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キャロライン・ルルイエの消息  作者: ヤミヲミルメ
アーカムでの滞在記録
34/72

アーカムからのエアメール 三通目の一枚目から六枚目の便せん


親愛なるオリヴィアへ


 前の手紙で、次の手紙は汽車の中で書くって書いて、投函してから思ったの。

 たった一日でそんなに書くようなことが起きるかしら? って。

 あったのよ、それが!

 それで本当に、この手紙を汽車の中で書いているの!

 アデリン叔母さまとルイーザは食堂車に行っているから、今のうちに、ね。


 前の手紙を朝一番に投函したあと、ホテルの部屋に戻ったら、ルイーザが机のところに居たの。

 ルイーザは、昨日と同じように手紙を出しに行くフリでホテルのフロントを抜けようとして、でもわたしの手紙がなかったから、自分で書こうとしてたのね。


 封筒の宛名はパパになってたけれど、便せんは真っ白。

 この状況じゃ、パパに心配をかけないような手紙の書きかたなんてできるわけないものね。

 わたしだって――


 オリヴィア、あなたがオカルト好きで本当に良かったわ。

 ほかの友達に送れば正気を疑われてしまうような手紙でも、あなたになら見せられるもの。

 ルイーザにはあなたみたいな友達が居なくてかわいそう。


 だからってわけじゃないけど、わたし、ルイーザと教会に一緒に行ってあげることにしたの。

 あんまり早い時間に押しかけても失礼になるから、ホテルのロビーでコーヒーをいただいて。

「やっぱり紅茶にすれば良かったわね」とか言ってみたりして、これにはルイーザもうなずいて。





 アデリン叔母さまはひどくお疲れで、まだ寝ていたいっておっしゃって。

 ルイーザと二人だけで先に朝食にして。


 わたし、ルイーザとじっくり話そうとしたの。

 少しずつでも心を開いてほしくて。

 わたしはちゃんとしたお姉ちゃんになろうと努力してみたのよ?

 だけど、ね。


 ルイーザって本当に変わった子!

 どうしてそんなにおじいちゃまに会いたいの? って訊いたら「あなたも大人になればわかるわ」って。

 九つも年上の姉に向かってよ?

 あー、もう! さっき言われたときは驚いただけだったけど、書いてて思い出したら腹が立ってきちゃったわ!

「まずは恋をしてみることね」って、何よそれ!?

 わたしたちは、会ったこともない実の祖父の話をしているのよ!?



 書いてたら気持ちが落ち着いたわ。

 このまま送っちゃうけど、ごめんね。


 冗談を言えるぐらいには仲良くなれたってことなのかしら?

 もっと笑ってあげれば良かったのかな?





 そろそろって時間になってもアデリン叔母さまは起きてこなくて、それでわたしとルイーザの二人だけで教会へ行ったの。

 昨日は慌ただしくて建物の様子とかろくに見ていなかったけど、小さくてもどっしりしていて、歴史の有りそうな上品な造りだったわ。

 庭や霊園の手入れも良く行き届いてた。


 牧師さまは墓地の、昨日ルイーザと居たのと同じ区画に立ってたの。

 真っ白な髪の、品のいいおじいさん。

 寂しい感じだったけど、お墓ってそんなもんじゃない?

 墓石の形や大きさが、判で押したみたいに似たようなのがそろっていても、この町ではそうなんだなってぐらいにしか思わなかったの。

 刻まれている日付けが全部同じだなんて、言われるまで気づかなくっても、妹に観察力がないみたいに言われるほどのことじゃあないわよね?


 とにかくわたしは牧師さまに、昨日は妹がお世話になりましたってお礼して、さっさと帰ろうとしたの。

 だけどルイーザはわたしが手を引っ張ってもビクともしなくて。



 ルイーザと牧師さまの会話は、何それ? って思うようなことの連続だったわ。

 録音したり、その場でメモを取っていたわけじゃないから、細かい部分は違うかも知れないけど、だいたいこんな感じよ。





ルイーザ「昨日の話の続き。四十三年前にパトリシアと別れてから、サン・ジェルマンに何が会ったのか教えて」

牧師さま「子供に聞かせられるような話ではありません」

ルイーザ「今日は大人も連れてきたわ」



 わたし、ちょっとびっくりしちゃった。

 ルイーザがこんなことを言うなんて。

 でもこれはまだ、ほんのちょっとのびっくりよ。



ルイーザ「ここにあるのはすべて、四十三年前の鉄道事故の犠牲者のお墓」

「その汽車に、サン・ジェルマン・ルルイエとパトリシア・ルルイエが乗っていた」

「事故の生存者はこの二人と、生まれたばかりだったヘンリーだけ」



 牧師さまはとても驚いていらしたわ。

 わたしは驚くを通り越してキョトンよ。

 わたしは同じ家族の姉よ?

 なのに何で、姉のわたしが知らないことを、妹が当たり前みたいに話してるのよ?

 ああ、この時は驚きに飲み込まれて、ただただキョトンとしていたけれど、今から考えると悔しいわ。

 ルイーザが家に来たとき、この子のことを異分子みたいに思ったけれど、弾き出されたのはわたしのほうだったのよね。




 こんな話より列車事故のほうをオリヴィアは知りたいわよね?





牧師さま「脱線事故のあと、火災が起きたため、遺体が見つからなかった人がいるのは事実です」

「生存者は、新聞で読んだ限りでは、一人もいなかったはず」



 どう? 怪しいでしょ?

 新聞で読んだ、ですって。

 新聞よ、新聞。

 わたしだって自分の家のことでデタラメを書かれる前だったら、新聞って聞けば信用しちゃっていたわ。



 鉄道事故の犠牲者が集まって埋葬された区画に、名前のない墓石が二つあったの。


牧師さま「身分を示すものは事故後の火災で焼け落ちており、探しに来る親族もいませんでした」

「抱き合った状態で遺体が発見されたことから、夫婦として埋葬いたしました」

「警察のかたの話では、お二人とも二十歳前後。女性は骨盤の状態から出産経験があると思われましたが、子供は現場からは発見されませんでした」



 そうしたらルイーザがいきなり「ヘンリーとヘンリエッタ」って言って、わたし、ギョッとなったの。

 ヘンリーはわたしたちのパパと同じ名前よ。





ルイーザ「ヘンリーもヘンリエッタも良くある名前」

「二人は、旅先で荷物係にトランクを間違えられたのがきっかけで知り合って意気投合した」

「だけどヘンリーは貧しく、ヘンリエッタの両親に結婚を反対されて駆け落ちした」

「息子の名前はヘンリー・ジュニア」

「事故のあった列車でこの一家は、ルルイエ夫妻と同じボックス席に座っていた」



 この辺りで妙な予感はしてきていたのよ。

 だけどわたしは黙って聞いていたわ。

 だって何も知らないのはわたしだけなんだもの。



ルイーザ「汽車はインスマウスの人々に襲撃された」

牧師さま「そのように噂するかたもおられましたが、何の証拠もありません」

ルイーザ「目的は生け贄の儀式。たくさんの人間の生命を、ブルーダイヤに浴びせようとした」

牧師さま「なんと冒涜的な話を」


 牧師さまが十字を切って、わたしも慌てて真似をした。

 たくさんの人を生け贄にする儀式。

 これってわたしたちがインスマウスで体験したのと同じよね?


ルイーザ「ヘンリエッタは炎に巻かれて死ぬ前に、ヘンリー・ジュニアをサン・ジェルマンに託した」


「サン・ジェルマンはパトリシアに、ヘンリー・ジュニアを守ることと、イギリスに帰ることを指示し、自身はアーカムに残った」


「そしてそれっきり、サン・ジェルマンがパトリシアの待つイギリスに戻ることはなかった」

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