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キャロライン・ルルイエの消息  作者: ヤミヲミルメ
フライング・ヒューマノイド
42/72

映像記録

●監視カメラによると思われる映像。

 画面の隅に一九三〇年一〇月XX日と表示されている。


 なお、アメリカで監視カメラが使用され始めるのは一九六〇年代からである。




AM 4:44

 イーグルスホテル、玄関のカメラ。

 アデリン・アンダーソンが飛び出してくる。

 怯えた顔で姪たちが泊まっている客室の窓を見上げる。

 そのままどこかへ走り去る。



AM 5:13

 駅前のカメラ。

 アデリン・アンダーソン。

 一人で逃げようとしているように見えるが、そうなるとルイーザだけでなくキャロラインも置いていくことになる。

 荷物なし。

 しばし時刻表を睨む。

 汽車が動く時間ではない。

 イーグルスホテルの方角へ歩き出す。



AM 6:24

 商店街のカメラ。

 人影はまばらだが、時間帯の割には多い。

 すれ違う全員がアデリン・アンダーソンを振り返る。

 全員がかしこまったスーツ姿。

 アデリン・アンダーソン、不安げに足を早める。



AM 6:63

 商店街の、先ほどとは別のカメラの映像。

 先ほどより路は細くなっているのに人は増えている。

 アデリン・アンダーソン、走り出す。

 通行人、ぞろぞろとアデリン・アンダーソンについていく。



AM 6:72

 広場のカメラ。

 アデリン・アンダーソン、噴水を背にして立ち尽くしている。

 周囲を完全に囲まれている。

 スーツ姿の人垣が割れて、インディアン(※ネイティブ・アメリカン)の老女が歩み出る。





 しばし静止画のような映像が続いたのち、ネイティブ・アメリカンの老女が口を開く。

 老女の唇の動きから可能な限り発言内容を読み取り、記す。

 なお、アデリン・アンダーソンはカメラに背を向けているため、何を話したか、あるいは何も話さなかったかは不明。




「おっといけない。つい見入ってしまったよ。何せ久しぶりなもんでね」


「いや、ヌシとは初対面だよ。ただね、この町の連中は体は人間でも宿してる魂は人類のモノとは異なるってヤツばかりなもんでつい、ね」


「ワシの名はポワカ。ヌシらが言うところのインディアンの巫女さ」


「でもってこのスーツどもは“大いなる種族”とか自称してる古代生命の生き残りだよ」


「こやつらの故郷の名はアトランティス。どうだエ? ピンとくるものがあるんじゃないのかエ?」


「わからぬか。まあ良い。すべて話すほどにはルイーザがヌシを信用しとらんとするなら、ワシらからすればむしろヌシは信用できる」


「アトランティスの都は、邪神の棲まうルルイエの都を封印すべく、ルルイエを模して作られ、ルルイエとともに海に沈んだ」


「アトランティスの住人は死んではいない。眠っているだけだ。

 しかしアトランティスを目覚めさせればルルイエも、ルルイエで眠るクトゥルフも目覚める」


「パトリシアは六歳のときにルルイエと通じてしまった。

 感受性が特別に強いという生まれながらの素質を持つ者が、よりによって子供の時分に危険な絵に触れてしまったからね」


「サン・ジェルマンはルルイエで生まれてアトランティスで育ち、時を越えてヨーロッパに現れ、パトリシアを利用してアトランティスへ帰ろうとしていた」


「目的への過程でルルイエを復活させることになるって点は、サン・ジェルマンもインスマウスの奴らも共通している。

 とはいえサン・ジェルマンはアトランティスは助けてもクトゥルフの封印を解く気はなく、インスマウスの奴らはクトゥルフを目覚めさせたいだけでアトランティスには恨みしかない。

 だからインスマウスの奴らはサン・ジェルマンを襲撃し、その首を切り落とした」


「インスマウスの奴らはパトリシアを手に入れたかったようだが、それだけは阻止できた。拾った赤ん坊を連れていたのがいいカモフラージュになったようだね」


「フェブラリータウンは時空の歪みの中にある。

 ルイーザはこの歪みを利用してサン・ジェルマンを生き返らせようとしているが、それはとても危険な行為じゃ」


「ルイーザを止めておくれ。

 ワシらは警戒されておってなかなか近づけんし、子供相手に手荒な真似はしたくないが、叔母のヌシなら何とか穏やかに収められるじゃろ」


「察しがええのう。いかにも。ワシらがルイーザに近づけんのはブルーダイヤがあるからじゃ。

 ただ怖気づいとるというわけではない。イーグルスホテルはちょいと特殊でな。もともと張られている結界をルイーザがうまいこと利用しておって、レーダーのように近づくものの存在をルイーザに知らせてしまうのじゃ。

 じゃからこそあのホテルに泊まっておって、ホテルに入っても不自然でないヌシにこうして頼んでおる。

 ヌシとて逃げられる話ではないぞえ。

 クトゥルフが目覚めればヌシも生け贄じゃ。

 誰にもどこにも逃げ場なぞない。

 ああ、恐ろしや。クトゥルフへの生け贄の儀式は、ヌシがインスマウスで見たのはほんの一部に過ぎん」


「ルイーザからブルーダイヤを奪おうとすれば何が起きるかはワシらも心得ておる。

 そう恐れることはない。ヌシに命を張れとは言わぬ。

 ヌシはブルーダイヤの“力”を奪ってくれさえすれば良い」


「ブルーダイヤを黒く染めるのサ。

 そのための魔法のインクがここにある」



 スーツ姿の男の一人が、ワインボトルのようなものを持って前に出る。



「ルイーザは抵抗するだろうがね。

 こいつをあの娘に頭からぶっかけてやっておくれ。

 小さなダイヤだ。

 一滴かかればじゅうぶんなインクがこれだけあれば、ちょっとやそっと失敗したって――」



 画面内。突如として瓶が砕け散り、瓶を持っていた男が倒れる。

 アデリン・アンダーソン、インクを浴びて仰け反る。

 スーツ姿の男たち、一斉に逃げる。

 そのうちの一人、もっとも大柄な男がポワカを抱えて運ぶ。

 倒れた男だけはピクリとも動かず。

 アデリン・アンダーソン、逃げようとして足もとのインクを踏み、滑って転ぶ。


 ルイーザ・ルルイエが画面奥から歩み出て、アデリン・アンダーソンの前で足を止める。ポワカが立っていたのと同じ位置。


 ルイーザ・ルルイエ、倒れている男の上の空間に霧吹きを向ける。

 霧の中に十フィート(約三メートル)ほどの円錐形の生物の幽霊が現れる。

 明らかに人間とは異なる姿。



 以下、ルイーザ・ルルイエの唇の動き。


「おばさま、騙されちゃだめよ。これがこいつらの魂の姿」


「少なくともワタシは人間よ、おばさま」


「こんなやつらの言うことなんか聞かないで、おばさま」



 アデリン・アンダーソン、指についたインクを払ってルイーザ・ルルイエに振りかける。

 ルイーザ・ルルイエ、とっさに指輪をかばう。

 アデリン・アンダーソン、この隙に逃げ出す。


 ルイーザ・ルルイエ、監視カメラに気づく。

 指輪をかざす。

 映像が途切れる。


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