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キャロライン・ルルイエの消息  作者: ヤミヲミルメ
フライング・ヒューマノイド
45/72

大いなる種族の町

●監視カメラの映像


 奇妙な光沢のある、素材不明の壁と扉が映っている。

 扉が上に向かって開き、キャロライン・ルルイエが飛び出してくる。

 扉の奥にスロープが見える。






●別の監視カメラの映像


 地下のはずだが異様なほど広い。

 キャロライン・ルルイエ、扉を出たときよりも勢いをなくした様子でカメラの前を横切る。






●さらに別の監視カメラの映像


 奇妙な巨大建築物の群れ。

 強いて言うならば新進気鋭のデザイナーによる奇抜なタワーマンションが大量発生したかのよう。

 共通点として、いずれの建築物も屋上に庭園を備えている。

 庭園の植物は、当時の一般的な園芸品種から、図鑑でしか見られないような古生代のもの、当時(一九三〇年)には化石すら発見されていないはずのものまで様々。

 庭園の飾りとして、古代ローマの町並みを再現したものや、マチュピチュが遺跡になる前の景色を模したものなどが見られる。


 画面の下の方でキャロライン・ルルイエが足を止めて建築物を見上げている。

 キャロライン・ルルイエ、不意に振り返る。






●資料写真の中の一枚


 周りの建物の並びから、キャロライン・ルルイエの視線の先にあったものはこれであると推察される。

 建築物屋上の庭園に、フェブラリータウンが飾られている。






●フェブラリータウン跡地で発見された走り書き


古代文字が記されたノートの切れ端。

訳せた部分のみを掲載。



 Cへの精神転移にエラー。

 禁制のハーブの成分がこちらの干渉を阻害。


 ホテルの食事に混ざって持ち込まれた?


 ハーブティーに使用された葉を乾燥させ、魔除けとして身につけていた模様。






●地下世界の街中の映像


 キャロライン・ルルイエの眼前にモスマンが落下。

 地面に激突。

 ピクリとも動かない。

 キャロライン・ルルイエ、画面の外に視線を向け、口を抑えて後退りする。






●別のカメラの映像


 キャロライン・ルルイエの正面にルイーザ・ルルイエが立っている。

 ルイーザ・ルルイエは左手にバスケットを下げている。

(キャロライン・ルルイエからオリヴィア・ジョーンズへの手紙に記されていた、サン・ジェルマン・ルルイエの頭骨を収めたバスケットと同一のものと思われる)



 以下、ルイーザ・ルルイエの唇の動き。


「ワタシが撃ち落としたわけではないわ」


「大いなる種族に仲間割れがあったの」


「モスマンは少しイイコ過ぎた。

 アデリン叔母さまを説得しようとしていたし、できていたのかもしれない。

 けれど大いなる種族の……その中の一部には、のんき過ぎるとみなされた」


「まあ、でも、ちょうどいいわ」



 ルイーザ・ルルイエ、バスケットを地面に下ろし、手を伸ばす。

 指のブルーダイヤが光を放つ。

 モスマンの体が地面に吸い込まれて消える。


 キャロライン・ルルイエ、口を開けたまま、へたり込む。

 ルイーザ・ルルイエ、辺りを見回す。

 二度、三度、見回す度に不安げな表情になっていく。

 キャロライン・ルルイエは放心状態で天を仰いでいる。


 ルイーザ・ルルイエ、キャロライン・ルルイエの視線をたどる。

「ああ!! サン・ジェルマン!! あんなところに!!」

 ルイーザ・ルルイエ、走り出し、画面外へ消える

 バスケットは地面に置かれたまま。

 キャロライン・ルルイエ、追いかけようとしてバスケットにつまずく。


 バスケットの中身が飛び出し、地面に転がる。

 画像を拡大。

 飛び出したものは、モスマンの生首。


 キャロライン・ルルイエ、それが何か瞬時には判断できなかった模様。

 しばし凝視したのち、悲鳴。






●大いなる種族の屋上庭園の監視カメラの映像


 石材の具合から古代の神殿を模したものと思われるが、どの古代文明かの特定は困難。

 少なくとも名の知れた観光地とは明らかに異なる建築様式である。


 画面上端。

 空中から染み出すようにサン・ジェルマン・ルルイエの体がゆっくりと降りてくる。

 コート姿。ハンティング帽。ブーツ。

(十九世紀からの旅行者にふさわしいと言える出で立ち)

 片眼鏡(モノクル)

 目を閉じており、眠っているように見えるが、空中で体制を整え、しなやかに着地する。


 ルイーザ・ルルイエ、駆け寄る。

 サン・ジェルマン・ルルイエ、目を開ける。



サン・ジェルマン・ルルイエの唇の動き

「パトリシア! なんて姿だ! まさか君がこんな化け物になり果てるなんて!」



 ルイーザ・ルルイエ、足もとをわずかにふらつかせる。

 が、これは単にここまで走ってきて息切れを起こしたためと思われる。

 寂しげに微笑んでいるが、さほど驚いてはいない様子。



 画面にノイズ。

 屋上庭園が崩れ始める。

 床に穴。

 柱が倒れる。

 画面全体がノイズに飲まれ、ブラックアウトする。




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