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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第四章

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一番最初の客様

 開店当日の一番最初のお客様。


 俺のこれからを占ううえで一番重要になるその人は果たして誰なのか。


 もちろん最初のお客様なんて本当は誰でもよくて、これも願掛けみたいなものなんだけど。


 それでも気になるじゃない?


 店の名前も決まりさぁ、これからだ!と開けたその先にいたのは・・・。


「もう待ちくたびれちゃったよ!」


 最初は村長とか村の人とかそんなもんだろうなぁと思っていたわけでして。


「そんな言い方したら、シュウちゃん困っちゃうよ?」


 まさか精霊様が二人で来るっていうのはちょっと想像していなかったなぁ。


 だって商品買う必要ないじゃない。


 むしろ買って何に使うの?


 というかお金あるの?


 ていうか何で?


「おはようございます、ドリちゃんディーちゃん。」


 言い方を開違えると大変な事になるので精霊様とはいえこの二人にはフレドリーな会話を心掛けなければならない。


「おはようシュウちゃん。今日お店が始まるって聞いてディーちゃんと来ちゃった!」


「おめでとうシュウちゃん。これ、お祝いに二人で作ったんだよ。」


 そう言ってウンディーヌが葉っぱで包まれた小包みをくれた。


 なんだろう国民的森の精霊ト〇ロに出てきたのと同じ見た目なんだけど。


 ドングリでも入っているんだろうか。


「ありがとう、開けてもいいのかな?」


「もちろん!」


「気に入ってくれると、うれしいな。」


 目の前で開けるというのもなんだが、すぐ開けてほしそうだったので店の真ん前だが開封する。


 葉っぱの紐をほどくと包みの中から水色と緑の結晶が、掌に転がり出てきた。


 なんだこれ。


 どんぐりでも木の実でもない、どこかで見たことのあるような結晶。


 つい最近見たような気がするだけど・・・。


「おはようございます水の精霊様、森の精霊様。」


「あ、シュウちゃんの奥さんじゃない、おはよ~。」


 軽い。


 今日も非常に軽い。


 というかギャルい。


「シュウちゃんの奥さん羨ましいな。かわってほしい・・・。」


 この子も怖いこと言わない。


「エミリア、二人が素敵な物をお祝いに持ってきてくれました。」


「精霊様がお祝いに!?」


 そこまで驚く事なのかなぁ。


 確かに精霊は普段人前に出ることもなくて会う事もとても大変だという事は理解しているつもりだけど、この二人に関しては何て言いうか大盤振る舞いというか。


 あの後もふらっと来ては世間話して帰っていくし。


 近所の年の離れた子供っていう感じがどうしても離れない。


 見た目的な部分も相俟ってそう感じるのかもしれないけど。


「これは魔石かな。」


 思い出したよ、これネムリの店で見た魔装具についていた魔石と一緒だ。


 赤い魔石もあったし似たような形だった。


「うーん、魔石っいうのはね、ずーっと昔の魔力が深い深い土の下で固まった物なの。でもこれはちょっと違うかな。」


 違うのか。


 魔石っぽい感じだったけど。


 でも二色混じっているのはなかったしなぁ。


「これはね、ドリちゃんと私が、シュウちゃんとお店の為に作った、お守りなの。」


「お守り?」


「そうなの。悪いものが来ても、怖くない様にって。嫌だった?」


「そんなことないですよ、素敵なお守りをどうもありがとう。大事にしまっておくね。」


 不安そうに俯くんじゃないの。


 悪い事した気分になるじゃないか。


「ダメダメ、しまったら意味がなくなっちゃうよ!ちゃんと見える場所に飾っておかないと。」


「高い所とか?」


 神棚でも作ったらいいんだろうか。


「頭より高い所なら、どこでもいいよ。私達が、見えるように置いておいてね。」


「わかりました。大切に飾らせてもらうね。」


 そういうと俯いていた顔をパッと輝かせて嬉しそうに笑うウンディーヌ。


 可愛いなぁもう。


 思わず頭を撫でてしまった。


「あー、ずるいずるい!ドリちゃんも頑張って作ったんだよ!結晶をくっ付けるの大変だったんだから!」


「ドリちゃんは細かい作業、苦手だもんね。」


「だから木の実とかお魚とか魔物とかいっぱいあるやつにしようって言ったのにさぁ。」


 ブーブー文句を言うドリアルドの髪をクシャクシャと少し乱暴にかき回す。


 どうやらそれで満足したのかドリアルドも嬉しそうに笑った。


 木の実や魚は嬉しいけどさ魔物はちょっと・・・。


「二人とも本当にありがとう。最初のお客様が精霊の2人だなんて光栄だよ。」


「えへへ、そう言ってくれると頑張った甲斐があったよ。」


「シュウちゃんが喜んでくれて、私もうれしい。」


「これからもこの店をよろしくね、お買い物するときはサービスするよ。」


 買い物するかどうかは知らないけど。


「私達お買い物しないからさ、代わりに今度来る時までに素敵なお土産準備しててよ。」


「キラキラ可愛い物がいいな、奥さんが、つけてるのとか。」


 目ざといな二人とも。


 エミリアの指輪を見ながらおねだりですか。


 でもなぁ指輪はダメですよ。


「ではまた町に行った時に探しておきましょう、約束です。」


「ほんと!?絶対に約束忘れちゃダメだからね!」


「約束破ったら、メッだよ。」


 精霊と約束その2ですか。


 でもまぁこの二人になら別に構わないかな。


 俺の店に来てくれた一番最初のお客様。


 まぁ買い物したわけじゃないからお客様っていうかどうかは微妙な所だけど、世にも珍しい精霊が二人も来てくれたというだけでも十分願掛けとして魅力的ではないだろうか。


 ありがとう二人とも。


 そんな気持ちを知ってか知らずかこれまた嬉しそうに笑っている。


 精霊様っていうけど俺には普通の子供にしか見えないんだよな。


 魔力があったらもっと違う感じなのかな。


 後で聞いてみよう。


「そうですねぇ、それじゃあ指切りしようか。」


「「指切り?」」


 おや、そういう文化はないのか。


 それとも精霊には縁がないものだからだろうか。


「元の世界では約束を違えないために指切りというおまじないをするんだよ。」


「面白そうやりたい!」


「どうやって、やるの?」


 のってきたのってきた。


 やっぱり子供だなあ。


「お互いの小指と小指をひっかけて、そうそう。」


 右手がドリアルド、左手がウンディーヌ。


 触れた指先に体温を感じないという部分でやはり人ではないと認識する。


 そうか体温がないんだ。


 この姿はあくまでも仮のものなのだろう。


 ウンディーヌの方が少し冷たいのは水の精霊だからかな。


「最後の言葉が『指切った』になるので、そう言いながら指を離してくださいね。」


「最後だね。」


「大丈夫かな。」


「いきますよ、指切りげんまん嘘ついたら針千本の~ます・・・。」


「「「指切った!」」」


 ひっかけた指を上下に振りながら最後の言葉で指をパッと話す。


 とたんに俺の小指が両方共光だし、根元にそれぞれ緑と水色の痣のようなものが残った。


 痛くはないけどなんだこれ。


「針千本も飲んだら大変だね。」


「シュウちゃん人間だから死んじゃうよ?」


「そうならない為に約束するんです。でもこれは何でしょう。」


 二人の前にできた痣を見せてみる。


「それは『言の葉の鎖』だよ。」


「精霊と約束を交わした、証だよ。」


 なるほど確かに鎖のように見える。


 言葉は人を縛るというからそういう意味があるのかもしれない。


 精霊との約束を忘れないために。


「これを見たら思い出して忘れずに買ってきますね。」


「もし約束を守ってくれたらシュウちゃんのいう事な~んでもきいちゃおうかな~なんて。」


「お嫁さんに、なるよ?」


 それはお断りしたと思うんですけど。


 まだあきらめてなかったんですか。


「このお守りの御礼だから別にいいのに。」


「本当にシュウちゃんは欲がないなぁ。普通精霊がお願い聞いてくれるって言ったらみんな好き勝手いうのに。」


「シュウちゃんはそこが素敵、なんだよ。」


 素敵かどうかはさておき欲がないわけじゃないんだよ?


 むしろエロい欲望はうず巻いております。


 でも本当にお礼だし今回もまぁいいかな。


「もし思いついたらお願いしますね。」


「シュウちゃんならなんでもしちゃうよ。」


「しちゃうよ。」


「あはは、楽しみにしています。」


「じゃあ目的の物は渡したしそろそろ行くね。」


「素敵なお店に、なりますように。」


 二人は目を瞑り祈る様に手をかざすと、すぐ目を開けてまたいつものように笑いだす。


 そしてバイバイと手を振りながら消えてしまった。


 最後のはいったい何だったんだろうか。


「行ってしまわれましたね。」


「そうだね。でも最後のはなんだったんだろう。」


「精霊様が祝福をしてくださったのではないでしょうか。」


 精霊の祝福の店版って感じか。


「あの二人が祝福してくださったのであればこの店はもう安心ですね。」


「そうですね、こんな素敵なお守りもいただきましたし。すごい魔力を感じます。」


 そうなんだ。


 これってすごい魔力があるんだ。


 やっぱり神棚作るか?


「御主人様お二人はお帰りになりましたか?」


「おかげ様で無事に帰られました。また約束をしてしまいましたが。」


「精霊様の約束ですから忘れず叶えてあげなければなりませんね。」


 忘れると本当に針千本飲まないといけないからね。


 相手が相手だし。


「あの、イナバ様先ほどのお子さんはどちら様でしょうか。」


「あぁセレンさんはご存じありませんでしたね。あの二人はこの森と水の精霊ですよ。」


「精霊様とお知り合いなんですか!」


「そんなに驚かなくても・・・。」


「シュウイチさん普通は精霊様と会う事などあり得ません。ましてやそんな相手に気軽に話しかけ、そのような約束を交わすなどありえないことなんですよ。」


 エミリアが『言の葉の鎖』を見つめながら教えてくれた。


 一生かかっても会わないのが当たり前。


 そんな相手が来たらそれはもうびっくりするか。


 いきなり芸能人が目の前に来たみたいな感覚なのかもしれない。


 ん~ちょっとちがうか?


「そういう事ですのでもし今度来ることがあったらおもてなししてあげてください。」


「美味しい物いっぱい召し上がっていただかないと、でも何がお好きなのでしょうか。」


 そもそも何か食べるのかな。


 まぁ食べれないってことはないと思うけど。


「セレン様の料理であれば精霊様もご満足いただけると思います。」


「そんな。ユーリ様が思っておられるほどすごいものは作れませんよ。」


「何を仰います!セレン様の料理がすごくないのであれば私の料理など魔物の餌も同じです。」


 ユーリさん、そんな言い方すると毎朝魔物の餌食べてることになるからやめなさい。


「美味しいセレンさんの料理はお昼に期待するとして、そろそろ本当にお客様が来る頃ですからそれぞれ準備しましょうか。ユーリとセレンさんは食事の準備と宿の確認を。私とエミリアは商店の品出しと確認を。それぞれお願いしますね。」


「「「はい。」」」


 ドタバタで始まった店の開店だったので改めて持ち場に戻り準備を始める。


 商品はあらかた覚えている。


 しまった場所も確認済みだ。


 覚えられないようなやつは付箋代わりの紙を貼り付けてある。


 後は気合で覚えるだけだ。


 とはいってもまだ扱う商品が少ないのでストックの半分はすっからかんなわけだけど。


「おはようございますイナバ様、開店おめでとうございます。」


 商品を確認中後ろから声を掛けられ、振り向いた先には村長がいた。


「おはようございますニッカさん。ご丁寧にありがとうございます。」


「村人全員でくるわけには行きませんので代表して参りました。よろしければこれをお納めください。」


 丁寧に風呂敷のような物で包まれている何かを村長がカウンターに置く。


「あけてもよろしいですか?」


「もちろんです。」


 布を解くと赤い布が出てきた。


 マトリョージカでしょうか。


 いや、商売繁盛の願掛けだな。


「村の者がどうしてもといいまして数が増えてしまいました。」


 中には10枚以上の赤い布が入っている。


 大きさはランチョンマットぐらい。


 この大きさなら宿のほうでも使えるのでちょうど良いかもしれない。


「こんなにたくさん、ありがとうございます。」


「このような物しかご準備できず申し訳ありません。イナバ様にしていただいたことを考えればもっと良い物を差し上げるべきだとは思っているのですが、なにぶんまだ蓄えが少ないもので、お許しください。」


「何を仰います、皆さんのお気持ちだけで十分ですよ。これからお互いに大きくなる中でこの店を御贔屓にして貰えるだけでありがたいです。」


 義父にこれ以上の物をもらうと言うのは気がひける。


 お互いにそのあたりは意識しないようにしているが、やはり気になるものは気になってしまう。


「私たちとしても近くに便利な店ができて助かっております。ダンジョンが大きくなれば村に来る人も増え、村も潤うことでしょう。それに村の拡張も進んでいますし、この秋には昨年以上の収穫も見込めます。何から何までイナバ様のおかげだと村の誰もが思っていますよ。」


「私は別に何もしていませんよ。力がなくて畑も耕せない身ですから、使えるのはここだけです。」


 そう言って自分の頭をコンコンと叩く。


 それを見て村長はニコリと笑った。


「何を言いましてもそう仰いますね、イナバ様は。」


「本当のことですから。村を大きくしているのは村人やウェリス達で、私はそのきっかけを作ったに過ぎませんよ。むしろセレンさんを紹介していただいてこちらとしては大助かりです。」


「彼女も非常に喜んでおりますので、是非使ってやってください。」


 使うとか言うと別の使い道にきこえてしまう。


 どうもすみません。


 最近ご無沙汰なもので。


「では商売の邪魔になってしまいますので私はこの辺で。また村にもお立ち寄りください。」


「もちろんです、まだまだ助けて頂きたいこともありますのでこちらこそよろしくお願いいたします。」


 村の拡張についてお願いしなければならないこともある。


 まだ決めかねているが、今日メルクリアが持ってくる課題次第では村長の許可をもらわなければならなくなるだろう。


 村と商店はお互いに支えあって成長していくべきなのだ。


 そういう意味では非常に良好な関係を結べているので助かっている。


 近くの村では総スカンとか商売する条件としては最悪だからね。


 村に帰る村長を店の外で見送り、頂いた布をユーリたちに渡す。


 センスのない俺よりも綺麗に使ってくれるに違いない。


「村長様はもうお帰りになられたんですか?」


 後ろには二人分のお茶を入れたエミリアが立っていた。


 ありゃ、お茶入れてくれたんだ。


 ごめんよエミリア。


 来客用に応接室のようなものがやっぱり必要かなぁ。


 宿の奥を使えば構わないかなって思ってたけど今度の件もあるしそこを考えておいた方がいいかもしれない。


「先程お帰りになられました。村の皆さんからたくさん願掛けの布をいただいたので、店のいい場所においてあげてください。」


「わざわざ持ってきてくださったんですね。」


「後で開店の挨拶に行こうと思っていたけど先を越されてしまいました。」


「夕刻にご挨拶にだけでもいきましょうか。」


「そのほうがいいかもしれませんね。」


 俺とエミリアだけで行けば問題ないだろう。


 そういえばセレンさんの迎えが来るって言ってたけど誰が来るのかな。


 来ないならついでに送っていこうと思ったけど、オッサンかウェリスとかが来るのかもしれない。



 その後村の人が挨拶がてら日用品を買いに来たぐらいで大きなトラブルなく時間は流れていった。


「お昼お先にいただきました。」


「もっとゆっくり食べてきても良かったんですよ。」


 先に昼食をとっていたエミリアが店の方に戻ってくる。


「やっぱり冒険者の方々はこられないですね。」


「まぁ名も知られていなければ整備もまだ完全ではないですからね。踏破しても大きな見返りがないんじゃくる事はないでしょう。」


「今までは開店すれば人が来たのでそんな事思ったこともありませんでした。」


 今まではそれなりに有名なダンジョンの近くに商店があったのだろう。


 まさかこんなに人が来ないとは想像していなかったんだろうな。


「今度の催しも含めて少しずつやっていくしかないですよ。」


「そうですね、一歩ずつ先に進むしかないんですよね。」


 走って前に行くことは出来ない。


 ただ亀の如き歩みでも止まらなければそれなりに前に進む事はできる。


 一歩一歩すすめばいい。


「あら、ずいぶんと暇そうですわね。」


「おかげ様でのんびりとお相手させていただきますよ。」


 さぁ昼食をというタイミングでメルクリアがやってきた。


「それじゃあゆっくりと貴方の命についてお話できそうね。」


「お手柔らかにお願いしますよ。」


 これからの自分の目標がどんなものか。


 聞かせてもらおうかな。


 開店初日のお昼はまだまだ食べられそうにないらしい。

次はいよいよ文字通り首をかけた目標発表です。

達成できるかどうかは彼次第ということで。

できるだけ現実的な目標設定にしています。

頑張って達成してくれると信じています。


それでは又二日後にお会いしましょう。

MHWやりすぎてなければたぶん二日後です・・・。

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