笑顔
最終回です。
「んん〜っ…はぁっ!気持ちのいい朝だね〜」
「ふぁあ…まだ眠いわ…」
「お嬢様はそもそも吸血鬼で夜型ですからね〜」
今朝はとても晴れていて暖かい。
「シトラス様っ、今日はどこへ向かうのでしょうかっ!」
「んふふ、可愛い…この辺だと…あ、ちょっと行きたいところあるんだけど、いい?」
「「?」」
***
「ここは…?」
「私とフィールの家だよ」
広い平原にぽつんと建っている小さな家。
旅が終わったらここに住もうと、2人でこの土地を買ったのだ。
「うわぁ…埃だらけじゃない…」
「しばらく帰ってなかったからね〜、けほっけほっ…」
「任せてください!お掃除は得意です!」
置いてあった箒を使って蜘蛛の巣をはらい始めた。
「近くの川で水汲んでくるね」
私はバケツと布を持ち、外に出た。
蝶がひらひらと飛んできて、バケツにとまった。
…もうこんな季節か。
フィールがいなくなってちょうど2年かな。
私は川で水を汲み、そのまま川を越えて森の中に入った。
しばらく進むと、1箇所だけ木の生えていない日の差し込む場所に出た。
「…久しぶり、フィール」
そこにはひとつの墓石があった。
フィールは身寄りのない孤児だった。
王都に連れて帰っても引き取り手がいないため、私たちの買ったこの土地に埋めたのだ。
「って、この間夢の中で会ったけどね」
墓石に話しかける。
もちろん返事はない。
「ずっと放置しててごめんね。会いに来るのが怖くて…」
私は墓石に少し水をかけた。
「あーもう、苔が張り付いてる…」
墓石に生えている苔を手で毟り、濡らした布で拭いた。
汚れが落ちていくと、墓石に書かれている文字が読めるようになってきた。
『英雄、フィール・サテライト。ここに眠る』
懐かしいな。
学生時代の私たちはいつも成績の1位2位を競い合うライバルであり、それと同時に誰よりも仲の良い親友であった。
「私たち、誰にもトップを譲らなかったよね…そして最後の最後で私が勝ち越した、ふふん」
卒業式の日にお父様に今までの不満をぶちまけて、王都から逃げた。
学生寮に旅の資金を丸ごと忘れて、無一文の状態で魔王討伐の旅に出たっけ。
モンスターを討伐しながら細々と旅を続けて、最後には魔王を討伐した。
「あ、いたいた。なにやってんのよ」
「シトラス様、それは…」
背後からやってきたのは私の可愛い彼女たちだった。
「ごめんごめん。ちょっとフィールのお墓参りをね」
「だ、大英雄様のお墓ですか…!?」
「なによ、言ってくれたら探しに来ることもなかったのに…」
アンナとアルトは2人でお墓の前に膝をつき、手を合わせた。
しばらくそのまま目を瞑り、2人は立ち上がった。
「それで、2人は大英雄になんて祈ったの?」
「…別に祈ってないわ。シトラスのことは私たちに任せなさいって勝手に約束したの」
「えへへ、僕もです」
「ーーっ!んもー!2人とも可愛いなぁああ♡」
「わっ!ちょっ、やめなさい!」
「むふー…シトラス様のなでなで気持ちいいですぅ♡」
2人を抱きしめ、撫で回した。
「さ、戻って掃除しよ!」
私はバケツと布を持って立ち上がった。
2人も立ち上がり、振り返って家の方に歩き出した。
『シュトラウス、お幸せに』
「…?」
フィールの声が聞こえた気がして振り返った。
しかし、そこには誰もいない。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
もう泣かないよ。
だから私は笑顔で手を振った。
「またね!フィール!」
これにて完結です。
完結ですが、その後のお話とかシトラスとフィールの過去編とかも書きたいな〜とか思ってます。
いつになるかは分かりませんが、もしも見つけたらそちらも読んでいただけたら嬉しいです。
最後に、短くて稚拙なお話でしたが、ブックマークや評価をつけてくださった方々、そして読んでくれた方々へ。
本当にありがとうございました!




