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78.

 

 着替えを終えて沖田に褞袍を返し、冬乃は外に出た。

 

 冬もあと少しで終わりとはいえ、まだまだ凍てつく寒気に身を縮こませ、淡い日差しの中を厨房へと向かう。

 

 茂吉たちに、これまた恒例の挨拶をして、さっそく昼餉の支度に加わりながら、

 冬乃の思考は早くも手元の調理から逸脱し、統真の謎について向かっていた。

 

 

 (やっぱりわからない)

 どんな因縁があって、彼が冬乃にタイムスリップを引き起こすのか皆目見当がつかないのだ。

 そもそも統真本人が、この状況を知っている様子も無い。

 

 何か本人すら預り知らぬ特殊能力でも備えているのだろうか、と、もはやSFもびっくりな現象に笑ってしまいそうになる思考の中で冬乃は、

 (とはいっても)

 同時に唸る。

 

 彼が傍にきた瞬間にタイムスリップが発動することは明白となった今、

 次は、彼にむしろ冬乃に会いに来ないように、何らかの方法でお願いするしかなくなるではないか。

 

 (でなきゃ、毎回ここに長居できないまま・・)

 

 だが、医者の卵として、冬乃のことをあれこれ心配して乗り掛かった舟だとばかりに責任感すらもって訪ねてくれる彼に、会いに来るなというのも失礼極まりなく。

 

 

 現状、冬乃のもっぱらの心配は、いま山南の件が落ち着く前に、また平成へ帰されてしまわないかということだった。

 

 失礼な祈りにはなるが、今は未だ平成の冬乃に彼がまた会いに来ないことを祈るより他ない。

 

 

 

 

 

 茂吉に指示された用意すべき食事の量は、前回いた時と比べてかなり増えていて、

 冬乃は、近藤たちが江戸から連れて来た、そして同時期に大阪でも集われた新入隊士の人数が加わっているのだと思い出した。

 

 

 案の定、広間にやっと大量の膳を並べ終えた頃に入ってきた隊士達の中には、全く初見の人も多く。

 

 隊士のほうも、初見の冬乃の存在に驚いているようだ。

 もっとも顔見知りの隊士たちも、久しぶりの冬乃の登場に、驚いたように会釈を送ってきてくれて。


 そうこうするうちに沖田が入ってきて、冬乃をあたりまえのように自分の隣へと手招いてくれた。

 

 それだけで十分すぎるほどほっとした冬乃だが、そっと座りながら、

 こうして傍には居させてくれても、心の距離は遠く保ったような態度をまたきっとされてしまうのだろう、と心のなかで項垂れる。

 

 いや、考えてみれば、冬乃にとっては未だ一日と経っていなくても、沖田にとっては四ヶ月以上も経っているのだから、

 とっくに冬乃の沖田への恋情云々など忘れているかもしれないと、寂しい想い半分、あんな台詞は忘れていてほしい想い半分で小さく溜息をつく。

 

 

 各々に食事を始める中、近藤と土方がまだ帰っていないのを目の端に、冬乃は椀の蓋を開けた。

 沖田が隣の斎藤に話かけている横で、冬乃は静かに味噌汁を啜る。

 

 向かいの並びに座す山野からも恒例の視線を感じるが、先程一度だけ目礼して、あとはあえて視線を合わせないでいる冬乃に、

 「冬乃さん、ここいいかな」

 話しかけてきたのは、意外にも山南だった。

 

 「教えてほしいことがあるんだ」

 

 横に膳ごと座すなり、切り出してきた山南に、冬乃は箸を止める。

 

 「はい・・」

 

 「天狗党のことは、未来に記録があるのかな」

 

 

 

 冬乃は。息を呑んで山南の目を見返した。 

 

 

  

    

 

 

 

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