表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/372

37.



 「・・・千秋?」

 

 起き上がっている冬乃を見て、慌てて駆け寄ってきたその姿に。

 

 冬乃はここが何処であるかを、はっきりと知った。

 


 「気がついたんだ・・!!よかった・・冬乃、いきなり倒れたの覚えてる?!」

 

 「倒れた・・」

 「そぉだよ!」

 

 「これまでにも倒れたことはある?」

 白衣の男が追わせてきた問いに、冬乃はふたたび首をふった。

 

 「冬乃さんには外傷も脈の乱れなども無いので、極度の疲労が原因だと思う。ゆっくり休ませてあげて」

 「あ、はい。ありがとうございました!」

 白衣の男へと千秋が礼をする。

 

 「・・と、冬乃、わたし真弓よんでくんね」

 手にしていた洗面器を置いて、千秋は扉のほうへ引き返し。

 

 「冬乃のお母さんに何度電話しても通じなくて、真弓がさ、冬乃のお師匠さんをいま代わりに探しにいってんだけど・・もう必要ないよね」

 

 千秋は言い終わるや慌しく出て行った。

 


 白衣の男が、聴診器や体温計を適切な引き出しにしまってゆくのを冬乃はぼんやりと眺めた。

 

 「じゃ、俺はこれで」

 

 ここの医務室勤めの研修生といったところだろうか。

 

 彼は、冬乃のベッドわきまで戻ってきた。

 

 「何かあったら俺のケータイにかけて。まだ暫く、下の大会場で後片付けしてるから」

 

 「はい・・」

 

 番号のメモを渡され、冬乃はぺこりと会釈する。

 


 (消えてたんじゃ、なかったんだ・・)

 

 ドアの向こうに去ってゆく彼の背を見送りながら、

 冬乃は溢れてくる安堵感に深く胸を撫で下ろした。

 

 自分がこの世界で霧のように掻き消えたのだと、

 思っていたのに、自分は確かに、此処にきちんと存在しているのだ。

 

 (よかった・・・)

 

 込み上げる安堵のなか、だが同時に、冬乃は迫るような虚無感をおぼえた。



 (沖田様)

 

 心に想い浮かぶのは、目に焼きついている彼の姿。

 

 ・・・あの彼は、夢?

 

 

 (まさか)

 

 そんなはずがない。

 

 彼も、あの世界も、決して夢なんかじゃ・・・

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ