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旅人と吸血鬼  作者: うらにうむ
12/18

お祈り


「ああもうっ!びしょびしょじゃない!」


シトラスが突然倒れ、休める場所を探していると雨が降り始めた。

来たくなかったが、渋々近くにあった父上の別荘に避難することになった。

夏季の休暇で使うくらいしかここに来ないため、現在は誰もいないはずだ。


「お嬢様、お着替えどうぞ」


「ありがと…シトラス、大丈夫かしら…?」


ベッドに寝かされたシトラスは、荒く息をしながら、眠っている。

その表情は苦しそうで、見ているこっちも辛くなってくる。


「心臓は動いてますし、息もしてます…でも、魔力の流れが不安定です。原因は…昨日と今日のお仕事で魔力を使いすぎたからだと思います。もし魔力欠乏症なら2日間位は目を覚まさないかも…」


「…早く目を覚ますことを祈りましょう」


2人でシトラスの服を脱がし、雨で濡れた体を拭く。

22歳と私たちよりも少し年上だが、こんなに若くて美人…

腕もこんなに細くて、戦いに向いている体には見えない。

なんで、こんなに危険なことを見返りもなくやっているのだろう。

どうして、そこまで他人の為に尽くすことが出来るのだろう。

私には到底理解できない…


「これでよし、と。とりあえず村で買った食材で夕飯作ってきます。お嬢様はシトラス様を看ててあげてください」


「分かったわ」


ざぁざぁと、雨粒が窓に当たる音だけが鳴る部屋。

既に外は暗くなっており、シトラスが倒れてから結構な時間が経ったことが分かる。

シトラスの手を握り、額に当ててお祈りする。

…吸血鬼が神様にお祈りだなんて珍しい事やってるんだから、早く目を覚ましなさいよ。


「…ふぃー、る…」


ぽつり、と呟いた。

フィール…この間、シトラスが泣いていた時に呟いていた名前。

私が知らない、きっとシトラスにとっては1番大切であろう人物。

私がいてもなお、夢に出てくるほど忘れられない人物。

…少し妬けてしまう。


「いか、ないで…」


シトラスはそう呟いて一筋の涙を流した。

行かないで…

シトラスを捨てたのだろうか?

それとも、やむを得ない事情で離れなければならなかったとか…

掠れた声で必死に呼び止めるシトラスを見ていると、胸が苦しくなる。

シトラスの手を握った。

助けてあげたい。

私がいる、って安心させてあげたい。

…そんなことを言えるくらい、私はシトラスにとって大切な人になれているのだろうか。


「お嬢様、夕飯です。…泣いているのですか?」


「…いえ、大丈夫よ。あなたもお腹がすいているでしょうから、早く食べましょう」


「あはは、バレちゃいましたか」


そう言ってお腹が鳴っているアルトと一緒に、夕飯を食べた。

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