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7.



 (だから。今は考えちゃだめだ)

 

 何度目になるかわからないその言葉を。

 冬乃は己に言い聞かせる。

 

 

 歓談の波が大きくなる頃。

 そして冬乃は、五人へ白米と味噌汁を装うため、そっと席を立った。

 

 

 

  

 

 

 



 冬乃は溜息をついた。

 

 波乱の夕餉も無事お開きとなり、厨房で片付けを終えた後、茂吉と明朝のしたくについて意識合わせをしてから外へと出たところで、

 

 昼間に顔を合わせたばかりの山野が、立っていたからだ。


 そういえば夕餉の席でも一瞬見かけたようなおぼえがあるが、それどころじゃなかったので挨拶も交わしていない。

 

 (ていうか何故ここに)

 

 「・・今夜はあけません、とお伝えしたはずですが」

 

 顔を見るなり言い放った状態の冬乃に、

 山野がにやりと笑った。

 

 「ちげえよ。それについては追々。今は、ちょいとサラシをわけてほしいの」

 

 「サラシ?」

 追々とはどういうことだと訝りながらも、サラシと言われて冬乃は、気になって聞き返していた。

 

 「ああ。俺の友垣に中村ってやつがいるんだが、そいつ先日の捕り物で怪我しててな。サラシを替えてやろうとしたらもう手持ちが無いんだ。予備の類いは女側の使用人部屋に置いてあるんだが、さすがに勝手に入るのも、と思ってさ」

 

 「そういうことでしたら」

 サラシは包帯として使われる。

 冬乃は、頷いて、冬乃とお孝のために用意されているその使用人部屋へと足を向けた。

 どちらにしても一度、部屋へ寄って小物を片付けるつもりだったので帰り道だ。

 

 (割と友達おもいなんだ?)

 横並びに行きながら、冬乃は隣の優男をちらりと見やる。

 すぐに視線に気づいたのか山野が、顔を向けてきた。

 

 「おまえ、・・こうして並ぶと俺と背、変わらないな。女にしては背あるよな」

 

 そのまんざらでもなさそうな声に、冬乃が少し首を傾げた先で。

 「細っこくて背の高い女、嫌いじゃないよ」

 と山野が口角を上げる。

 

 

 (・・平成では、普通サイズなんだけどな)

 

 「背高い女みると、征服欲ってやつ?燃えるんだよね」


 「・・・・」

 

 (マジ変な男)

 あいかわらずな山野に、そして冬乃は返事も面倒になって前へ向き直った。

 

 

 「で、おまえの想い人って誰」

 

 そこにまたも直球の問いが飛んできて、

 冬乃はもはや失笑して。

 

 「言うわけないじゃないですか」

 

 おもわず答えてしまった冬乃に、

 「そりゃそうだよな」

 山野が笑い返してきた。

 

 

 その、可愛いとしか形容できないほどの愛らしい笑顔に、不覚にもうろたえた冬乃に、

 

 山野が、昼間の時のようにまた不意に手を伸ばした。

 

 今度は避けようと体を引いた冬乃の、

 仕事の後で、片方の胸前へひとつにまとめて流したままの髪へと、

 山野の手のほうが先に届いて。

 なおも体を引いた冬乃から、山野の指に絡められた長い髪が梳かれて、さらさらと宙をなびいた。

 

 「俺、おまえを落とす」

 

 そして、あろうことか。

 とんでもない宣言が、投げつけられた。

 

 

 

 

 


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