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朝から離宮が騒がしく目が覚める。
……そうだったわ。今日がパーティー当日ね。
私はあくびをしながら、ベッドから出てストレッチをする。
外からの音でどれだけこのパーティーに対して皆が意気込んでいるのかがよく分かる。……私は誰よりも意気込まないといけないんだけどね。なんたって「命」賭けたゲームをしているんだもの。
「それにしても…………、全く味方を作る気がなかったわね、私」
私は改めて事の重大さに気付き、思い切り肩をガクッと落とす。
まぁ、仕方ないわよね。したいことをするのが悪女……!
イリーナ王妃に喧嘩を売って、厄介払いされている貴族たちが集まっている診療所に通う……がしたかったことなのかは一旦置いておきましょ。
コンコンっと扉をノックする音が部屋に響く。
「おはようございます、アリシア様。ミアです」
「入っていいわよ」
「失礼します……って何ですかその顔は」
部屋に入るなり、ミアは怪訝な表情を浮かべる。それもその顔になるはず。
私は思い切り期待に満ちた目でミアを見ていた。このキラキラな私の目を見て拒めるはずがない。
「嫌です……」
「まだ何も言ってないわよ」
私の目を逸らすミアに私は口を尖らせる。ミアはどこか嫌な表情を浮かべながら「なんですか」と小さく声を発する。
そんなに警戒しなくてもいいじゃない。
私は目を輝かせて、じっとミアに近寄って口を開く。
「ミアに頼みたいことがあるの」
「……絶対にろくな頼みじゃないですよね。……嫌です」
「イリーナ様のところへ連れてってくれない?」
「嫌です」というミアの言葉を無視して私は要望を伝えた。ミアの表情が強張るのが分かった。
「お願い!」
私は両手を合わせて、ミアに頼み込んだ。
イリーナ王妃とのあの会話の後に、今私一人でイリーナ王妃の部屋にノックしに行けば門前払いを食らうのは目に見えている。それに、直接行くのは無礼だろうし。
頼みの綱はミアだけ……!
「王妃のところに……? また喧嘩を売りに行くのですか?」
「そう! あ、いや、じゃなくて、話に行きたいの」
つい勢いで思い切り笑顔で頷いてしまった。目を泳ぐ私にミアはますます疑い深く私を見る。
「何を企んでいるんですか?」
「何も企んでいないわよ」
私は笑みを浮かべながら答える。
もう一度喧嘩を売りに行くのは確かだけど、今回は少し違う。あの引きこもり王妃の心を確かめたい。本当に変化を求めているのかという覚悟を知りたい。
「パーティーが始まる前の最後の足掻きよ」
私の強い口調にミアは少し目を見開いて、考え込んだ。
イリーナ王妃が動いてくれるかどうかは分からないけれど……。それでも、何もしないよりかはいい。
「…………分かりました。なんとかしてみます」
少しして、ミアはそう言った。
「本当!?」
「ええ、でも、期待しないでくださいね。……侍女ができることなど限られて」
「ありがとう、ミア!」
私はミアの言葉に被せて、微笑んだ。ミアは戸惑った様子で反応に困っていた。
……なんだか可愛らしいわね、ミア。
「あ、そういえば、私になんの用事だったの?」
「そうでした。レーネさんがこちらに到着するのがパーティーギリギリになるとのことです。先ほど彼女の助手の方が伝えに来まして……。ドレスはほとんど出来上がっているそうですが、最後の仕上げにどうしても納得がいかないようでして……」
「まさに職人ね」
「助手の方も困った様子でした。最後の仕上げにかなりの時間を要している、と」
「ドレスのことなら心配していないわ。彼女は必ず届けてくれるもの」
「……どうしてそう言い切れるのですか? まだレーネさんを知って間もないというのに」
自信満々の私にミアは不思議そうにそう聞いた。
「ん~~~、私と似ているから?」
一拍考えてから、私はニッと口の端を上げた。
レーネの仕事に対する熱情は確かなものだもの。仕立て屋という職業に対して、彼女は目を瞠るほどの矜持を持っている。
私が悪女に対して抱いてる想いと似ている。
「それ、答えになっていません」
ミアは納得いかないという表情に私は誤魔化すようにフフッと小さく笑みを浮かべた。
「では、私はこれで失礼します」
不服そうなミアは私に向かって頭を下げる。
「王妃様の件、良い報告を待ってるわよ」
「善処します」
去っていくミアに、私は手をひらひらと揺らしながら見送った。
……私、もうちょっと切羽詰まった方がいい気がするわ。
命を失うかもしれないゲームの結果発表の日だと言うのに、あまりにも気持ちが穏やかすぎるもの。
あけましておめでとうございます~~!
大木戸です。お久しぶりです!!
いつも読んでいただき本当にありがとうございます。今年も歴悪を何卒宜しくお願い致します。
本日9巻が発売されました~~!
アリシア外交編!
いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。感謝でいっぱいです。
これからもよろしくお願いいたします。




