跡を起こしたと・・・?」

 

 沖田が興味深そうに覗き込んでくるのへ。

 

 冬乃ははっとして見つめ返した。

 


 (奇跡・・・)

 


 「・・はい」

 


 この人に、逢えたこと、

 

 こうして、この人の傍に居場所をえたことは。

 

 (・・・そう、)

 


 「奇跡」

 

 沖田が確かめるように繰り返し呟き。

 

 「祈願したわけは、何です?」

 


 「それは、」

 

 更なる問いに、冬乃は言葉に詰まった。

 

 「・・・・」

 

 (まさか言えるわけない、貴方に逢いたかったなんて・・・)

 

 出逢っていきなりそんな告白ができるわけはなく。

 

 俯いてしまった冬乃に、

 

 だが、沖田は微笑った。

 

 「言えないならいいですよ」

 そう言うと、冬乃を促すように歩きだし。

 

 冬乃は後に続きながら、沖田の広い背をそっと見上げた。

 

 「冬乃さん、」

 

 その背がふりかえらずに冬乃を呼ぶ。

 

 「貴女が八木さんの家に滞在できるかどうかは、あくまで八木さんのご意向次第です。組としては女性の貴女を置くには使用人としてでなくてはいけなくなりますから、八木さんが快諾してくれることを願いたいところですが」

 

 「?」

 

 “使用人としてでなくてはいけなくなる”・・って、つまり、

 

 「私が何もしなくてもいいように八木さんの家に、と・・?」

 

 「もしそれが叶うならそれに越したことはないでしょう?」

 

 「で、でもそれじゃ」

 

 (なんだかすごく申し訳ない気が)

 

 「組のほうに、」

 冬乃は口走るように言った。

 

 「組のほうに置いてください・・何か、使用人でいいんです、できることをさせてください」

 

 沖田が立ち止まり、振り返って。

 

 その表情に、少し驚いたような色が浮かび。

 

 「使用人の仕事は大変ですよ?いいのですか」

 

 (それでもいい)

 

 「はい、全く構いません。置いていただけるだけでも嬉しいのに」

 

 (貴方の傍に、居られるだけで)

 

 こんなに幸せなことはないんです。

 


 沖田が、感心したように瞠目した。

 

 それからすぐ微笑って、わかりました、と頷いた。

 

 「使用人の部屋を案内しましょう」

 

 「はい!」

 

 冬乃は胸を躍らせて頷き返した。





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