26.
夕餉の席で。
沖田のすぐ隣に座る冬乃に対し、皆の視線が穴のあきそうなほどに刺さっていた。
(蔵で食べたほうがまだマシだったかも・・)
冬乃は先程から縮こまっている。
だがそれ以上に。
すぐ隣に沖田がいることが、たとえ監視のための同席にせよ、かなりの幸せで。
心臓が、ともあれ、
やかましい。
「おい、女」
不意に聞こえたその声に冬乃は、夢見心地に彷徨っていた意識を、はっと戻した。
「おまえは何で稽古着など着ている」
見れば、向かいに座る芹沢が、その威圧のある面構えでこちらを睨んでいる。
いや、睨んでいるつもりはないのだろうが、他に形容しようがない。
(何で、って・・)
冬乃は芹沢のいかつい面を見返しつつ、内心、首を傾げた。
ここに来るときまで剣道の試合をしていたからだ、などと答えれば、果たして皆はどう反応するのだろう。
(これって千葉さなこサンみたいなカンジ?)
この時代でも冬乃が思いつく限り、北辰一刀流千葉道場の彼女や、坂本竜馬の姉おとめなど、女でも剣術で鍛錬を積んでいる人は一応いる。
なにも鍛錬を積んでいるとまで言わずとも、護身のために剣をたしなんでいるというくらいならば、何とか、ありえなくはない。
だけど。
と冬乃は、ふと思う。
ただでさえ、密偵だなどと疑われているさなかである以上は、どうであれ怪しいではないか、と。
(どう言おう?)




