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私は牛肉を食べながら、話を元に戻した。
「デュルキス国はデューク様のお母様……アメリア様が亡くなられてから、ほぼ鎖国状態に入っていたんですよね?」
「そうなるな」
「戦争にはならなかったんですか?」
「なりかけたさ。だが、戦争は絶大な被害を生む。互いの国はそのことを考慮して極力戦争は避けたかった。……まぁ、今は冷戦状態だな」
「そんな状態でここに来ちゃって大丈夫なんですか?」
私たちがデュルキス国の者だとバレれば間違いなく牢獄送りになる気がするのだけど……。
メルビン国とデュルキス国の仲が悪いというのは知っていたけれど、冷戦状態までとは把握していなかった。アメリア女王殺害事件についてはほとんど詳細は伏せられているため、あまり知らないのよね。
誰もその話題には触れないもの。タブーすぎて、この好奇心旺盛な私ですら探らなかった。
「まぁ、大丈夫だろ。……連絡は一切していないが」
「え!?」
私はアポなし突撃だということに目を大きく見開いてデューク様を見る。
まさかあの計算高いデューク様がこんな訪問の仕方をするなんて……。
「したところで断られるのは目に見えている。だから、もう直接訪れて無理やり話をする方がいいだろ」
「なんか意外と大胆ですね、デューク様って」
「アリシアには言われたくない」
……私は一体デューク様の瞳にどう映っているのかしら。
「けど、私の感覚からしたら、女王を殺しても戦争にならないなんて、なんだか変な感じです……」
私がそう言うと、デューク様は難しい表情をしながら「そうだな」と低い声で呟いた。
デューク様も沢山思うところはあったのだろう。歯を食いしばるほどのことが何度もあったに違いない。
暫く重い沈黙が流れた後、デューク様は言葉を付け足した。
「母は両国の関係を壊さないために死んだのだから、その意志を最も尊重しただけだ」
………………どういうこと?
私はデューク様の言った内容が理解出来なかった。
両国の関係を壊さないために死んだ? ……殺されたのよね?
頭に疑問符が沢山浮かんでくるが、それを質問してはダメだと口を閉ざす。
「城に辿り着いたはいいが、追い返される可能性は?」
私は話を逸らした。
「充分あり得る。……だが、それで引き返す俺らではないだろ?」
悪友に笑いかけるようにデューク様が私の方を見る。
「もちろんです」
私も悪女のように口の端を小さく上げて、笑みを返した。




