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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


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「ジル」

 私はジルが廊下を歩いているのを見かけて小さく呟いた。

 なんて人を寄せつけないオーラを放っているのかしら。九歳の少年だとは誰も思わないわ。

「アリシア!」

 ジルはすぐに私に気付いて私の方へ駆け寄ってきた。

 安堵のため息をついて私の方を見る。

 さっきまで私を心配している様子なんて全くなかったのに……。

 あれは表情を隠していただけって事かしら。

「大丈夫だった?」

「ええ。大丈夫よ」

「さっきのは誰?」

 ジルは険しい表情で私に聞いた。

「シーカー家のデューク様よ」

「国王陛下の息子?」

「そうよ」

 ジルは顎を触りながら俯いた。

 そんなに眉間に皺を寄せていたらそんな顔になってしまうわよって言いたかったけど、ジルがこの顔で何か考えている時は話しかけても聞こえていないのよね。

「デュークはアリシアに何をしたの?」

「前に私に贈ってくれたネックレスにキスをしたのよ」

「は? もしかしてそのダイヤモンドってデューク、国王陛下の息子から貰ったものなの?」

「そうよ」

 ジルは目を大きく見開いて私の胸元で輝いているダイヤモンドを見ている。

 確かに、国王陛下の息子から頂いたネックレスなんて驚きよね。

 私も頂いた時は固まったわ。

「今まで何もしなかったのはアリシアがまだ幼かったからか……」

 ジルが何かぶつぶつと呟いたが何を言ったのか聞き取れなかった。

 デューク様って今まであんなキャラだったかしら。

 噂では女性に冷たいって聞いた事があったわ。噂なんて信用できないけれど。

 けど、ゲームではヒロインのリズさんだけには優しいのよね。

 ……その対象が私に向いたって事よね? 私は一体どこでデューク様に好かれてしまったのかしら。

 でも、まだ私は妹的なポジションなのかもしれないわ。

 好きにも色々な好きがあるもの。

「アリシア、あそこ見て」

 ジルの目線は中庭の方に向いていた。

 私も同じように中庭の方に目を向けた。

 あら、リズさんだわ。

 それと……、この学校の先生かしら。

 白髪で、眼鏡で、小太り、まさに教授って感じがするわ。

 あれはリズさんの書いた論文?

 私も読みたいわ。どんな論文を書いているのかしら。

 そもそもテーマは何なのかしら?

 あの小太り先生を捕まえて渡してもらうしかなさそうね。

「ジル」

「分かってる」

 

 私達はリズさんがどこかへ行ったのを確認して中庭に出た。

 そんな簡単に論文を渡してくれるのかしら。

 先生の元へゆっくり近づいて行った。

 先生はすぐに私達の足音に気付き、振り向いた。

「ああ、君がアリシアとジルだね」

 そう言ってその先生はニコッと笑った。

 もう私達の情報はこの学校の先生達には知られているのね。それなら話が早いわ。

「私の名前はジョンだ。よろしくね」

 なんだか柔らかい空気を持った人ね。

「どうぞ」

 そう言って笑顔でジョン先生はあっさりとリズさんの論文を渡してくれた。

 まだ何も言っていないのに、どうして論文が欲しいと分かったのかしら。

「有難うございます」

 私はそう言ってジョン先生からリズさんの論文を受け取り、そのままその場を立ち去ろうとした時、優しい穏やかな声が聞こえた。

「この学園へようこそ」

 ジョン先生は温かい笑顔で私達にそう言ってくれた。

 

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