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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第四章

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苦手な上司との食事会in異世界居酒屋

 急に決まった食事会。


 いつものメンバーなら別に構わないんだけど、急遽参加のメルクリア女史。


 なんていうかね、そのね、いいんだけどね。


 別に嫌いというわけではないし。


 ちょっと初対面が強烈だったというか。


 怒らすと怖い相手というか。


 威圧感半端なくて胃が痛くなるというか。


 つまり苦手なんです。


 どうもすみません許してください。


 あの後とんとん拍子で話が進んだ一行は一度白鷺亭へと場所を移し先にメルクリアの部屋を確保することになった。


 その際に大勢で楽しく食事が出来る場所を聞くと、良いお店があるという事でまたしても支配人お勧めの店を手配してもらった。


 いつもありがとうございます。


 日も暮れるころゾロゾロと5人で目的の店へと向かうのであった。


 その道中のこと。


「メルクリア様と食事なんていつぶりでしょうか。」


「最近はこっちに来ることが少なかったから、冬の頃じゃなかったかしら?」


「確かケーキを食べに行ったときですよね。」


「ケーキとは聞き捨てなら無いな、そんな美味しい店があるなら私に教えてくれても良いだろうに。」


「その頃はまだシルビア様とは会ったことが無くてですね・・・。」


 先を行く女子が3人。


 背の順にメルクリア、エミリア、シルビアと並んでいる。


 あれ、リアが二人いる。


 結婚したらややこしくなりそうだななんて思ったけど、まずありえないか。


 だって相手はあのメルクリア女史だし。


 鬼女と結婚なんて。


 天変地異でも起こるんじゃないだろうか。


「お二人とも楽しそうですね。」


「ユーリにもそう見えますか。」


「はい、旧知の仲というのは新参者が入っていきにくい空気を作り出しますね。」


 わかる、わかるぞ。


 会社の飲み会に行っても、仲の良いメンバーだけがかたまって結局一人で飯を食べるようになる。


 いいんだよ、一人で鍋独占できるし。


 残り物を遠慮なく食べまくれるし。


 いいんだけどね、空気がね。


 ボッチ同士仲良くしようにも相手の事知らないし。


 女性のボッチとか話しかけることなんて出来るわけないし。


 そんな俺がいまや二人の奥さんいるんだもんなぁ。


「御主人様、私がいることをお忘れないよう願いします。」


「ユーリには心に決めた人がいますから。でも忘れてはいませんよ。」


「あの方は特別なんです。でも、御主人様も別の意味で特別ですよ。」


 別の意味で特別ってどう特別なんだろうか。


 わからん。


「私にもいずれこういう風に話す人が出来るのでしょうか。」


「出来ると思いますよ。あと1年もすればエミリアもシルビアもユーリにとってかけがえのない家族になるでしょう。今のところそれ以上増える予定はありませんしね。」


「ニケさんは家族にならないんでしょうか。」


「あの人は追われていてたまたま私と知り合っただけですから。家族とかそういう感じではないと思いますよ。」


 仮に買い取ったとしてもそういう風にはならないと思うんだけどなぁ。


「では精霊様はどうでしょうか。」


「あの人たちは特別すぎます。そもそも人の概念にとらわれるような方々ではありませんから。」


「そういうものですか。」


「あの方々を妻に娶るなど恐れ多いことです。一度迫られたことはありますが、全力で断りました。」


 子供は作れないから安心していいよとか言ってたな。


 跡取りとかそういう問題じゃなくてだな。


 それに見た目が犯罪過ぎる。


 そういう意味ではメルクリアも守備範囲の微妙に外なんだよな。


 よかった、そういう気が俺に無くて。


「誰を娶るという話なんだ?」


 急にシルビア様がこちらを振り返った。


 いや誰も娶りませんって。


「あら、やっぱりたらし男だったのね。エミリア考え直すなら今のうちよ。」


「誰か奥さんにしたい人がいらっしゃるんですか?」


 そんな顔で見ないでよエミリア。


「素敵な奥さんが二人もいますからこれ以上望むのは恐れ多いことですよ。」


「はいはいご馳走様。」


 プイっと音がしそうなぐらいにメルクリアがそっぽを向いた。


 なんだろう、リュカさんと同じ雰囲気をかもし出している。


 後輩が先に結婚すると先輩はあせる物なのだろうか。


 わからん。


 俺は後輩が結婚してもなんとも思わなかったけど。


 むしろ自分が結婚できるとは思っていなかったし。


 俺の嫁はいたけどね!


「まぁあと一人や二人増えたところで構わないだろう。男であるならそれぐらいの器がなければいかんな。」


「シルビア様は奥さんがたくさんいても大丈夫なんですか?」


「等しく愛してくれるなら別に構わないぞ。いい男にはそれだけの魅力があるし、シュウイチにはそれだけの価値があると思っている。少々軟弱な所は鍛えていけば問題ないだろう。」


 褒め殺されて腰が抜けそうですが、軟弱者でどうもすみません。


「私はあまりたくさんの女性がいると皆さんの魅力に負けてしまいそうで・・・。」


「リア奥様は誰にも負けないモノをお持ちではありませんか。」


 こらユーリ、そんなあからさまにエミリアの胸を見ながら言うんじゃないの。


 確かに誰にも負けないモノ(胸)をお持ちですけどね。


 それを言うとさぁ・・・。


「どうせ私は胸も背もありませんわ。」


 ほらメルクリアが自分の板胸を見て拗ねてるじゃないか。


 あ、板胸って言ったのは内緒ね、殺されちゃうから。


「そういう話はせめてお酒が入ってからにしませんか?」


「そういえばシュウイチが酒を呑むところを見たことがないな。」


「確かにあまりお呑みになりませんね。」


「別に嫌いではありませんが、こちらに来てからはあまり機会がなかったものですから。」


 呑めないことはない。


 むしろ吞み潰されないように強くなっていった方だ。


 最後の方は自棄酒というかすぐ寝るための睡眠剤代わりというか。


 つまりはあまりいい思い出がないんだ。


「これから行く店は珍しい酒を置いているそうだから呑み比べをしようではないか。」


「シルビア様はお好きなんですか?」


「騎士団の連中とよく呑んでいるからな、簡単にはつぶされるつもりはないぞ。」


 潰すこと前提の呑み会とか学生ですか。


 あーでも、騎士団で呑むとそういう感じになるのかなぁ。


 体育会系だし。


「おてやわらかにお願いしますね。」


 とまぁこんな感じで向かった先にあったのは一軒の居酒屋。


 紛うことなき居酒屋である。


 誰だよこんなところに現代の居酒屋作ったやつは。


 怒らないので出てきなさい。


 異世界食堂とか、異世界飯とか、異世界物は色々あるけどまさか異世界居酒屋があるとは。


 ふたを開ければどれも飯屋であり飲み屋であるわけだけど。


 ちなみにトリアエズナマはありません。


「ここですね。」


「見たことのない店構えだな、居酒屋『白民』か。」


 どっちだよ。


 融合するなよ。


「支配人の話だと昔異世界から来た人が始めたお店だとか。作られた本人は今王都の方で別のお店を経営しているそうですよ。」


「王都に店を出せるという事はかなりの実力があるという事だろう、楽しみだな。」


 とりあえず入り口ののれんをくぐってドアを開ける。


「「イラッシャイマセー」」


 ここは元の世界だろうか。


 威勢のいい声がいたるところから飛んでくる。


「予約していましたイナバです。」


「イナバ様ですねお待ちしておりました、こちらへどうぞ。五名様ハイリマース。」


「「よろこんでどうぞ~。」」


 もうやめて、俺のライフはもう0だ。


 こんなところまで忠実に再現しなくたっていいじゃないか。


「店の人間は元気があっていいな。」


「そうですね、皆さん楽しそうに働いておられます。」


 ブラック居酒屋じゃないならそれでいいよ。


 どうやらこの世界はホワイト企業が多いみたいだし、待遇が悪いと人が集まりそうにないからここもホワイトなんだろう。


 席はほぼ満員で皆楽しそうに食事を楽しんでいる。


 見た感じ、料理はこちらの世界のモノみたいだしちょっと安心した。


 そのまま店員に連れられて一番奥の座敷に通される。


 畳ではないな。


 あーでもこの造りは掘りごたつか。


 異文化融合しすぎだろう。


 とりあえず奥にみんなを座らせて入り口に近いところに陣取る。


 居酒屋のシステムで来るならばこの席が一番効率がいい。


 先程とは違う店員がすぐにお水とおしぼりを持ってきた。


 すごいな、おしぼりがほかほかだ。


 冷蔵庫の逆で蒸し器とかがあるのかもしれない。


「こちら本日のお通しです。」


 お通しまで来たか。


 これって拒否できるみたいだけどいつもその勇気が出ないんだよね。


「今日のお通しは何ですか?」


「今日は季節野菜のお漬物になります。」


 漬物か。


 塩もみすれば浅漬け作れるし、確かにこっちでも作れるな。


「先に飲み物から注文ですね。」


「よくご存じですね!」


 そりゃあ、元の世界で行き慣れていますから。


「お品書きはそこに書いてあるやつです、何から飲みますか?」


 ビールはないがワインや他のよくわからないお酒はあるようだ。


 ワインは紀元前からあるし探せばウイスキーみたいなものもあるかもしれない。


 それか異世界の人間がこっちにビールの製造方法を持ってきているかだな。


 小麦があるならビールも作れるだろう。


 結局全員がワインを頼んだけどね。


「それでは今日はお疲れ様でした、かんぱーい。」


「かんぱいですか?」


 何だって、こっちには乾杯の文化がないのか。


「居酒屋で食事をするときはまず先に乾杯と言ってグラスを皆で合わせてからお酒に口をつける決まりがあるんです。」


「本当かしら・・・。」


 嘘です。


 でもそういう事にしておきます。


「異世界の店であればシュウイチの方が詳しいだろう。」


「では乾杯をしましょう。」


「「「かんぱーい。」」」


 ワインだからルエッサーンスとかでもよかったんだけど。


 流石に嘘を思いつかなかったのでやめておいた。


 お品書きを読みたいが残念ながらまだ文字が読めない。


 少しずつ勉強はしているが30を超えると勉強してもなかなか頭に入ってこないから困ったものだ。


 ゲームのことについてならいくらでも覚えれるのに何故だろうか。


 二ヶ月で覚えたのは数字と簡単な単語だけだった。


「シュウイチさんメニューお読みしましょか?」


「食べたい物は皆さんにお任せしますよ、異世界の料理が出てくるなら名前を聞けば説明できると思いますので聞いてください。」


「わかりました。」


 居酒屋定番メニューならそんなに料理方法も難しくないし、ほぼ同じ物が出てくると考えていいだろう。


「このザンギエというのはなんだろうか。」


「おそらく味のついた鳥の肉を油で揚げたものです。」


「御主人様、エダマーメとはどんな豆でしょうか。」


「小さい豆を塩茹でした物だと思いますよ。」


 名前が微妙にニセモノっぽい。


 どこぞの国のパチモノみたいだなぁ。


「季節の果物パイのパンなんておいしそうじゃないですか?」


 それはパイなの?パンなの?パイ〇ンなの?


 オホン。


 店員さんを呼び適当に料理を注文する。


「ご注文はいりました、アリガトウゴザイマース!」


「「ゴザイマース!」」


 そこまで忠実に再現しなくてもいいのに。


 文化の侵食は神様に怒られたりするんじゃないのか?しらんけど。


 異世界物ではよくある設定だと思うんだけどなぁ。


「思っていたよりもたくさん料理があるのね。」


「メルクリアさんはこういう店にはあまり来られないんですか?」


「普段は家の料理人に作らせたものを食べているから、こういう街の店にはあまり入らないわね。」


 これだからお嬢様は。


 よくある設定だと、『こんな美味しい物があったのね!』的な感想が出ることが多い。


 それか一口食べて残りは笑顔で食べないかどちらかだ。


「でもメルクリア様は甘い物のお店にはよくいかれてますよね。」


「甘い物は外で食べないと美味しくないのよ。」


「それは確かにそうだな。やはりその店の空気や空間で食べるからこそ美味しく感じるというものだ。」


「さすがシルビア様はよくわかっておられますわね。」


 こういう店の雰囲気もいいと思うんだけどなぁ。


「おまたせしました。」


 店員さんが大量の料理を手にやってきた。


「手前においてください、こっちで奥に並べますから。」


「助かります。」


 こんな座敷の中まで入るのは大変だからね。


 サービス業の店員さんには優しくするべし。


 これ試験にでますよ。


 目の前に並べられた料理はどれも美味しそうで冷凍食品のような感じは一切しない。


 全部注文を受けたから作っているから大変だろうなぁ。


 でもけして難しい料理ではないし、なんとかなってるんだろう。


「これがザンギエですか。」


「ただ揚げただけではなく何かで包んでから揚げているようだな。」


 見た目はまさにザンギ、つまりはカラアゲだ。


 北海道ではザンギというんだったっけ。


 カラッと揚がっていて美味しそうだ。


 肉は野生の鳥かもしくはアームドチキンだろう。


 一口食べると魔物の肉とは思えないほどジューシーだ。


 これは是非ビールと一緒に呑みたかった。


「ご主人様、ただ茹でただけとは思えない味です。」


 ユーリは一心不乱に豆を食べ続けている。


 枝豆以上空豆未満の大きさをしたその豆は、黒豆のような皮に覆われてはいるものの、中身は綺麗な黄緑色をしていた。


 これもまた食べごたえがある。


 あー、ビールのみたい。


 居酒屋メニューって何でこうビールによく合うんだろう。


 梅酒とかでもいいけど、ワインよりビールだよな。


「エールでしたらありますよ?」


「え、あるの?」


「オーナーが言うビールというものまではいきませんが、似たようなものはご準備できます。」


 俺の心の呟きはどうも漏れやすいらしい。


 まさか店員さんにまで聞かれるとは思っていなかった。


「ではそれをお願いします。」


「はいよろこんで。」


 しばらくはゆったりとした時間が流れ、各々が好きなように食事を楽しんでいた。


 そう、さっきまでは。


 ふと奥を見るとエミリア、シルビア、メルクリアの三人が楽しそうに話をしている。


 シルビア様はほんのり顔が赤いけど、エミリアは全然だな。


 って、メルクリアは顔真っ赤じゃないか。


 お酒弱いなら呑まなくてもいいのに。


 顔だけが赤くなるだけで中身は普通だったらいいけどさぁ。


「なによ、たらし男がなにかご用かしら?」


 虚ろな目で絡んでくるし、どうみても酔っぱらいだし。


 うわー、絡んでほしくない。


 大人しくしててください。


「はじめて会ったときから、私思っていたんですけど。」


 フラフラとした足取りでこちらに歩いてきたかと思うと、俺の横にドカッと座り込んでくる。


 狭い。


 近い。


 そしてお酒臭い。


 この短時間にどれだけ呑んだんだよ。


「由緒あるメルクリア家の人間である私に、どうして貴方はそう強気で絡んでくるのかしら?」


「お会いしたときはまだそういう身分などを存じ上げておりませんでしたので。」


「知らなかったとしても女の子なんですからもう少し優しくするべきではないのかしら。エミリアにはあんなに優しいのに、そんなにお乳が大切かしら。確かに私は胸もないし気も強いし背もちっちゃいですけど・・・。」


 まさかのからみ酒ですか。


 俺の胸元を指でねじりながら言うのは止めなさい。


 乳首は止めて!


「メルクリア殿は随分鬱憤が溜まっているようだな。」


「普段気丈にされている分お疲れが出ているんだと思います。本当はお優しい人ですから。」


 そんなに冷静な目で分析していないで早く助けて!


「ちょっと、聞いているのかしら!?」


「はい聞いていますよ。」


 痛いから耳引っ張らないで。


 エルフじゃないけど耳は痛いから敏感だから千切れるから!


「大体男って奴はね、いつも私の身分とか権力とかばっかり見て近づいてくるのよ。私の顔とか胸とかそういう部分は全く見てないの。私だってこの年なりには見た目にも気を使ってるし、香りとかわかるようにしているのよ?でもあの連中ときたら、そんなところに一切見向きもしないで後ろにいるお母様のお顔ばかり窺っているんだから。全く失礼にも程があるわ。」


 確かに酒のにおいとは別にほのかに花の香りがする。


 香水みたいな物だろうか。


「少し花の香りがしますね。」


「そう、そうなのよ!こんなに可愛い子がこんなに良い匂いさせているのになんとも思わないのよ!」


 自分で自分を可愛いという辺りがちょっとあれだが、今それを言うと間違いなく火の精霊に消し炭にされてしまう。


「貴方もどうせエミリアのお乳とかシルビアさんのお尻が好きで近づいたんでしょ?そうなんでしょ?世の中の男はみんなそこばかり見ているんでしょ?」


「別に私はそこを見られても構わないが、エミリアはどうだ?」


「いろんな人にここばかり見られるのでちょっといやですけど、シュウイチさんはそこ以外も見てくれていますし・・・。」


「そうだな、身分や役職で差別せずしっかり一人の人としてみてくれるのが嬉しいな。」


 そこ、嬉しい事言ってくれるのはありがたいんですけど、少しは助けの手をですね。


 そうだ、ユーリだ。


 さきほどまで隣で食事をしていたユーリのほうを振り向く。


 そこには幸せそうに豆を持ったまま眠る人造生命体(ホムンクルス)の姿があった。


 あー、お酒初めてだったのかもしれないな。


 うん。


 幸せそうに寝てるからいいか。


「ちょっと、他の女の人を見てないで私のほうを見なさいよ。」


「はい、みてます、すみません。」


「だいたいねエミリアやシルビアさんだけじゃなく、他の女の人にも手を出して節操が無いのよ貴方は。」


「はい、申し訳ありません。」


「それなのにね、何で私のほうに興味を持たないのかって聞いているのよ。」


「はい、すみませ・・・ん?」


 その流れからどうしてそういう風に流れていくんだろうか。


「ちょっと、聞いてるの?」


「はい、すみません。」


 母さん、まだまだこの食事会は終わりそうにありません。



珍しく続きます。

お酒が入ると人が変わるって多いですよね。


自分は良くしゃべるようになります。

饒舌です。

でもからみません。


次も引き続きお楽しみください。

大遅刻すみませんでした。


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