西への道中での手紙
●カリフォルニアに入った辺りで書かれた手紙
親愛なるオリヴィアへ
わたしが旅に出たそもそもの目的は、妹を手伝って祖父の行方を探すこと。
それが今は、妹のフリをした祖母から叔母を助け出すなんていうことになってる。
サン・ジェルマンおじいちゃまがおっしゃったの。
ルイーザなんて人格は最初から存在しない。
ルイーザはもともとパトリシアおばあちゃまの体の一部で、見えない手で操られたパペット人形のようなものだった。
ルイーザを作り出したあと、おばあちゃまは“パトリシア”と“ルイーザ”の一人二役みたいなことをやっていた。
“パトリシア”が本体で“ルイーザ”が端末。
二人を同時に完全に演じ分けるのは難しくて、だからはたからはパトリシアおばあちゃまは痴呆のように、ルイーザは異様におとなしい子供のように見えた。
“パトリシア”の肉体が機能停止したことで、本体の役割が“ルイーザ”に移った。
ねえオリヴィア、わたしはこんな話を信じなくっちゃいけないらしいの。
こんなのパパにどう話したらいいの?
パパはルイーザが自分の娘じゃないってわかっていたのかしら?
オリヴィア、わたし昨日までは、早くイギリスに帰りたいって思いながらも“ルイーザの姉”としての役目を果たそうって無理してきたの。
今は、前に進むのは怖いけど、イギリスに戻るのも辛い。
アデリン叔母さまを見つけるまで帰らないっていうのは、わたしがパパから逃げてるだけなのかもしれないわ。
キャロラインより
●ロサンゼルスの駅で投函された手紙
親愛なるオリヴィアへ
大きな町にたくさんの人。
この中でどうやってルイーザとアデリン叔母さまを捜すのか。
そもそもどうしてルイーザがハリウッドに向かってるってわかったのかなんだけどね。
サン・ジェルマンおじいちゃまには“見える”らしいの。
おじいちゃまは片眼鏡をかけていらして、そちら側の目はほとんど見えないそうなのだけど、ルイーザのブルーダイヤの指輪と繋がっていて、指輪の周りの様子をぼんやりとなら感じ取れるらしいのよ。
おじいちゃまの瞳、ブルーダイヤにそっくりな、少し不自然な青色なの。
魔力の影響らしいわ。
ルイーザ――パトリシアおばあちゃまには、指輪の力についてちゃんと話してあるそうよ。
それでもおばあちゃまが指輪を着けたままでいるのは、もしかしたらだけど、おじいちゃまに追ってきてほしいって意味なのかもしれないわね。
キャロラインより
●ハリウッドの近くのホテルからの手紙
親愛なるオリヴィアへ
ああ、オリヴィア。
わたしは、ちょっと前までろくに会ってもいなかった妹はもちろん、休みの度にお世話になっていたはずの叔母のことも何もわかってなかったの。
サン・ジェルマンおじいちゃまが言うにはね、二人は同じ映画を何度も観ているらしいの。
タイトルは『恐怖の吸血ミイラ』!
アデリン叔母さまにこんな趣味があったなんて、びっくりだわ!
叔母さまは前に、こんなのは大人のレディが観るものじゃないって言っていらしたのに!
二人とも映画なんかよりもずっと恐ろしいものを山ほど見てきているのにどうして?
わたしは――あんまり観たくないけれど、二人と話を合わせるために、観ておいたほうがいいのかしら――
オリヴィアはこういうの好きよね?
この映画、あなたはもう観たの?
キャロラインより




