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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第四章

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対応対策会議

 それから半刻しないうちにギルド長の部屋には関係者が集められていた。


 魔術師ギルドからはギルド長、リュカさん、ミド博士、そしてお付の女性。


 商店連合からはメルクリア女史。


 どうやらフィフィとはメルクリア女史の名前だったようだ。


 フィフティーヌが呼びづらいのでフィフィと呼んでいるわけだな。


 フィティじゃなくフィフィなのは単に呼びやすいからとエミリアから教えて貰った。


 そして情報提供者として、俺とエミリアユーリシルビア様の四人だ。


「フィフィ、休みのところ悪かったね。」


「特に用事もありませんでしたので問題ありません。それで、大事が起きたとの事ですがご説明願えますでしょうか。」


「私にも説明をお願いしますよ、せっかく研究が乗ってきたところだったのにいったいなんだって言うんですか。」


「そこの所も今から説明するからミドの坊やは少し黙ってな。」


「だから坊やは止めてくださいと何度言えばわかるんですか。」


 あー、始めても良いだろうか。


 ギルド長のほうを見るとさっさと始めろと言わんばかりに睨まれた。


 とりあえず予定の人数が始まったのではじめるとしよう。


 異業種合同の打ち合わせだと思えば良い。


 一つの事案について多方面からの意見を集約して問題に当たるのだ。


 そう考えれば特にむずかしいものではない。


 要は上手く進行してまとめろという役目を賜ったわけだな。


 がんばります。


「そろいましたのではじめさせて頂きます。見知らぬ方はいませんので自己紹介は不要ですね。」


 四角いテーブルに各々向かい合って座っている。


 今回はほぼ魔術師ギルドの関係者という事もあって話が早く進みそうだ。


「挨拶は結構だ。さっさとここに呼ばれた理由を説明してくれないか、早く研究のほうに戻りたいんだ。」


「皆様お忙しいかとは思いますがご容赦ください。単刀直入に申し上げます、魔石鉱山にて横流しの疑いがありその情報収集と今後の対応の為皆様にお越しいただきました。」


「魔石鉱山の横流しだって!?」


 一番利用しているのはミド博士の研究所のわけだし驚くのは無理もないな。


「確定した情報ではありませんが、横流しが行われているのはほぼ間違いないでしょう。そしてその横流しされた魔石が今後ミド博士、貴方の研究所に流れる可能性が高くここにお越しいただいているわけです。ご理解いただけましたでしょうか。」


「魔石採掘は国の最重要事業だ、横流しなどあるはずないじゃありませんか。」


「驚かれるのも仕方ないと思います。しかし、その情報を得た人物は実際に命を狙われており、私自身もそこにおりますエミリアと共に被害にあいました。これは嘘でも冗談でもない事実なのです。」


 淡々と簡潔に事実だけを述べる。


 まずは情報の共有をはかり、具体的な対策はそれからでも遅くはない。


「私たちの研究所に流れるというのはどういう事でしょうか。」


「現在横流しされた魔石がどこにあるかなどの詳しい情報は一切わかっていません。相手の規模も相手の状況も一切不明です。これだけの大事を起こすわけですから相手もかなり慎重に動いていると思っています。しかしながら横流しした物があるのならばそれを換金しなければ意味がありません。長期的には色々な場所に流れることが予想されまずが、まずはその実績作りとしてミド博士の研究所がその標的となる可能性が高いのです。」


「なぜ私の研究所なんだ、他にも魔石を欲している場所はたくさんあるじゃないか。」


 正直他に必要としている場所が何なのか教えてほしい。


 しかし今はそれを聞いている段階ではない。


「博士の研究所では魔石の供給が滞っておられますね。」


「その通りです。契約している魔石鉱山の近くで大雨が降ったために、そこからの供給が止まっています。」


「そして、予備鉱山から魔石を取り寄せようとしたものの純度不足という理由でそれもかなわなかった。そうでよね。」


「その通りだ。それを確かめるべく赴こうとした所に昨日君たちがやってきたわけだな。」


 この情報も二人が中で話していたのを聞いたわけだから間違えるはずがない。


「現在博士の研究所ではどのぐらいの方々と魔装具の契約をされているのでしょうか。」


「できるだけ絞ってはいるが、商店連合を含めて30はくだらないだろう。」


「ではそこに卸すための魔石は今どのぐらい不足しているのでしょうか。」


「昨日何とか手配できた分を加工したとしても、半月もすれば供給不足が起きるだろう。」


 半月か。


 これは思ったよりも早くに手が伸びてくるかもしれないな。


「つまりは半月以内に魔石の供給が行われなかった場合には契約をしている方々に魔装具を卸すことはできなくなるわけですね。」


「だからこそ早急に魔石を手配せねばならんのだ。にもかかわらずこんなところに呼びだしてきて、いい加減本題に入ったらどうなんだ。」


「大雨の為に供給が止まったルートはいつごろ復旧できそうなのでしょうか。」


「聞いた話では一期程で再開できるとのことです。」


 つまりは間に合わないわけだ。


 そうなると約半月は完全に魔石がない時間ができてしまう。


 言い換えればその半月をしのぐ事が出来れば、通常通りの供給状態に戻れるわけか。


 奴らが狙うとしたらこのタイミングしかない。


 短い時間ではあるが、魔石を博士の研究所に卸したという実績が作れる。


 その実績があれば安心して他の場所にも手を伸ばすことができるわけだな。


 魔石研究の第一人者が認めた魔石ですと言い広めれば、魔石を欲している人達に対していい宣伝になるわけだ。


 なるほど、うまく考えられている。


「つまりはその空白の半月を狙って、横流し品を売りつけに来る連中が出てくる可能性が高いのです。博士の研究所としては契約をしている相手との関係のためにも何としてでも魔石は確保したい。仮に私が足りない分を次の聖日までに準備できると言いましたら博士はどうされますか?」


「値段にもよるが次の聖日までに準備できるのであれば喜んで買わせてもらおう。足りない分さえ補充できればあとはどうとでもなるからな。」


「それが彼らの狙いなのです。通常よりも少し割り増しした金額で必要に迫られている博士の研究所に魔石を卸す。そうすることでその横流し品には箔がつくんですよ。魔石研究の第一人者でおられるミド博士が認めた魔石だとね。」


「私は認めたわけではないぞ。」


「博士が認めたかどうかは重要ではないんです。博士の研究所で使用されたという事実さえあれば、あとはその事実が客を呼んでくれる。今の博士の状況はまさに横流しグループの格好の餌というわけですね。これはあくまで仮説にすぎませんが、この魔石不足の状況をそのグループが作り上げたのだとしたら、相手はとても強大な権力を持っているという事にもなります。」


 ここに関してはあくまでも仮説にすぎない。


 しかし、予備鉱山の状況を考えるならば可能性は0ではない。


 むしろ可能性は高いと考えるべきだろう。


「しかしそれが本当であるのならば私はいったいどうすれば・・・。」


「それを考えるために私たちがいるんじゃないか、ミド坊やは何の心配もせずに今まで通りにしていたらいいんだよ。」


「フェリス様・・・。」


「いつもの調子はどうしたんだい。こんな若造に良いように言われて耄碌するほどの年でもないだろう。」


 こんな若造でどうもすみません。


「話は聞いての通りだ。魔石の横流しが行われているという話は確定じゃない、確定じゃないがほぼ間違いないだろう。そこでだ、この状況についてどうするべきか率直な意見が行きたい。フィフィ、アンタはどう思う。」


 メルクリア女史がギルド長に意見を求められる。


 さっきの話の間腕を組んでずっと考えるような姿勢をとっていた。


 はてさて、どう返事をするのかな。


「事実が確かでない以上闇雲に調べて回るというのは危険すぎますわね。まずは横流しが事実かどうかを調べるほうが先決かと思いますわ。ただ、彼の言う通り早急に事が動く可能性があるのも事実、そこについてはフェリス様にお任せいたします。私は私の出来る範囲でこの件について調べてみようと思います。」


「確かに横流しが行われているという事を突き止めるのは大切だ。それに、私らが嗅ぎまわっていることを奴らに知られるのも非常によろしくない。ばれない範囲で地道に探っていくしか今は方法はないだろうね。」


 その通りだ。


 大々的に公表してしまえば、奴らは間違いなくその痕跡を消して地下に潜ってしまうだろう。


 もしくは探っている俺たち自身を消しにやってくるかもしれない。


 今の俺達はそんなリスクを抱えるわけにはいかないわけで。


 出来ることはかなり少ないと言えるだろう。


「メルクリアさんに受け持って頂ける範囲についてお伺いしてよろしいでしょうか。」


「できる事とできないことがあるという事は先にお伝えしておきますわ。」


「商店連合の中の魔装具を扱っている商店の中で、ここ最近になって急激に注文を増やしている商店などを探ることは可能でしょうか。」


「それぐらいは可能ですが、それに一体何の意味があるのかしら。」


 こうやって彼女と対峙するのは二か月ぶりになるのか。


 相変らず小さい見た目なのに威圧感が半端ないなぁ。


「ダンジョンで受注が増えているわけでもないのに急激に魔装具だけを注文するという矛盾がもしあるならば、その商店が何者かの指示で魔装具を注文しているという事は考えられないでしょうか。魔装具の注文が増えれば増える程、ミド博士の研究所にかかるプレッシャーは大きくなる。仮に注文が通ったとしても魔装具そのものの流通量は少なく在庫処分には困らないはずですし、可能性は十分考えられると思うのですが。」


「確かにその可能性は考えられますね。短期間で裏で誰が指示をしているかというところまでは探ることは難しいですが、一期もあればある程度のところまでは探ることができるでしょう。」


「それと一緒に商店連合内での魔石の流通状況も調べていただけますでしょうか。」


「この問題は魔術師ギルドだけでなく商店連合ひいては商人ギルド全体の問題にもなるでしょう。貴方のお願いを聞くのは些か癪ではありますが、その調査引き受けましたわ。」


 そうですか、癪に障りましたか。


 それは大変失礼いたしました。


 でも二日後に貴女ともう一度会わないといけないわけでして。


 それぐらい許してくれないかなぁ。


「次にさっきから偉そうに話しているアンタだ。アンタはどうやってこの問題を処理するつもりだい?」


 別に偉そうに話しているつもりはないんですけど。


 なんだろう、ギルド長を怒らせるような事しただろうか。


「ただの雇われ店主である私に今回の問題をどうこうする力はありません。人には得手不得手がある様に私にもできる事とできない事があります。今回の件は明らかに出来ないことの方が大きい。しかしながら、ミド博士の研究所を狙っている魔石の横流しについてならいくつかできることがあると思っています。」


「偉そうに言う割には何にもできないわけだね。これだから男ってやつはいつも口ばかりなんだよ。」


 過去に男関係で何かあったんだろうか。


「御主人様はけして偉そうにしているわけではありません。少々しゃべり方がきついだけです」


「別にアンタの主人をけなしてるわけじゃないよ。」


「確かにこういう時のシュウイチは少々言い方が事務的ではあるな。」


「そうですね、すこしきつい言い方になることもあります。」


 みんなして集中砲火ですか。


 べつにきつくしゃべっているつもりはないんだけどなぁ。


「いい嫁さんばかりじゃないか。それで、ミドの坊やの方はどう対処するんだい。」


「対処方法は二つあります。一つ目は魔石不足になってもどこからも供給を受け入れず一月やり過ごすというもの。この場合多くの方々に迷惑は掛かりますが一番簡単に横流し品を締め出すことができます。そして二つ目はあえて魔石を受け入れるという情報を流して、強引に取引しようとしてくる相手を見極めるものです。」


「ほぉ、横流し品を受け入れようってのかい。」


「別に横流し品を買い取るわけではありませんあえて魔石が不足しているという事実を流すことで魔石が博士の研究所に集まるように仕向けるんです。魔石鉱山以外にも魔石を所持している商人はいるはずですので、その人たちから少量でも買い取ることができれば魔石不足を補うことができます。」


 魔石不足は半期分で済むから、そんな大量に買い付ける必要はない。


 必要最低限だけ買い取り、補充できればその時点で仕入れを止めればいい。


 博士の研究所と取引したい商人は多いはずだからかなりの応募があると考えている。


「それで、どうやって横流し品とそうでないものを見極めるんだい。」


「横流し品を博士の研究所に流そうとする連中は間違いなく大量かつ強引に取引を持ち込んできます。なぜなら、この機を逃せば博士の研究所に魔石を卸していたという事実を作り出すことはできなくなるからです。そうなるとせっかく横流しした魔石を今後上手く売っていくことができませんからね、他に手を上げた商人を蹴散らしてでも売りつけに来るでしょう。」


「あえて買取を公表することで策を練ろうとしている奴らを強引に動かそうってわけね。」


「その通りです。こちらも時間をかけて策を練ることができればもっとましな案が出るかもしれません。しかし、それは相手にとっても同じこと。私よりも頭の働くやつがもっと巧妙な手口で横流し品を搬入しようとするでしょう。横流しがばれていないと高をくくっている今だからこそ先手を打つのです。」


 大掛かりな組織であることは疑いようがない。


 俺のような多少頭の回るやつよりももっと巧妙に罠を仕込んでくることは十分考えられる。


 尻尾を探れないような品を買い取るぐらいなら、少々荒い方法でもこっちから尻尾を取りに行けばいい。


 ハイリスクハイリターンだがこれしか思いつく方法はなかった。


「損を被って益を取れという言葉がそれにあてはまると思います。」


「その通り。今回は危険という名の損ですが、それを冒すだけの価値はあると思っています。」


「仮に奴らが強引に取引を持ち込んでくるとして、どうやってそれを対処するんだい。」


 問題はそこだ。


 何かしらの方法で他の商人を押しのけて、間違いなく取引を持ち込んでくる。


 どういう方法でこちらにアポを取ってくるかが問題だ。


 魔術師ギルドをすんなりと通すとも思えないし、商店連合や商人ギルドなんて大きなところも使うことはないだろう。


 一番厄介なのは直接博士の所に話が持ち込まれることだ。


 博士がその場で騙されてサインをしてしまうと、すべてが水の泡になってしまう。


 それを回避するためには何か窓口のようなものを作らなければならないか。


「専用の窓口を設けて、そこを通してじゃないと魔石を買い取れないようにします。ただし、正攻法で奴らが来るとも思えないのであえて裏の窓口も一緒に併設します。」


「別口で買い取ろうっていうわけかい。」


「そうです。悪い連中には悪い連中なりのやり方あるはずですからそれを利用させてもらうんです。正しい商人は正しい入り口から、そうでない連中は罠を張った別の入り口から相手をします。正しい入り口を魔術師ギルドと研究所の中から1名ずつ選抜してくだされば助かります。」


 買取は魔術師ギルド所属の研究所が行えばいいわけだし、双方1名ずついれば必要数などの把握もしやすいだろう。


 変に商人ギルドとかを噛ますと後々面倒なことになるかもしれないし。


 既得権益は犯さないに限る。


「裏口はあんたがやるってわけだね。」


「そうです。早急に動き出した場合今回の取引には横流しグループの本体が出てくる可能性は少ないと思います。それとは別に横流しグループに加わろうという連中が出てきてもおかしくありません。そういった連中は私のような小物が相手をした方が出てきやすいでしょうから。」


「自分を小物というあたり何か別の考えがありそうだけど・・・まぁいいだろう。うちみたいな大きな組織よりもお前さんみたいな小さな人間を相手にする方が相手も油断するかもしれないしね。」


「一応我が商店連合に所属した商人なのですが。」


「おっと、それは失礼したね。」


 ギルド長には俺が何か別の考えていることが分かったらしい。


 だがそれを黙認する辺り信頼してくれていると考えていいかもしれないな。


「それじゃあ決まりだ。魔石募集の件は休息日明けに流すことになるが構わないかい?」


「できれば今日の夕刻にサンサトローズにだけでも流してもらうことは可能でしょうか。」


「なぜだい、休息日じゃ商人はみんなお休みだ。わざわざそんな時に流す必要もないだろう。」


「地産地消と言いましてね、利益は自分の足元の人間に落とすと何かと良い事が起きるんですよ。」


「確かにそれも言えてるね、うちの事をよく思っていない連中もこの町には少なからずいるわけだし、そういう連中にお金が回れば少しは静かになるだろう。」


 正確には早いうちにこの町にいる彼女を狙った連中に話が言ってほしいからだ。


 間違いなく彼らはこの話に飛びつき、魔石を売りつける準備をするだろう。


 もし研究所と取引ができるとなれば、それを手土産に横流しグループの仲間入りができるわけだ。


 どんな手を使って俺のところに来るか楽しみだな。


「では皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。」


 それからこまごまとした打ち合わせを済ませ、昼過ぎには大まかな取り決めは終了した。


 後はそれぞれがそれぞれのやり方で横流しについて対応していくことになる。


 こうして魔石横流し対応対策会議は幕を閉じたのだった。


「お前さんちょっと来な。」


 ギルド長に呼ばれることをのぞいては。



動き出しました横流し対策会議。

BGMはヤシマ作戦の曲でお願い致します。


他の話のように短くまとめる予定でしたが残念ながらそんな能力がありませんでした。

優秀な作家さんは短く綺麗にまとめておられるのに、自分の能力の低さにため息が出ます。

それでもたくさんの方々に読んでいただいていることを励みにこれからもがんばりますので、お付き合い下よろしくお願いいたします。


評価ポイント200を通過して210まできました!

皆さんありがとうございます。

暇な時にでも叱咤激励感想などお待ちしております。


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