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キャロライン・ルルイエの消息  作者: ヤミヲミルメ
フライング・ヒューマノイド
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フェブラリータウンの終焉

●フェブラリータウンからの手紙 11


親愛なるオリヴィアへ


 わたしは無事よ。ええ、無事よ。

 いきなりこんなこと書かれても、何の話かわからないわよね?

 でも書きたいの! 無事なのよ!

 フェブラリータウンがなくなっちゃったの!

 聖書に出てくるソドムとゴモラって、きっとこんな感じだったんだわ!


 蛾の怪物が出てきて消えて、サン・ジェルマンおじいちゃまの頭蓋骨が蛾の怪物の生首と入れ替わって、ルイーザを追いかけて屋上に行ったら流行遅れの服を着た紳士が空から降ってきて、それがなんとサン・ジェルマンおじいちゃまだったの!


 それで、どうしてなのかわからないけど壁とか柱とかが壊れ始めて、ルイーザがおじいちゃまに背を向けて走り出して。

 ああ、ルイーザがおじいちゃまに「キャロラインをお願い」って言ったのよ。

 わたしは瓦礫の下敷きになりかけて、気がついたらおじいちゃまに手を引かれて走ってた。


 逃げ切るまでいろいろあったはずなんだけど、いろいろすぎて書き切れないし思い出せない。

 とにかく最後に目の前が全部、砂煙で覆われて、砂煙が晴れたらわたしたち、荒野の真ん中に立っていたの。

 フェブラリータウンは跡形もなくなっていた。

 建物どころか瓦礫一つなく。

 最初からすべて幻だったみたいに。


 わたし、もとの世界に戻ってきたの。

 きっと本当にあの町は、時空の狭間にあったのよ。


 ルイーザやアデリン叔母さまと、はぐれてしまって、おじいちゃまが言うにはわたしは二人に置いてけぼりを食らったらしいの。

 叔母さまはルイーザに連れて行かれてしまったんですって。


 少し歩いたら近くに線路があって、汽車が通るのを止めて、乗せてもらって。

 事情なんてちゃんと話しても信じてもらえるわけがないから、車掌さんには、車で旅をしていて事故に遭ったってウソを吐いたわ。

 神さま、汚れゆくわたしをお許しください。

 それでその汽車の中でこの手紙を書いているの。



 サン・ジェルマンおじいちゃまはいろいろと話してくれたわ。

 何もかも、と言うには何もかもが多すぎて、一度にはとても話し切れないみたいだけれど。

 おじいちゃまがフライングで生まれた人類なこと。

 パトリシアおばあちゃまとの馴れ初め。

 インスマウスで斬首(おー怖っ!)されてから、ずっと故郷の夢を見てたこと。

 首なし騎士の状態でわたしたちを助けたのは覚えてなくて、夢の中ではアトランティスの女王さまの警護をしてたこと。


 オリヴィアに伝えてもいいって、ちゃんとおじいちゃまに許可をもらったわ。

 おじいちゃまってば最初は「こんな話を友達にしたらバカにされたり嫌われたりするんじゃないか」って心配してたけど、オリヴィアがどんな子か教えたら「いい友達だな」ですって!


 そうそう、わたしが旅立つときにオリヴィアにもらったお守り。

 あれを真似してハーブティーの出し殻でポプリを作ってみたんだけどね、おじいちゃまが言うにはわたし、これがあったから大いなる種族に体を乗っ取られずに済んだんですって!

 これもオリヴィアのおかげね!



 それでね、これからなんだけど。

 どうやらルイーザとアデリン叔母さまはカリフォルニアへ向かったらしいの。

 そこでも何かがあるみたい。

 おじいちゃまはわたしを連れて行くのを渋ってたけど、アデリン叔母さまを見つけるまでは一緒に行動するって約束したわ。

 そのあとは……

 ルイーザとは、関わらないほうがいいって言われたわ。


キャロラインより






●フェブラリータウンでのアデリンの日記 4の後半


 モスマンと空を飛んでいたのに、いきなり窓のない地下室に――ワープ? ――していた。

 鍵がかかっていて、閉じ込められているようだった。


 しばらくしたらドアが開いて、円錐形のバケモノが入ってきた。

 アタシはそいつを突き飛ばして逃げた。

 そのときに、あることに気づいたけれど、怖くて自分の体を見下ろすことができなかった。


 キャロラインを探してイーグルスホテルへ走った。

 客室にも食堂にもキャロラインは居らず、厨房で見つけた。

 あの子はアタシを見て、悲鳴を上げた。

 業務用の冷蔵庫のピカピカの扉が、鏡のようにアタシを映した。

 アタシは円錐形のバケモノになっていた。


 声は出るけど人間の言葉を発音できるような喉じゃなくて、キャロラインに逃げられて、追いかけたけど見失った。

 そうこうするうちに町全体がおもちゃのように壊れ始めて、瓦礫の下敷きになって、アタシは自分が“宿っている”肉体が死ぬのを感じた。


 目が覚めたら、辺りに岩しかないような荒野に倒れていて、かたわらでルイーザがアタシを見下ろしていて、アタシの魂はもとの肉体に戻っていた。

 どうやらルイーザが助けてくれたのらしい。

 そのお礼としてルイーザは、アタシにお供をするよう命じてきた。

 子供が一人で旅なんか続けたら、通報されるか誘拐される。

 だからアタシを連れていきたい。


 断れなかった。

 この先に居るモノの力を使えばアランを見つけられると言われた。

 アタシたちはハリウッドへ向かう。

 財布以外の荷物はすべてなくしてしまった。

 たぶんキャロラインも似たような状況。

 あの子はちゃんとイギリスへ帰れるのかしら?

 それよりも今は自分の心配を。


 ルイーザがハリウッドへ行く目的は――

“調べもの”としか教えてくれない。



あなたへ



 さっき、背後で物音がしませんでしたか?


 気がつきませんでしたか。


 いえ、いいんです。


 気づいても気づかなくても結果は同じですから。

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