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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第四章

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商売の裏表

 とりあえず無事に魔術師ギルドの入り口まで来れた。


 リュカさんが追いかけてくることも考えていたけれど、さすがに二度目の鉄拳を喰らって動けはしないようだ。


 拳に魔力を乗せてとかいう魔法拳士とかいたらかっこいいよな。


 魔法剣士は定番だけど、魔力は体内にあるんだから直接身体にまとっても不思議は無いはず。


 後ろから魔力を噴出させながら衝撃の~とか言ってみたい。


 うん、魔法拳士かっこいい。


 でも残念ながら俺には魔力の才能はないそうなので次の人生もしくは異世界転生に期待するとしよう。


「魔装具契約お疲れ様でした。最後はちょっとどきどきしましたけど何事も無くてよかったです。」


「本当にそうですね、出来ればもう二度と精霊の魔法に狙われないように祈ります。」


「リュカさんは良い人なんですけど、ちょっと暴走する所があるというかなんと言うか。」


 ちょっとで精霊を嗾けられたらたまったもんではないと思うんですが。


「奥様、奥にあるあの建物はいったい何なのでしょうか。」


「ユーリはそれよりも観光するほうでいっぱいみたいだね。」


「途中商店連合に寄って、シュウイチさんのお給料も受け取っておきますがよろしいでしょうか。」


 そうだった、今日は待ちに待った給料日だった。


 ジャパネットネムリの策略で要らぬ出費をしたがこれで懐は暖かくなる。


 といっても今のところ使い道の無いお金なのでこうやって消費するほうがいいのかもしれない。


 金は天下の回り物。


 金は血液と一緒と上手いこと言った漫画があった気がする。


 同じところに貯めていればいずれそこから腐り落ちると。


 ならば血液のように循環させればいずれ自分のところに大きくなって帰ってくる。


 みたいな感じだったと思うんだけど。


 手元においておくよりもちゃんと使って経済を回せばいずれは自分に帰ってくる。


 これって好景気の基本だと思うんだけど、元の世界では残念ながら企業が肥やしを増やすだけで我々社畜のところには一切降りてこなかったなぁ。


 今後自分がトップになるんだからちゃんと下のものに還元してあげないとね。


 部下もそうだし村の人もそうだし、利用者全てに還元されてまた自分のところに戻ってきてくれるならこれ以上の循環型経済は無い。


 そしてそれを成功させる為にもこれから行く場所は重要になるわけで。


「是非お願いします。」


「それでは行きましょう奥様。」


「シュウイチさんはくれぐれも気をつけてくださいね。」


 ユーリに引っ張られるように二人はサンサトローズ観光へ向かうのだった。


 ちゃんと夕刻までに戻れるのだろうか。


 そこはまぁ、エミリアの采配にお願いすることにしよう。


 こっちはこっちでやることやりますか。


 以前教えて貰ったとおりに南門へ向かう。


 商店連合の建物を通り過ぎ南門を右に、そして三件先をこれまた右に。


 そうすると見えてくるのが先月お世話になったあの壷屋だ。


 久方ぶりの登場なので思い出せない人は第30部を参照してくれ。


 話を戻して壷屋だ。


「ここには壷しかないよ、何の用だい。」


 前回と同じ質問。


 まるでゲームのNPCのようだけどこうやて客かどうか判断してるんだよな。


「壷は要らない、おいしい豆を売ってる店を知らないかい。」


「よく見たら兄ちゃんは二回目だね、蜜玉の兄ちゃんだ。覚えているよついておいで。」


 一回しか会っていないのに取引内容まで覚えているのか。


 さすがというかなんと言うか。


 トラブルを起こした人はこの時点で出禁になるわけだな。


 裏の世界おそるべしだ。


 前回同様、家の裏口や勝手口を通り抜けて見覚えのある高級そうなラウンジへと到着する。


 前回と通る道が違ったようだけどこれも道を覚えさせない為の工夫か。


「おや、見たことある顔だと思ったらこの前の蜜玉の兄ちゃんか。確か名前はシュウ、いやイナバシュウイチと呼んだほうがいいのかな。」


 カウンターの中にいたコッペンがこっちに向かって挨拶をしてきた。


 もう素性はばれていて当然だよな。


「ご無沙汰してますねコッペンさん。その節は大変お世話になりました。」


「こっちも良い取引をさせて貰ったよ。こっちへこい一杯おごってやる。」


「この一杯高くついたりしないでしょうね。」


「この前の礼だと思って飲めばタダだし、払いたいのなら喜んで徴収するぜ。」


 どうやら本当に奢りのようだ。


 せっかくだから呼ばれることにしよう。


 カウンターに腰かけ、反対側にいるコッペンと対面する。


 差し出されたグラスにはなみなみと琥珀色の液体が注がれていた。


 蜜玉酒だろうな。


「改めてこの前の取引に礼を言う、あれは良い儲けになった。」


「こっちもおかげさまで良い結果になりましたので、ここはお礼を言うべきなんでしょうね。」


 コッペンの前にグラスをかざし、差し出された蜜玉酒に口をつける。


 前よりもやわらかい味になっているが漬けている酒はおそらく同じだ。


 時間がたてば味が濃くなるというのは本当のようだな。


「わざわざ命を捨てに行くようなバカだと思っていたが、あの噂にあんなカラクリがあったとはこのコッペン様も気付かなかったぜ。」


 コッペンも同じく俺に向かってグラスをかざし酒に手をつける。


 これで挨拶は終了だ。


 無事快く迎え入れて貰えたようだな。


 コッペンには大金を持った商人がいるという噂を流させ、その噂がウェリス達を呼び寄せた。


 そして最終的に盗賊団を壊滅に導いたわけだ。


 盗賊団の壊滅までは読みきれなかったという事だろう。


「おかげ様で頭と胴体はまだくっついたままですよ。」


「お前のおかげでこのシマでの商売がよりしやすくなった、これはその礼だ。」


「確かに頂戴しました。」


 この酒は普通に飲めばいくらするんだろうか。


 聞きたいけれどここで聞くのは失礼に当たるのでまたいずれ聞いてみるとしよう。


「それで、今日も俺に用があってここに来たんだろう?」


「この前と同じことをして貰おうと思いまして。」


「金になるなら噂の中身なんてどっちでもいいけどな、それでどんな噂だ。」


「ご存知の通り夏節に商店が開店するんで、それに合わせてダンジョンについての宣伝を流して欲しいんですよ。」


 そう、噂ではない。


 宣伝だ。


 この世界は元の世界のようにマスメディアが発達していない。


 テレビやラジオはもちろんの事、新聞なんてものも存在しない。


 人々は行商人や行き交う旅人から情報を仕入れている。


 もちろんサンサトローズのように大きな街になれば、掲示板や人々の噂で情報が短時間に行き来することができる。


 しかしながら遠隔地の場合はそれがうまく機能しない。


 そこで短期的な噂でなく長期的な宣伝を流し続けることで、様々なタイミングで往来する商人や冒険者に商店とダンジョンの存在をアピールすることにしたのだ。


 その為には情報の発生源を抑えなければならない。


 そして目を付けたのがここ、コッペンの店というわけだ。


「噂ではなく店の宣伝をしろっていうわけか。なんで俺のところに来た、普通は商人ギルドがする仕事だろう。」


「それはごもっともです。しかし商人ギルドはあくまで商売の施設であって、ダンジョンの情報を流してはくれません。ここは合法非合法問わず多くの情報が集まるいわば情報の基地です。ここから発信される情報はより多くの人に届けることが出来る。それがここを選んだ理由です。」


「だが金にもならんことを俺がするはずがないこともわかっているな。」


「もちろん。コッペンさん、貴方には私たちが来月に行う予定の催しについての情報を提供させていただきます。これをどう使ってお金儲けをしようが私は知りませんし関与いたしません。情報を流すだけで大金が流れ込む、悪い話ではないと思いますが。」


 まだ確定ではないが、新店舗もしくは新施設の開業には目玉となるイベントが必要だ。


 そのイベントの情報を流すことでそれを使った金儲けを考えてもらい、それに関してはこちらからマージンは要求しない。


 むこうは自分の考えた金儲けで成功すれば総取り出来るというわけだ。


 こっちとしては非合法のことには関与しないので向こうで何しようが知ったことじゃない。


 つまりはそういう協定を結ぼうというわけだ。


「それはまだ誰も知らない情報という事でいいんだな。」


「もちろん、知っているのは私以外に二人しかいませんしまだその二人も詳しい内容は聞かされていません。」


「そしてその詳しい情報は今ここで知らせてもらえるわけだ。だがその催しとやらで本当に俺が金儲けできるのか?」


「それは貴方の力量次第だと思いますよ。」


「言ってくれるね。」


 間違いなくこの人なら金儲けを成功させる。


 タダでは転ばない人っていうのはこういう人のことを言うんだろう。


 金に執着と執念がある人間。


 それがこのコッペンという男だ。


「よしわかった、聞かせてもらおうじゃないかその催しとやらを。」


「それでは宣伝の件お任せしますよ。」


 コッペンの耳元で催しの内容を説明する。


 元の世界では秋の催しでよく行われているのをダンジョンを利用した物に変更するだけのいたってシンプルな催しだ。


「それは聞いたことはねぇが確かに面白そうだ。それで、どれだけの人間を呼ぶんだ?」


「そこも貴方の宣伝次第です。有力な方が来てくれれば貴方も私もお互いが得をするわけですよ。」


 多くの人に来て貰えればそれだけで十分なのだが、有名人が来るって言うだけでもそれなりの集客は見込める。


 集客が多ければ多いほど最終的にお互いの儲けが増えるというわけだ。


「俺がどうやって儲けを出そうがお前は関与しないって言うわけだな。」


「八百長・妨害・スタッフの買収。これらの行為は禁止しますが、催しの邪魔にならないところで儲けを出す分にはマージンなど一切要求しません。私は表の世界で生きていきますし貴方は裏の世界で生きているわけですが、私は裏の世界を否定しませんし必要な物だと考えています。私の存在しない裏の世界での出来事は私の知るところではありませんよ。」


 賄賂、買収、裏取引。


 こういう取引は商売をする中で切っては切れないものだ。


 しかしそれに手を染めるかどうかを選ぶことは出来る。


 俺はそういうものを否定はしないが関わるつもりも無い。


 あくまで表の世界でクリーンな商売を続けていくつもりだ。


 エミリアやシルビア様、その他関わってくれた全ての人に迷惑をかけることは出来ないからな。


「そういう正直なところは嫌いじゃないぜ。」


「では引き受けてくださるんですね。」


「いや条件が二つある。」


 さすがにこれだけでは引き受けてくれないか。


 先ほどのように危ない裏取引を持ちかけられたときはおとなしくあきらめるとしよう。


「・・・なんでしょうか。」


「なにそんなに難しい物じゃないさ。今後同様の催しを行う場合は一番に俺に情報を流すこと。次に、俺が稼ぎ出した収益の一部をお前が受け取ることだ。」


「最初は了承できますが、最後はお受けできませんね。先ほど言ったように私は裏のお金に関わるつもりはありません。」


「それは良くわかってるさ、だがな世の中そんな綺麗事じゃまわらねぇんだよ。親が総取りすると何かと恨んでくるやつが多いからな、そうならない為に利益は別の所と分配しているという事実を作らなきゃならねぇ。その為にもお前にはこの金を受け取ってもらう必要がある。」


「確かにそれはありえることでしょうが、私の考えも変わりません。私は表の世界で貴方は裏の世界で生きていく人間です。そっちの世界に染まるわけにはいかないんですよ。」


「何もお前個人が受け取る必要は無いさ。お前が受け取ればお前を狙う奴が出てくる、だがお前の考えに出資すると言えばどうだ。お前個人に金を流すわけではないからお前が狙われることは無い。俺としても金が別のところに流れたという事実が出来ればそれで問題は片付く。どうすればいいかはお前なら考え付くだろ。」


 ここで手を引くべきだろうか。


 正直に言ってコッペンの宣伝が無ければ商店に客が来る可能性は非常に少ないだろう。


 村を経由して半日以上かけてダンジョンに来るだろうか。


 しかも出来立ての実入りの少ないダンジョンだ。


 エミリアによればこのあたりにダンジョンはないとのことだが、長期的に見て収益を上げれるようになるには時間がかかるのは間違いない。


 数字を求められている立場である以上、そんな時間のかかる方法をとっているわけにもいかないわけで。


 数字が残らなければ命取られるわけですから。


 そうならない為にもコッペンに宣伝を頼むのは必要不可欠なのだ。


「では、利益を100で分割したうちの1つ分だけを催しの協賛として出してもらうのはどうでしょう。ただし現金ではなく当日参加者に振舞う飲食物で提供して貰う。そうすれば金銭のやり取りはありませんし、あくまで催しの考えに賛同したという扱いを取れます。貴方のことですから表の世界用の偽商店などお持ちでしょうし。」


「なるほど、そうすれば出資したという建前で俺が利益を独占したとは言いがたい。金銭のやり取りでなく、しかも当日消費される物であれば賄賂などにも当たらないというわけか。噂通り頭の良く回る男だよお前は。」


「飲食物は横流し品などではなく正規のルートで購入した品でお願いしますよ。もちろんサンサトローズのお店から購入した物に限ります。そうすればお金が街にめぐりいずれは貴方に還元されることでしょう。」


 街にお金が落ちればそこで暮らす人の生活が潤う。


 潤いがあれば消費が増える。


 その消費の中にコッペンの息がかかった物があるのであれば、それは結果としてコッペン自身が潤うことにつながるわけだ。


「多くの収穫を得る為にはしっかりと種まきをしないといけない。お前の考えもその思想にのっとっているわけだな。」


「私は最終的に皆が潤えばそれでいいんですよ。その潤いはいずれ私に帰ってきますから。」


「綺麗事だが間違いようの無い事実だ。綺麗なことは嫌いだがせいぜい儲けさせて貰うさ。」


「では宣伝の件よろしくお願いいたします。」


 握手を求めるとコッペンはしっかりと握り返してきた。


 これで交渉成立だ。


 一瞬どうなることかとおもったが、儲けを捨てることはコッペンにも出来なかったわけだな。


「これからの関係を祝って面白い所に連れて行ってやるが、どうだ?」


「接待でなく観光でしたら喜んでお受けしますよ。」


「観光か、それなら普段見ることの出来ない裏のサンサトローズをお前に見せてやるよ。」


「まだ陽は高いですよ?」


 裏の世界といえば夜が本番だと思うのだが、こんな真昼間から裏世界は活動しているのだろうか。


「まだ飯は食ってないんだろ?」


「昼食はまだ食べてませんね。」


「なら決まりだ。まずはとっておきを食わせてやるよついてきな。」


 カウンターから出て店の人間に何か言付けている。


 店の人間はこちらを見てから頭を下げると、店の奥に消えていった。


 なんだろう。


 引継ぎにしては雰囲気が違ったけど。


「そうだ、夕刻には戻りますのでそれまででお願いします。」


「せっかくの休息日に急いで帰る必要も無いだろう、」


「私一人なら構いませんが、連れが待っていますので。」


「お前も随分と大変な嫁さんをもらったもんだな。」


 シルビア様との婚約はすぐに町中に広まった。


 最初こそ名前も知らない商人の登場に噂が噂を呼びそれはもう大変なことになったのだが、騎士団が問題となっていた盗賊団の討伐に成功したという事実と共にそれに参加したのが俺という発表が出た後、過熱した噂は一応の収束をみた。


 シルビア様は街のアイドル的存在だったらしく隠れたファンクラブもあったそうだ。


 そういう人間に狙われる可能性も考えたが、箱を開けてみれば特に問題は発生しなかった。


 案ずるは生むが易しとはこのことなんだな。


「今となっては自慢の奥さんですよ。」


「尻に敷かれないことだな。」


 もうほとんどしかれていると思います。


 主にエミリアにだけど。


 こうしてエミリアたちとは別の観光ツアーに出発するのだった。


 名づけて、裏:城塞都市サンサトローズ観光ツアー!




汚職だ収賄だとお金が絡むとめんどくさいわけですが、

あくまでクリーンな話でがんばりたいと思います。


誰かにもらうお金よりも宝くじ当てて貰うお金のほうが安心ですよね。

ということで誰か宝くじをください(当たりクジとは言わない)

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