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キャロライン・ルルイエの消息  作者: ヤミヲミルメ
失われたフィルム
55/72

上映内容 四

●映画の中の台詞 4


キャロライン「やっぱりいけないわ! これは、悪いことよ! ニャルラトホテプだかなんだかしらないけど、そんなものに従って、こんなことをしてはいけない!」


パトリシア「へえ……不思議ね……」


キャロライン「何がよ!?」


パトリシア「血は繋がっていないのに、考えかたがサン・ジェルマンに似ているわ。ワタシがヘンリーにサン・ジェルマンの話をくり返し聞かせてきたから? それとも一定の割合でこういう人間って生まれてくるものなのかしら?」


キャロライン「わたしは……普通よ!」


パトリシア「え?」


キャロライン「人間って、こういうものよ」


パトリシア「そう……なの……?」


キャロライン「そうよ!」


パトリシア「そうね……言われてみれば……そんな資料を見たような気がするわ……資料……?……どこで……?……いつ……?」


キャロライン「ルイーザ? あなた、何を言って……」


パトリシア「ワタシはパトリシアよ!! ……そう。ワタシはパトリシアのはず。父はトーマス・ピークス。母はイザベラ・ピークス。スーザンという幼なじみの友達が居た。それで間違いないはず。なのに何? この違和感……」


キャロライン「えーと……パ、ト、リ、シ、ア……?」


パトリシア「ああ、キャロライン、あなたそんなにのんびりしていられる状況じゃないわよ? 自分の手ぐらい見えるでしょ?」


キャロライン「え? えええええー!?」






●映画の観客(D)の証言


D「ナンかヘンな演出だったね。

 パトリシアに『体がモノクロになってきてる』って言われて、キャロラインが大騒ぎするんだ。

 そもそも映画の画面では全部モノクロだってのに。

 手足の先から徐々に色が失われていって、全身全部モノクロになったら、この先ずっと映画の世界でエキストラとして暮らさなくっちゃならなくなるとか。

 パトリシアはそう言ってキャロラインをあせらせてたな」






●映画にまつわる手紙 5−5


※キャロライン・ルルイエからの手紙の続き


 巫女たちが、何だかわからない言葉で騒ぎ出したの。

「イア」とか「フングル」とか。

 意味はわからなかったけど、響きがとてもおどろおどろしくて――でもルイーザは平然としていて――

 これはクトゥルフへの祈りなんですって。

 でもここは偽物のルルイエで、しかもニャルラトホテプが支配する空間で、そもそもクトゥルフは眠っているのだから祈りの声が届くわけがないって――

 だけどそうじゃなかったの。

 巫女たちはあの声で、クトゥルフではなく、仲間の巫女を呼んでいたのよ。


 いきなり現れた三人目の巫女がナイフで網を切り裂いて、そのナイフを仲間にわたして――

 ナイフを受け取った巫女が、ルイーザに切りかかっていったの。

 別の巫女が「切り裂きジャック!」って叫んでいたわ。

「行け!」って、応援? 命令? してた。

 あの巫女が、わたしがイギリスを発つ前にニュースになっていた連続殺人犯だったのかしら?

 そういえば、こうやって手紙を書きながら思い出してみると、わたしがアメリカに来てから新聞を見ても、切り裂きジャックが逮捕されたとも新しい事件を起こしたとも載っていなかったわね。

 これって切り裂きジャックがわたしたちを追ってアメリカに来たからなのかしら?


 ――話を戻すわ。

 巫女がナイフでルイーザに切りかかって、わたしは体が動かなくて――たぶん別の巫女に薬を嗅がされたんだと思う――気を失ってしまったの。






●映画の観客(E)の証言


E「パトリシアはずいぶんと驚いていたわね。

 三人目の巫女が居るって感知できなかったわけだからね。

 自分の縄張りに入られても、人間のエキストラがうろうろしてるとしか思っていなかったのよ。

 ああ。巫女は人間じゃないから気配でわかるはずなんらしいわ。

 そうこうするうち切り裂きジャックのナイフがパトリシアの指を切り落としたの。

 いくらただの映画でも、あんなシーンを観せちゃいけないわ。


 大粒のダイヤのリングを嵌めていた指よ。

 ブルーダイヤかって? モノクロ映画よ?


 切り裂きジャックは華麗なナイフさばきでパトリシアに襲いかかって、捕まっていたもう一人の巫女はキャロラインを気絶させて操ろうとしていたわね」






●映画にまつわる手紙 5−6


※キャロライン・ルルイエからの手紙の続き


 夢を見ていたの。

 見せられていたの?

 目の前に巨大な緑色のバケモノが居たの。


 ものすごく簡単に説明するなら、邪悪なドラゴンの首を切り落として、切り口から無数な触手を生やしたような姿――

 だけどこんな書きかたじゃあ、あのおぞましさは伝わらないわ。

 この世の言葉をどう並べても、あの恐ろしさは表現できない。

 鱗も、爪も、名状しがたいとしか言えない。


 巫女の声がわたしの周りをぐるぐる回った。

「逆らうな」「従え」「おまえも生け贄となるが良い」

 そんな言葉がぐるぐるぐるぐる――

 耳をふさいでもその声は少しも小さくならなくて、両手をすり抜けて聞こえてきて――

 段々と――

 本当にそうしたほうがいいような気がしてきて――


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