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キャロライン・ルルイエの消息  作者: ヤミヲミルメ
失われたフィルム
53/72

上映内容 二

●映画の中の台詞 1


観客の記憶をもとに、その日上映された『恐怖の吸血ミイラ』の中の台詞を可能な限り再現する。



キャロライン「ね、ねえ、ルイーザ……わたしを……本当に生け贄にしたりなんかしないわよね?」


パトリシア「決めるのはワタシではないわ。全てはニャルラトホテプのシナリオ次第よ。でも、そうね、あなたを捧げたりしたらサン・ジェルマンに怒られそうだし。なんとかお魚二匹で満足してもらえるといいんだけどね」


キャロライン「ニャルラトホテプってどんなやつなの?」


パトリシア「それは外見に関する質問?」


キャロライン「え……ええ……」


パトリシア「良かった。内面についてなら、とても口にできなかったわ。ニャルラトホテプの姿なら、あなたはすでに見ているわよ」


キャロライン「どこで!?」


パトリシア「どこででも。そこら中で」


キャロライン「どこよ!? ニャルラトホテプはどこに居るの!?」


パトリシア「どこにでも居るわ。ここにも、そこにも、あそこにも」


 建物や石畳や空を示す。


パトリシア「この空間そのものがニャルラトホテプなのよ」


キャロライン「な!?」


パトリシア「だから問題は、どの状態を生け贄として“捧げ終わった”とするかなのよね。体内に取り込むだけでいいのなら、ワタシ自身もすでに捧げられてることになるし」


パトリシア「でもそれだけじゃ駄目なの。この空間はニャルラトホテプなだけでなく、ワタシでもありサン・ジェルマンでもあるから」


パトリシア「ここの景色はアトランティスとルルイエを合わせたものなの。サン・ジェルマンの記憶の中のアトランティスと、ワタシが幼いころに見た絵のルルイエをもとに、ニャルラトホテプが再現している幻のハリボテ」


パトリシア「ニャルラトホテプはワタシやサン・ジェルマンの記憶をつまみ食いしたの。気に入ったのなら丸ごと食べ尽くされるかも」


パトリシア「あの邪神は食べ物で遊んでるのよ」


パトリシア「あなたのことはしっかりと下ごしらえをしてから食べるつもりみたいね。調味料、仕込まれてるわよ」


パトリシア「ねえ、キャロライン。あなたさっき“ニャルラトホテプ”ってスラスラと言えたわよね? 完璧な発音で。どうして? ワタシですら英語訛りでしか言えていないのに」


パトリシア「あなたの中にニャルラトホテプが入り込んできているのよ」


パトリシア「代わりの生け贄を捕まえないとね」


パトリシア「“魚釣り”を始めるわよ」






●映画にまつわる手紙 5−2


※キャロライン・ルルイエからの手紙の続き



 話が飛び飛びになってしまいそう。

 ルイーザが魚釣りをするって言って、わたしは嫌な予感がしたけれど止めることはできなくて――

 わたし、ニャルラトホテプが何を考えているか、ぼんやりとだけどわかってしまったの。伝わってしまったの。ニャルラトホテプの考えが入り込んできたの。侵食してきたの。


 ルイーザが言っているお魚って、魚顔のあの人たちのことなのよ!

 インスマウスの町の人たち!


 ニャルラトホテプは何もかもを知っていたわ。

 ここはカリフォルニア州のロサンゼルスのハリウッドで、インスマウスは遠く離れたマサチューセッツ州なのに!


 わたしたちが乗った船を忌まわしいインスマウスへ引きずり込んだのも、恐ろしい儀式で空から魚が降ってきたのも、クトゥルフに仕えるインスマウスの巫女のアウガサの力だった。

 アウガサはインスマウスで死んだ。

 ルイーザからブルーダイヤを奪おうとして――

 だけどアウガサのような巫女がまだあと四人も居て、その内の二人が映画の世界の中に、わたしたちのすぐそばに居るっていうのよ!


 ニャルラトホテプはルイーザと巫女たちを戦わせて、それを眺めて楽しむつもり。

 勝てばご褒美がもらえるのか、それとも強いほうこそ自分への生け贄にふさわしいってするのかは、わからなかった。感じ取れなかった。意地悪して教えてくれなかった。

 ああ、でも、ルイーザが言っていたように食べ物で遊んでいたのなら、きっと最初からニャルラトホテプは、最後には全員を食べるつもりだったんだわ。


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