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キャロライン・ルルイエの消息  作者: ヤミヲミルメ
ブルーダイヤを継ぎし者
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高齢の執事の話

「ヘンリー様とキャサリン様は、非常に仲の良いご夫婦でございました。

 ヘンリー様が不倫をなさっていただなんて考えられません!」



「ヘンリー様はご結婚に際し、奥様の苗字になることを望んでおいででした。

 アンダーソン家の婿養子になろうとしておられたのです。

 と言うより、父親の苗字から離れようとなさっておられたのですなぁ。

 それほどにお父様を恨んでおられたのでございます。


 ですがパトリシア様が猛反対をなされまして、もしルルイエの名を捨てるならヘンリー様を相続から外すとまで申されまして、やむを得ず……パトリシア様のご両親は、大変な資産家でございましたので……」



※ヘンリーはパトリシアの一人息子。



「そもそもルルイエとは、一体全体、どこの国の言葉なのでしょう。

 ジェルマン様のお名前がジャーメインのフランス語読みだというのはわかるのですが、フランス人の知人に訊いて回っても、ルルイエなんて言葉は初めて聞いたと言うばかりでございまして……


 いえいえ、決して独断で詮索をしたわけではございません。

 ヘンリー様のご命令を受けてのことでございます。


 ああ、はい、サン・ジェルマン・ルルイエ伯爵というのが、ヘンリー様のお父様のお名前でございます。

 キャロラインお嬢様のおじい様でございます。

 スペインの貴族だと自称しておられましたが、このお名前はスペイン語でもございませんね」



「サン・ジェルマン様にお会いしたのは、あのかたがパトリシア様と結婚なさる直前……

 私がまだ見習いとしてパトリシア様のご実家に仕え始めたばかりの、ほんの若僧だったころのことです。

 パトリシア様の指に輝くダイヤのような、ぞっとするほど青い目をしたかたでございました。


 失礼。ぞっとするほどと言うのは適切ではございませんでした。

 何とも言えぬ妖艶な青色なのでございます。

 海の青にも空の青にも例えられない、不気味な……いやいや、ミステリアスな青でございました」





※記者、質問。

 サン・ジェルマン・ルルイエの瞳の色が、ルイーザ・ルルイエの瞳と同じだと言うのは本当か。


「恥ずかしながら私、ルイーザ様にお会いしたことは、一度もないのでございます」



※記者、質問。

 執事の退職届の日付けが、ルイーザの生年月日と一致している件について。


「……良くそんな紙切れが残っておりましたな。

 いやいや、良くお調べで……。


 私からはこれ以上は何も申し上げられません。

 狂人呼ばわりされるのは嫌ですからな。

 まあ、この年では何を言ったところで耄碌(もうろく)したのだと思われるだけですかな」



「ええ、ええ。あの屋敷には長く勤めさせていただきましたとも。

 パトリシア様のご両親にも可愛がっていただきましたとも。

 それでもね、一瞬で逃げ出すような事態が起きたのですよ。

 逃げる前にきちんと手続きを済ませた自分を今でも褒めてやりたいですよ。

 あなたほどの記者のかたなら、すでに調べてあるのでしょう?

 どれほどの数の使用人が、あの日を境に、屋敷を去ったか」


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