32.
「どうやら、嘘でさえも思いつかないようだな」
痺れを切らした土方が、手にしていた茶を置いて立ち上がった。
「総司。やっぱりこんな怪しいヤツは当分、蔵に閉じ込めておけ。俺は戻る」
「どこへ?」
沖田の問いに、土方は眉間に皺を寄せたままの面で振り返り。
「部屋だよ。これ以上、つきあってられるか。考えなきゃいけねえ事が山ほどあるってのに」
「土方君、なにを今更考える事柄がある」
不意に、今まで芹沢の隣で黙っていた男が声をあげた。
「我々は先達て各々の役職も決めた。これ以上、いったい何がご不満だ?」
「・・新見殿。お言葉ですが、なにも不満というわけではありません。それに役職のことではない。」
「・・では、名前か」
新見と呼ばれた男の目が、鋭く細まった。
「芹沢先生の名づけた名では、そんなに気にいらないと仰るか」
「気にいらないわけではないが、気にいっているわけでもありませんな」
「このっ・・」
立ったまま高飛車に返した土方に、新見が目を剥いたところへ、
「まあ良い、新見」
横で芹沢がやんわりと制した。
「我々の顔となる名だ。いずれ、もっと良い名を冠することに異議は無い」
だが、
と芹沢の、人を圧する面が、土方に向けられた。
「そうと言えども、土方君ひとりに決めてもらうわけにもいかぬ。ここは皆で意見を出し合って決めよう」
(名って、・・・?)
彼らは何の話をしているのだろう。
冬乃は首を傾げていた。
” 我々の顔となる名だ ”
顔となる名って、
(隊名か何か?・・・あっ!!)




