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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第四章

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ダンジョン商店はじまりました

 遠足前日は寝れないとか、遠足当日は熱を出すとか。


 イベントの前後には色々とトラブルがつき物だというけれど、幸い我が商店にそういうトラブルは無縁だったようだ。


 もちろん別の問題は山積みではあるのだけど、商店そのものは無事に開店の朝を迎えることが出来た。


 よかった、朝起きたら商店が燃えてるとか空き巣に入られたとかがなくて。


 空が明るくなり太陽はもうすぐ木々の向こうから顔を出すだろう。


 年甲斐もなく早起きをしてしまった。


 別に寝れなかったとかそういうわけではない。


 昨日は打ち合わせもそこそこに三人とも早めに寝たし、寝つきも良かった。


 本当はあれこれ考えたいことはいっぱいあったのだけど、過去に大事な日に寝過ごすという大失態をやらかしているので今回は自重することにした。


 詳しくはアリ討伐時を思い出してくれ。


 裏口から中に入り、まだ薄暗い店内を歩いて商店のカウンターまで向かう。


 街道に面したカウンターには木枠が嵌め込めるようになっていて、防犯対策もバッチリだ。


 ネムリにもらった赤いクロスは一番目立つこのカウンターの上に敷かせてもらった。


 千客万来。


 でもまぁ最初はそんな事はないと思う。


 おかげ様でりんごのマークのスマホのように開店前から人が並ぶなんてこともなさそうだ。


 これでいい。


 商店連合としては小さな店だが俺にとっては大きな店だ。


 ここからネムリの願掛けに相応しい店になるよう頑張っていこう。


 記念すべき最初のお客様は誰か。


 とりあえずそれが楽しみだな。


「シュウイチさんやっぱりここにいましたか。」


 振り返るといつもと変わらない笑顔でエミリアが立っていた。


 どうやら家にいないので探しにきたようだ。


「おはようございますエミリア。」


「おはようございますシュウイチさん、いよいよですね。」


「ここに来るまでに色んな事がありすぎていまさらな感じはしますけどね。それでも、今日が私の本当の第一歩です。」


「そうですね、本当は二ヶ月前にはこうやって始まるはずだったのに随分と遅くなってしまいました。でもその二ヶ月があったからこそ、同じ気持ちで今ここに一緒に立てるんだと思います。」


 同じ気持ちで。


 そうだな。


 二ヶ月前だったらまだ他人行儀で意思の疎通も出来なくてきっとギクシャクしていたと思う。


 衝突してしまい元の関係に戻ることが出来なかったかもしれない。


 でも今は違う。


 お互いの気持ちを尊重して、お互いの為にがんばることが出来る。


「一人はみんなのために、みんなは一つの目的のために。」


「それはなんでしょうか。」


「それぞれが支えあえばきっと目的を達成できるよって言う、元いた世界の言葉です。」


「一人はみんなのために、みんなは一つの目的のために。素敵な言葉ですね。」


「みんなで一つのことを成し遂げるのってすごく大変だと思います。これからこの商店はとても長い道を進んでいかなければなりません。平坦ではないでしょうし、大きな壁にもぶつかると思います。それでも一歩ずつ進んでいけばいつかは目的地に到着できる。一人では出来ないこともみんながいればきっと出来る。そう思っています。」


 一人で出来ることには限界がある。


 でもそれを二人でやれば苦労は半減する。


 じゃあ三人四人五人・・・増えれば増えるほど苦労を分け合え先に進む速度も速くなっていく。


 一人じゃないというのは非常に心強い。


 二ヶ月前。


 始めてこの世界に来たときには俺は一人だった。


 エミリアはいたけど、それでも一人だ。


 でも今は違う。


 エミリアもシルビア様もユーリもいる。


 もっとたくさんの人と俺は繋がっている。


 そのつながりの力を信じて頑張っていこう。


 今日が本当のスタートだ。


「がんばりましょうね。」


「とってもご迷惑をかけていくと思いますがどうぞよろしくお願いします。」


「こちらこそよろしくお願いします。」


 朝日が店の中に差し込んできた。


 明るくなってきた商店の真ん中でエミリアと硬い握手を交わす。


 妻であり仲間でありそして仕事のパートナーでもある。


 もはやエミリアなしでは生きていけない。


 そんな体にされてしまいましたとさ。


「お二人ともこちらにおられましたか。」


「おはようございます、ユーリ。」


「おはようございます御主人様。ダンジョンの見回り無事完了しました。特に問題なく正常に稼動しています。」


 俺よりも早く起きてダンジョンの見回りに行ってたんだよな。


 いつもご苦労様です。


「ユーリさんお疲れ様でした。」


「今朝も卵を頂戴しています。そういえば、今日の当番は御主人様だったと記憶していますが。」


 ユーリが手にしたかごの中には卵が入っているようだ。


 そういえば前回食事を作ったのはユーリだったっけ。


 朝からヘビーなステーキを食べたような気がする。


 元気を出さないといけないひだから今日もガッツリステーキで!


 なんて言える年ではもうないんだよね。


 最近脂っこいのが苦手でして・・・。


「卵があるなら今日は目玉焼きにしましょうか。シンプルですが美味しいですよ。」


「卵に目玉はありませんが。」


 いや鳥の目玉は食べませんから。


「見た目がという事ですよ。さぁ食事にしましょうか、食器は準備できていますのでユーリは飲み物を、エミリアはパンの準備をお願いします。」


「「わかりました。」」


 正直に言おう、スッカリ忘れていたと!


 食器は並べておいたけど誰の順番かまでは考えてなかった。


 まぁそんな日もあるさ。


 家に戻りフライパンを火にかける。


 全体に熱が伝わったら油を入れて一回し。


 卵を人数分と、先日のモフラビットの肉を冷蔵庫から出してきたので厚切りベーコンぐらいの厚みに切って一緒に塩で焼く。


 目玉焼きに何をかける戦争で言えば醤油軍に属する俺なのだが、こっちの世界には残念ながら醤油がない。


 なので現在は塩軍に鞍替えして戦争参加している次第だ。


 なに、ソース?


 なんだってマヨネーズ?


 よろしいならば戦争だ。


 え、ショース?


 どっちかにしてから戦場に来るんだな。


 オホン。


「後で罠を仕掛けておきますので明日以降も楽しみにお待ちください。」


 また仕掛けに行くんだ。


 肉だけじゃなくて毛皮も売買できるから別に構わないけど、お肉ばっかりじゃなぁ。


 でも宿のほうで出せばお金取れる上に材料費は0か。


 よろしい乱獲だ。


 でもそんなことしたら森の精霊様に怒られるかもしれない。


 何事もつつましく。


 獲り過ぎません。


「余った肉は宿の食事で出しますので適度に狩ってくれて構いませんよ。」


「村の人にもそのように伝えておきます。野菜などはお安く提供してくださると村長が仰ってました。」


 何から何までありがとうございます。


 そうだ、今日からあの人妻さんも正式に雇って申請しなくちゃいけないんだった。


 実は名前知らないんだよね。


 後で自己紹介してもらおう。


「さぁ簡単ですが出来ました、いただきましょう。」


 肉から出た油を吸って卵にも火が通った。


 ベーコンはカリカリも好きだけど目玉焼きには厚切り派です。


 某動く城に出てくるあれです。


 今回はそれをイメージして頂ければ幸いです。


 それぞれの皿の上にフライパンから目玉焼きと肉を移す。


 ユーリが入れてくれた香茶もいい香りだ。


 パンは別に焼いてくれたようでいいにおいがしている。


 コンロは使っていたけどまさか自前の炎で焼いたとか?


 各自の席に座り各々準備をする。


 エミリアはテーブルの上で指を交差させて待ち、ユーリはフォークを持ってスタンバイ完了状態だ。


「いただきましょうか。」


「「いただきます。」」


 目玉焼きは半熟。


 それが俺のジャスティス!


 崩した卵の黄身にパンをつけて食べるのが至高!


 もちろん異論は認める!


 食べ方なんて人それぞれです。


「確かに目玉のように見えます。」


「一つ目ですからサイクロプスの目ですね。」


 あー確かにあれは一つ目の巨人だったな。


 そう考えると食べにくくなるので考えないでおこう。


「食事が済み次第商店に移って開店準備をします。といっても大方終わってますから後はお客さんを待つだけですけどね。」


「私はどうすればよろしいでしょうか。」


「ダンジョンの整備は必要になったらで構いませんので、商店のほうを手伝うか、森に行って貰っても構いませんよ。ただし無理はしないようにお願いします。」


「ではそのようにさせていただきます。」


 魔物に襲われたとかになったら大変だ。


 家の近くも魔物が出ないわけじゃないし俺もそれぐらい簡単に退治できるぐらいには成長しておかないといけないよなぁ。


「メルクリア様はお昼過ぎに来られると思います。節が移りましたので商店連合本部の会議に出てからになるかと。」


「昨日の今日であの人も大変ですね。」


「ですが昨日のメルクリア様は本当に楽しそうでしたよ。決裁の仕事ばかりが多いのであんなふうに現場の一人として対等に議論を交わすなんて事ほとんどありませんから。本当はもっと現場で働きたいと思っているのではないでしょうか。」


 確かに見た目は可愛らしいので看板娘的な立ち位置にはいれるとおもうけど、あの口調で接客はちょっと向かないんじゃないかなぁ。


 それともどこぞのアパレル店員のように声色が変わるとか。


 あの声はどうも好きになれないんだよね。


 どこから出てるんだろうマジで。


「楽しんでくれているならそれは非常にありがたいことです。」


 いやいやされるなら断ってくれたほうが良い。


 本業がおろそかになってしまうのはそれはそれで問題がある。


 横流し問題も大事だが俺の本業はそもそもこっちだ。


 もっとも、本業の利益になる可能性もあるから、けしておろそかには出来ないわけだけど。


 人の命も懸かっているしね。


「ではそろそろ行きましょうか。」


 食後の香茶を美味しくいただき、スイッチを切り替える。


 体内時計ではそろそろ9時ぐらい。


 開店を9時半か10時と考えているのでそろそろ行かなければまずい。


「食器は昼食のときに片付けますので浸けておいてください。」


「リア奥様それは私がやりますのでどうぞ御主人様と一緒に商店へ行ってください。」


「いいんですか?」


「今日は大切な日ですから。私もすぐに向かいます。」


「おねがいしますねユーリ。」


「お任せください。」


 家事はユーリに任せることにして再び商店に向かう。


 外から太陽が降り注ぎ明かりも要らないぐらいに明るかった。


 あれ入り口に人影が見える、誰かいるみたいだ。


 まさか早くもお客さんとかないよね。


 急ぎ足で入り口に向かい扉を開けた。


「イナバ様エミリア様おはようございます。」


 そこに立っていたのは村から派遣されていたあの人妻さんだった。


「おはようございます、セレンさん。」


 エミリアが代わりに挨拶をしてくれた。


 助かった。


 そうか、この人はセレンさんというのか。


 村長の紹介で行った時はあまり名前とか気にしてなかったけど、確か自己紹介もした気がする。(お尻に目を奪われたとは決していえない。)


 うん、今日も素敵なお尻です。


「今日は早い時間からありがとうございます、セレンさん。道中大丈夫でしたか?」


「このぐらいの距離でしたら大丈夫です。帰りは迎えが来てくださるそうなので、今日からどうぞよろしくお願いします。」


 頭のつむじがバッチリ見えるぐらいに深々とお辞儀をするセレンさん。


 そんな丁寧にしなくても大丈夫なのに。


「そんなに畏まらないでください。確かに雇用主ではありますが、こちらのほうがお世話になると思いますのでお互い気楽に行きましょう。」


「何を仰います、畑仕事も出来ない私が仕事をさせていただけるなんて夢のようです。精一杯美味しいお食事で出迎えさせて頂きますね。」


「美味しいご飯期待しています。」


 朝食は自分たちで準備はするが、昼と夜は順番に一般の人と同じ場所で食事を取るつもりだ。


 あまりお堅い感じよりも最初はフレンドリーなほうが商売柄都合がいいかもしれない。


 冒険者の意見や実情を聞くにはそこに溶け込むのが一番である。


 もちろん仲良くなってもお値引きはありません。


 皆さん公平にがモットーでございます。


「ユーリが来ましたら改めて簡単な自己紹介と朝礼をしようと思います。」


「朝礼ですか?」


「朝の連絡会です。今日はこういう事がありますなんてことや、その日の決まりごとを報告します。終わりには終礼という引継ぎ会をします。今日あったこと、困ったこと、伝えておきたいことなどをみんなで共有しあうんです。」


 まぁ簡単に言えばホウ・レン・ソウを大事にしましょうという事だ。


 食事の席で聞いたほんの小さな噂話が大もうけの話になるかもしれない。


 もちろん大損するかもしれない。


 それを一人で判断せず皆で判断すればリスクは減らせる。


「一人はみんなのために、みんなは一つの目的のためにですね。」


「その通りです。みんなの為に情報を共有しあうんです。」


「私なんかがその中に加わってもよろしいのでしょうか。」


「もちろんですよ、セレンさんはもう私たちの一員ですから。」


 村人かどうかなんて関係ない。


 商店に関わってくれている以上大切な一員だ。


「お待たせいたしました・・・セレン様おはようございます。」


「ユーリ様おはようございます。」


「ただのユーリで結構ですと前にも申し上げたと思います。セレン様はもっと崇められても良い身でおられるのにどうしてそんなに下手になるのでしょうか。」


 ユーリにとってセレンさんは料理の師匠的存在である。


 そんな人が自分に敬称をつけることが納得いかないようだ。


 こういうところは柔軟に流してもいいんですよ、ユーリさん。


「呼び方は各自にお任せします。ではみんな揃いましたので、改めましておはようございます。」


「「「おはようございます。」」」


 挨拶は大事だ。


 礼に始まり礼に終わると剣道の世界では言うのだが、商売の世界では礼と挨拶が重要だ。


「今日無事に商店を開店する日を迎えることが出来ました、皆さんありがとうございます。小さい店ですが私にとってはかけがえのない場所になります。その場所を皆さんと盛り上げていけるというのが私のこれからの喜びであり楽しみです。大変なことがたくさんあると思います。そのときは無理せず一言声を掛けてください。一人で抱え込まずみんなで共有してください。」


 三人とも真剣なまなざしで俺を見てくれる。


 こんな仲間と一緒に仕事が出来る自分は幸せ者だな。


「この店は私だけのものではありません、村の人、冒険者、たくさんの人のものです。その人たちの為にもちろん自分の為に、これからがんばっていきましょう。私一人では何も出来ません。ここにいる三人とここに来られない多くの人に私は支えられています。どうか力を貸してください、その力に応えられるよう私もがんばります。」


 他力本願100%男は伊達じゃない!


 これからも全力で他力本願していくつもりだ。


 もちろんそれに応える努力は忘れないつもりだけど。


「長々と話をすると疲れますからこのあたりで。皆さんどうぞよろしくお願いします。」


 三人に向かって、そしてここにこれないたくさんの人に向かって頭を下げる。


「頭を上げてくださいシュウイチさん。」


「そうです、御主人様にはしっかり前を向いて貰わなければなりません。」


「精一杯がんばらせて貰います、ですからイナバ様はどしっと構えていてください。」


 どしっと構えていられるほど精神が強くなくてですね。


 チキンはチキンなりにがんばります。


 頭を上げると笑顔のエミリアがいる。


 不思議そうな顔のユーリがいる。


 オロオロしているセレンさんがいる。


 たぶんシルビア様がいたら苦笑いをしているんだろう。


 みんなの為、何より自分の為にがんばろう。


「さぁ、開店しましょうか。」


「待ってくださいシュウイチさん。」


 手を叩き気合を入れたそのときだった。


 このタイミングでどうしたのエミリア。


「どうかしましたか?」


「まだお店の名前が決まっていないんです。」


 マジか、名前決まってないのか。


 そうだった一度も決めたことなかった


 というか名前いるんだ。


 どうしよう何も考えてない。


「どうしましょう名前なんて考えていませんでした。」


 正直に白状するとエミリアがやっぱりと苦笑いしていた。


 だって忘れてたんだもの。


「名前は大事です今すぐにお決めください。」


「そうですよ、名前はとても大切なものです。」


 そういわれてもすぐに出てこなくてですね。


「う~ん。」


 腕を組み考える。


 考える。


 考える。


 かんが・・・。


「イナバ商店じゃダメ?」


「ダメじゃないですけど、こだわってつける方もいらっしゃいますのでお任せします。」


 こだわりたいけど、思いつかないんだよね。


「うーん。」


 悩んでいるそのときだった。


「すみませ~ん。」


 外からお客さんの声が聞こえてきた。


「どうしましょうお客さんが!」


「とりあえずこの件は保留という事で!」


 どたばたと準備し始めたときユーリが呟いた。


「シュリアンはどうでしょうか。」


 何それカッコいいな!


「シュリアン素敵な名前だと思います。」


「どういう意味なんでしょう。」


「エルフィーの言葉でしたら希望という意味です。」


 希望か。


 素敵な意味だな。


「いえ皆さんの名前をどこかに入れただけですが・・・。」


 え、そうなの?


 シュウイチ、エミリア、シルビア、ユーリ、セレン。


 本当だ、全部入ってる。


「うん、それで行きましょう。」


「私が決めていいのでしょうか。」


「みんなの名前も入り意味も素敵です、これ以上は見つからないと思います。ありがとうユーリ。」


 シュリアン商店。


 ちょっとキザっぽいけどカッコいい。


「シュリアン商店本日開店です!」


 外で待っている最初のお客さんを出迎えるため俺は扉を開けた。


 今日からがダンジョン商店の始まりだ!


やっと開店しましたダンジョン商店。

名前も決まりホッとしています。


さぁ最初のお客様は誰でしょうか。

それと横流しグループの件はどうなるでしょうか。

ひとまずまた後日お待ちください。

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