表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キャロライン・ルルイエの消息  作者: ヤミヲミルメ
失われたフィルム
54/72

上映内容 三

●映画の中の台詞 2

(観客の記憶に基づく)



パトリシア「決着がつけばニャルラトホテプは姿を現すわ」


パトリシア「気がついているかしら? この町の景色、パッチワークみたいになっているの。ここの石畳はリアルな質感だけど、ほら、あっちの建物の壁はやけにノッペリしてるでしょう?

 リアルな部分はサン・ジェルマンの思い出の中の、本物のアトランティスの景色。

 ノッペリしているのは魚人の巫女の間で絵画を通じて伝えられてきたルルイエの景色。

 絵画は修復を重ねる度に少しずつ姿を変えて……そもそも絵だから本物の町とは質感が異なるの」


パトリシア「言われないとわからなかったでしょう? アトランティスとルルイエ。敵対する二つの町がこんなにも似ているのは――アトランティスが、クトゥルフを罠に嵌めるために作られた、偽物のルルイエだからよ」






●映画にまつわる手紙 5−3


※キャロライン・ルルイエからの手紙の続き



 記憶が混乱しているわ。

 これを言ったのは本当にルイーザだったかしら?

 ニャルラトホテプに頭に刷り込まれたのかしら?

 大昔の、まだ人類が誕生してなくて、クトゥルフが地上で暴れていたころの話ね。

 大いなる種族の人たちがね、何度も会議を重ねたの。

 クトゥルフをやっつける方法について。


 ある学者は、ニャルラトホテプの力を利用しようと言った。

 ニャルラトホテプにはクトゥルフを倒せるほどの力があって、それでいてクトゥルフほどには凶暴じゃない。

 光に弱いだとかの弱点もハッキリしているし、我々大いなる種族の知恵と技術をもってすればニャルラトホテプをうまく操れるはずだって。


 でも別の学者は反対したの。

 ニャルラトホテプはクトゥルフよりもはるかに危険な邪神で、利用しようなんてとんでもない、関わってはいけない、我々のようなケシツブの存在を彼のモノに認識させてはいけない、と。


 大いなる種族の女王アトラは、別の作戦を選んだ。



(※何度も書き直した跡が見られ、キャロライン・ルルイエが適切な言葉を選ぶのに苦労した様子がうかがえる)



 クトゥルフにはたくさんの下僕がいて、インスマウスの人たちもクトゥルフの下僕なのよ。

 下僕の中でも一番の下っ端。

 でも一番多く生き残ってる。

 クトゥルフは星の動きによって目を覚ましたり眠ったりするの。

 何千年、何万年、何億年というスパンで。

 クトゥルフの下僕はクトゥルフに生け贄を捧げることで、クトゥルフが寝てるはずの時期にも起きていられるようにしようとしてた。

 大いなる種族の仲間もさらわれて生け贄にされて、だからクトゥルフと対立しているの。


 クトゥルフの寝所はルルイエの都にある。

 クトゥルフの下僕は世界中のいろんな場所で生け贄の儀式を行って、エネルギーをルルイエへ送る。


 大いなる種族は偽物のルルイエとしてアトランティスの都を造って、ルルイエに送られてくるエネルギーを横取りして、そのエネルギー使ってルルイエとアトランティスをひとまとめに海の底に封印して、クトゥルフをいつもよりも長い眠りにつかせた。


 この封印のときにアトランティスに居なかったのが、サン・ジェルマンおじいちゃまや、フェブラリータウンの住人たち。

 本当はおじいちゃまもフェブラリータウンで暮らすはずだったけど混乱があって、女王アトラはとっさにおじいちゃま一人だけを別の時空に避難させた。

 とっさだったのでほとんど何も説明できなかったから、おじいちゃまがそちらの時空から出る方法を見つけるのに、そちらの時空の時間で一年かかった。

 外に出たとき、こちらの時空では数億年が過ぎていた。

 それから五百年に渡り、おじいちゃまは時空の歪みを引きずって年を取ることもないままにアトランティスへの帰り道を求めて放浪して、やっと見つけた手がかりがパトリシアおばあちゃま。


 クトゥルフの下僕の子孫たちは、クトゥルフを復活させる方法を探し――

 編み出した邪悪な儀式に、パトリシアおばあちゃまはたまたま巻き込まれてしまっていた――



 ああ、思い出したわ。

 これ、ルイーザが言っていたのよ。

 間違いないわ。

 ルイーザが知ってるはずのないことまで含まれてるけど。

 それでルイーザ自身も困惑していたわ。






●映画の中の台詞 3


パトリシア「ワタシは六歳のとき、ルルイエの絵の転写品を観て、ワタシ自身の手で模写をくり返した。それらの絵はお母さまに燃やされてしまったけれど、絵の記憶は絵の世界の力とともにワタシの中に刻み込まれた。

 こんな風にね!」






●映画にまつわる手紙 5−4


※キャロライン・ルルイエからの手紙の続き



 ルイーザがね、お芝居の中の魔法使いみたいに腕を振り回してポーズを取ったの。

 これでこの辺りはルイーザの記憶をもとにした“パトリシアのルルイエ”になったんですって。

 表面は、わたしが見た感じでは“巫女たちのルルイエ”と変わらないけど、奥のほうはルイーザに都合良くできてるらしくて。

“巫女たちのルルイエ”も巫女たちに都合良くできてるわけで――

 これで巫女に、自分たちのテリトリーに居ると思い込ませて油断させて罠に嵌めたの。

 わたしも手伝うように命じられた――頼まれた? 命じ――手伝わさせられたわ。


 ルイーザが囮になって巫女たちをおびき寄せて、わたしは物陰から網を投げて――漁師さんが使うような網――狭い路地だったわ――

 巫女を二人、捕まえた。

 気負う必要はないってルイーザに言われた。

 わたしたちがやるのは巫女を祭壇に連れて行くところまでで、傷つけたり――殺したり――そういう嫌なことは全部、ニャルラトホテプが自分でやるからわたしたちの罪にはならないって。


 でもわたし、駄目だった。

 自分で網を投げたのに、それでも怖くなってしまって。

 ルイーザが言うには、わたしがここで巫女たちを逃したって意味はないって。

 もともとニャルラトホテプは巫女たちを自分への生け贄にしようと目をつけていて、だからこことは別の映画館で巫女たちがルイーザに先回りしようと潜んでいたところを、魔力を水の形に変えて飲み込んで、映画の世界に引きずり込んだ。

 そのときに巫女たちが逃げようとしたせいで、水が広がって関係のないたくさんの人が巻き込まれた。

 新聞に乗っていた、水道管の破裂事故。

 魔力を知らない人間の目にはそう見えたの。

 ニャルラトホテプの意に反するような真似をしたら、わたしたちがもしかしたら無事で済むかも知れないわずかな可能性まで潰してしまうし、被害は映画館の外にまで広がる――っって。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ