表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/372

34.



 「まだ俺の質問に答えてない」

 

 「あ、」

 不意に落とされた土方の言葉に、冬乃は顔を上げた。

 

 「質問、何でしたっけ?」


 「何ゆえ、中将様から名を頂戴することになるんだ」

 


 ・・・冬乃はおもわず押し黙った。

 

 (やば・・)

 それにきちんと答えるには。いずれにせよ政変の件を話さなければならない。

 

 なぜにも彼らが『新選組』の冠をもらうのは、政変においての功労ゆえで。

 

 「・・・」

 

 

 土方は賢い人だったといわれる。

 

 (その通り・・)

 

 咄嗟に要点を嗅ぎ分けて質問してくるとは、さすがだ。

 


 「・・・何のきっかけだったか詳しくは忘れました、でも、頂くのは確かです」

 

 (こ、これじゃダメかな)

 

 「忘れただと・・?」


 「はい、忘れました。だって未来の人間だからって、細かいことまで逐一知って覚えてるわけじゃないんですから」

 

 「・・だからって、」

 「もしも、です、」

 何か言おうとした土方を遮り冬乃はなおも続ける。

 

 「土方様が、源平の合戦の頃に飛んでしまったとして、そこで明日起こることを質問されたら全て答えられますか?」

 


 「一理ある!!」

 (わ)

 

 突然、轟いた声にぎょっとして、冬乃たちはそのほうを向いた。

 

 そこに空になったおひつを抱えて原田が、こちらのほうをキラキラ光る瞳で見つめている。

 

 「源平合戦かあ!」

 

 原田が夢でも見るような表情で叫んだ。

 

 「そんな頃に俺も、一目見に行ってみてえなあ!」

 

 「原田!話を拗らすな。この女が本当に未来から来たとでも思うか」

 「いいじゃねえかよ!信じてやろうぜえ、俺だって源平ん時に行ってみてえもん!」

 「~~」

 

 (原田様って面白い・・)

 

 冬乃が夕餉の席についたとき、藤堂が彼を「原田さん」と呼ぶのを聞いて、冬乃はこの色白の、豪快な眉毛を持つ男が原田左之助だと知ったが。

 

 彼は食事中、ほぼ一言も話さなかったので、てっきり寡黙な人なのだと思っていた。

 

 だがどうも今の彼を見ていると、今まで話さなかったのは、単に食事に夢中だったためと思われる。

 


 「女、」

 つと芹沢が扇子の先を冬乃へ向けた。

 

 「明日まで待ってやる。本当にその何かとやらのきっかけが明日あって、中将様から名を頂戴することになれば、めでたく信じてやろうじゃないか」

 

 「どうだか」

 フンと土方が鼻で笑った。

 

 「頂戴しなければ、そのまま牢獄送りだ。言っておくが、逃げようなんて考えるなよ。屯所の周りは常、見張りが夜通し警備している。おまえを見かけたらその場で斬り捨てるよう伝えておくからな」


 (鬼~~!!)

 目を丸くした冬乃にぎらりと睨みをくれて、土方は障子を開けて出て行った。

 

 「良かったね」

 

 (へ?)

 不意に横から届いた藤堂の言葉に、冬乃はふりむいた。

 

 「良かった・・ですか?」

 「うん。このぶんなら、今夜は八木さんの所で寝かせてもらえると思うよ」

 藤堂がにっこりと微笑う。

 

 (八木さんとこ?)

 

 八木さんとは、彼らに家つまり八木邸の一部、いや殆どを貸している主人と家族だ。

 

 そこで今夜は寝かせてもらえるのだろうか。


 冬乃はほっと胸を撫で下ろし。

 

 (沖田様)

 

 明日を当ててみるよう冬乃に提案したきり、今までほぼ一言も発しなかった隣の沖田を、冬乃はそっと見上げた。

 

 その視界で、沖田が刀を掴んで立ち上がり。

 

 「さて、そうしたら八木さんに頼みにいきますか」

 「え」

 「うん、行こう行こう」

 立ち上がる藤堂に続いて、冬乃も慌てて立ち上がった。

 





 涼やかな風が、廊下を歩む三人を掠めてゆく。

 

 (助けて、くださったんですか・・?・・)

 

 冬乃は前をゆく沖田の後ろに従いながら。ふと、

 彼の提案があったおかげで、明日までの猶予を得たことに気づいた。

 


 思えば、こうして何だかんだで面倒も見てくれている。


 (・・ありがとうございます、沖田様)

 

 彼の広い後ろ背へ、冬乃はそっと頭を下げた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ