大いなる種族の町
●監視カメラの映像
奇妙な光沢のある、素材不明の壁と扉が映っている。
扉が上に向かって開き、キャロライン・ルルイエが飛び出してくる。
扉の奥にスロープが見える。
●別の監視カメラの映像
地下のはずだが異様なほど広い。
キャロライン・ルルイエ、扉を出たときよりも勢いをなくした様子でカメラの前を横切る。
●さらに別の監視カメラの映像
奇妙な巨大建築物の群れ。
強いて言うならば新進気鋭のデザイナーによる奇抜なタワーマンションが大量発生したかのよう。
共通点として、いずれの建築物も屋上に庭園を備えている。
庭園の植物は、当時の一般的な園芸品種から、図鑑でしか見られないような古生代のもの、当時(一九三〇年)には化石すら発見されていないはずのものまで様々。
庭園の飾りとして、古代ローマの町並みを再現したものや、マチュピチュが遺跡になる前の景色を模したものなどが見られる。
画面の下の方でキャロライン・ルルイエが足を止めて建築物を見上げている。
キャロライン・ルルイエ、不意に振り返る。
●資料写真の中の一枚
周りの建物の並びから、キャロライン・ルルイエの視線の先にあったものはこれであると推察される。
建築物屋上の庭園に、フェブラリータウンが飾られている。
●フェブラリータウン跡地で発見された走り書き
古代文字が記されたノートの切れ端。
訳せた部分のみを掲載。
Cへの精神転移にエラー。
禁制のハーブの成分がこちらの干渉を阻害。
ホテルの食事に混ざって持ち込まれた?
ハーブティーに使用された葉を乾燥させ、魔除けとして身につけていた模様。
●地下世界の街中の映像
キャロライン・ルルイエの眼前にモスマンが落下。
地面に激突。
ピクリとも動かない。
キャロライン・ルルイエ、画面の外に視線を向け、口を抑えて後退りする。
●別のカメラの映像
キャロライン・ルルイエの正面にルイーザ・ルルイエが立っている。
ルイーザ・ルルイエは左手にバスケットを下げている。
(キャロライン・ルルイエからオリヴィア・ジョーンズへの手紙に記されていた、サン・ジェルマン・ルルイエの頭骨を収めたバスケットと同一のものと思われる)
以下、ルイーザ・ルルイエの唇の動き。
「ワタシが撃ち落としたわけではないわ」
「大いなる種族に仲間割れがあったの」
「モスマンは少しイイコ過ぎた。
アデリン叔母さまを説得しようとしていたし、できていたのかもしれない。
けれど大いなる種族の……その中の一部には、のんき過ぎるとみなされた」
「まあ、でも、ちょうどいいわ」
ルイーザ・ルルイエ、バスケットを地面に下ろし、手を伸ばす。
指のブルーダイヤが光を放つ。
モスマンの体が地面に吸い込まれて消える。
キャロライン・ルルイエ、口を開けたまま、へたり込む。
ルイーザ・ルルイエ、辺りを見回す。
二度、三度、見回す度に不安げな表情になっていく。
キャロライン・ルルイエは放心状態で天を仰いでいる。
ルイーザ・ルルイエ、キャロライン・ルルイエの視線をたどる。
「ああ!! サン・ジェルマン!! あんなところに!!」
ルイーザ・ルルイエ、走り出し、画面外へ消える
バスケットは地面に置かれたまま。
キャロライン・ルルイエ、追いかけようとしてバスケットにつまずく。
バスケットの中身が飛び出し、地面に転がる。
画像を拡大。
飛び出したものは、モスマンの生首。
キャロライン・ルルイエ、それが何か瞬時には判断できなかった模様。
しばし凝視したのち、悲鳴。
●大いなる種族の屋上庭園の監視カメラの映像
石材の具合から古代の神殿を模したものと思われるが、どの古代文明かの特定は困難。
少なくとも名の知れた観光地とは明らかに異なる建築様式である。
画面上端。
空中から染み出すようにサン・ジェルマン・ルルイエの体がゆっくりと降りてくる。
コート姿。ハンティング帽。ブーツ。
(十九世紀からの旅行者にふさわしいと言える出で立ち)
片眼鏡。
目を閉じており、眠っているように見えるが、空中で体制を整え、しなやかに着地する。
ルイーザ・ルルイエ、駆け寄る。
サン・ジェルマン・ルルイエ、目を開ける。
サン・ジェルマン・ルルイエの唇の動き
「パトリシア! なんて姿だ! まさか君がこんな化け物になり果てるなんて!」
ルイーザ・ルルイエ、足もとをわずかにふらつかせる。
が、これは単にここまで走ってきて息切れを起こしたためと思われる。
寂しげに微笑んでいるが、さほど驚いてはいない様子。
画面にノイズ。
屋上庭園が崩れ始める。
床に穴。
柱が倒れる。
画面全体がノイズに飲まれ、ブラックアウトする。




