18.
よかった・・・戻れる
「総司ィィィィィィィ!!」
屯所離れに。土方の絶叫が鳴り響いた。
今しがた土方と別れて離れを出たばかりの沖田は、
その声に驚いて振り返り。
「どうしたの」
急ぎ引き返して来た沖田の、目に、映ったものは。
「この女ッ、つまみだせ!!」
ほとんど、素っ裸で。
例の如く文机に躓いている、冬乃で。
「なんだってまた今回は・・すごいな」
さすがに瞠目して動きが止まった沖田に、
「早く連れてけッ!!」
土方が外を指し示しながら叫ぶ。
沖田はしかたなく自分の羽織を脱いで、冬乃へ近づき、
仰向けに起こしざま羽織を被せ、両腕に抱き上げた。
「ったく、こいつはいったい、何なんだ!?」
土方はキレている。
当たり前だ。部屋へ帰ってきたら、
また断りなく行方を眩ませていた冬乃が、またしても土方の部屋で今度はよりによって、とんでもない姿で倒れてたのだから。
「ん・・」
そんな事態も知らず。沖田の腕の中で、冬乃が何故か幸せそうな笑みを浮かべて小さく身じろぎした。
何か楽しい夢でも見ているのだろうか。
(呑気だなあ)
冬乃を見下ろして沖田は失笑する。それにしても、このまま屯所を横断するわけにもいかないだろう。
沖田はひとまず女使用人部屋へ運ぶことにした。
「そいつが目覚ましたら、服着せてもう一回連れてこいッ」
「了解」
飛んできた土方の命令を背に、沖田は小庭へ出た。
この匂い。
爽やかな。あのとき感じた、
(沖田様の・・)
冬乃はうっとりと溜息をついて。
(なんか温かい)
ここは・・・?
そう思った刹那、背にひんやりと受けた感触に。
冬乃は目を見開いた、
すぐ目の前に。
沖田の顔があった。
(え)
沖田も驚いた様子で一瞬目を見開いて。
「・・起きましたか」
その言葉に冬乃は目を瞬かせた、
同時に、
首肩と膝裏から、温かな硬い感触が抜き去られたのを感じて。
視界の端にも映ったその動きで、それが沖田の両腕であった事と、
畳の上に寝かされたのだという事と、
そして。
自分が今、肩から胸前を剥き出しにして、羽織一枚の下に居る、という事に。
・・気づいて。
「きゃああぁ・・ンッ!!」
叫びかけた冬乃の口は、咄嗟に沖田に塞がれた。
「落ち着いて」
騒がないで。
沖田が冬乃の口元をその大きい手で塞いだまま、囁く。
冬乃は、状況が読めず、目を白黒させて。
(どういうこと)
必死に記憶を辿った。
あの時、千秋が叫んで、そしたら霧が目の前を覆って・・
幕末に戻れるんだと。
でも目を開けたら、
(なんで、裸??)
向こうで冬乃は下着を外していた。目の前に急速に広がった霧に驚いて、両目を擦ろうとして膝上に下着を落としたことも思い出す。
つまり、あの時、冬乃は下着を着けなおしてはいなかった。
(そのままで、ここへ戻ってきたから、)
裸のまま、ていうこと・・?!
呆然と固まった冬乃に、沖田が、落ち着いたと思ったのかその手を退かして。
冬乃を見下ろしたまま微笑んだ。
「おかえり」
と。




