81.
天狗党の第一回の処刑の報は、会津の伝令からもたらされた。
組はその報で持ちきりだった。
江戸での藤堂の仲介で、組へ入隊したばかりの、伊東とその門下の一派からは、笑みが消えて、
彼らの生気を欠いた表情は、
山南の表情にも、また垣間見れた。それでも彼の場合は、試衛館以来の仲間の前では無理に微笑っているさまが、冬乃の目には痛ましく映った。
同時に、冬乃には、
こんな山南の辛苦と、この先の彼の運命など到底、止めることはできないで終わるのではないかと。無力感に打ちひしがれ。冬乃は、
それならば残る方法は、ひとつしかないことに、それでも方法が残っていることに、
己の中で希望を失わないようにするべく。まだ大丈夫だと。何度も自身に言い聞かせ。
そのさなか、
山南の様子がおかしい、それを土方たちが気づかないはずもなく。
会津の早馬の伝令が第二回、三回目の処刑の報を知らせてきた後、それはもはや如実に表れ、
その夜ついに土方は、山南に切り出した。
「山南さん、何か悩んでる事があるんじゃねえか」
その声は、襖を超えて冬乃の元にも届いた。
隣のその部屋には、近藤、沖田も今いるはずだ。
冬乃は、息を殺して耳を傾けた。
「何も、悩んでなんていないよ」
山南の無理に明るい声が返り。
「ただ少し・・疲れたかな・・」
命を奪い合う、この世界に。
小さく聞こえた山南の言葉は、冬乃の心奥に、静かに墜ちていった。
(命を奪い合う)
それが、天狗党の処刑の遥か前より。山南の心に、鬱積してきた哀痛だったのだと。
芹沢の暗殺に始まり。手段が違えど国を憂う志は同じはずの浪士達と、時に血で血を洗う軋轢を、
前線で幾たびも重ねてきた新選組に、その身を置いた侭に。
「人の世は、・・如何して、こうも残酷なのだろうね・・」
「ああ。・・如何してなんだろうな」
土方の声が、追った。
このとき、もしも何か慰めの言葉をかけていたなら。
山南の心は変わっていただろうか。のちに土方達が、何も言えなかったことを悔やんだかもしれないそのやりとりも、だが、
おそらくすでにこの時点で、山南の心は決まっていて。抗うすべなど無かったのかもしれない。
それから数日後。
山南は、組を脱した。




