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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第四章

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夢のジャパネット ネムリ

 ジャパネットネムリは大好評のうちに終了した。


 まずは初対面のユーリに対するプレゼント攻撃。


 たまたまなのか確信犯なのかわからないが、調理用なべをプレゼントされたユーリは一撃でネムリの虜になってしまった。


「この方の商品は間違いないと思います、私はこの商品を希望します。」


 といった具合で、いつからユーリはジャパネットネムリの回し者になったのだろうかと錯覚するほどだ。


 商店連合では扱うことのできない魔装具に始まり、珍しい小物、町で流行のアクセサリーなど商店だけでなく明らかに我々を狙ったラインナップである。


「このたびはご結婚おめでとうございます。新婚でいらっしゃいますエミリア様にはこちらの指輪などお勧めですよ、この指輪に刻まれた紋様は幸せを運ぶといわれていまして今、王都で大人気の宝飾品です。」


「幸せを運ぶですか。」


「結婚だけではなくこれから多くの幸せがお待ちになられていますから、子宝の紋様が裏に刻まれているタイプもありますよ。」


「子宝・・・。」


 もうそこに行っちゃう?


 まだ婚約だけで式も挙げてないし、キスだってまだなんですけど。


 まさかキスだけで子供が出来ちゃうって思ってたりしないよね。


 指輪を見つめてうっとりしつつチラチラとこちらを見てくるエミリア。


 買わないよ。


 俺は買いませんよ。


「イナバ様にはこちらの商品がお勧めです。今騎士団で流行中の筋肉増強器具でして、これを毎日使用するだけで武器が簡単に扱えるようになったと大好評をいただいております。今ならこれだけではなくもう二種類!この筋肉増強器具をお付けさせていただきます。」


 どこのまわしものですか。


 簡単に筋肉つきますよって完全に深夜の流れじゃないか。


 どうみてもダンベルだし今ならもう二種類って完全に通販番組です、ありがとうございます。


 いりませんよ。


 かいません。


 頑として買わない空気を出しているとネムリがこそっと耳打ちをしてきた。


「今ならこれからイナバ様が必要であろうこちらもおつけしようとおもっていまして、奥様二人いえ、三人おられても大丈夫な元気になる薬でございます。これでエミリア様もシルビア様もユーリ様も大満足、夫婦円満もバッチリです。」


 怪しすぎるだろその薬。


 何入ってるんだよ。


 欲しいじゃないか。


 くそう、ダンベルを買わないとあの薬は手に入らない。


 あれさえあれば夜の二回戦や三回戦だって・・・。


 ムムム。


 ジャパネットネムリおそるべし。


「ユーリ様にはこちらでございます。サンサトローズの奥様に引く手数多の調理器具、マジックナイフです。見てくださいこの切れ味、普通のナイフと違いましてこのマジックナイフなら多少の骨だってこの通り!微力な魔力を通すことで最高の切れ味をいつまでも維持することが出来ます。もちろん魔石の交換は一切不要。今なら焦げない魔法の鍋を二種類をお付けいたします。本日お渡しした鍋と一緒に使って頂ければ美味しい料理はお手の物でございますよ。」


 長い。


 そしてすごい。


 どこの販売員だ。


 デパートの実演販売と同じ手法じゃないか。


 マジックナイフだかなんだか知らないが普通のナイフと比べて普段切らないような物を切って見せ、お手入れの面倒を解消し、最後は関連性のなさそうな鍋を『無料』でつけることでお徳感を演出する。


『普段』とか『普通の』とかの用語を使うことで通常と違うことをしっかりとインプットさせると売れ行きがぜんぜん違うと、昔テレビで説明していた。


 確かに、いつもと違う特別なものなら欲しいと思ってしまう。


 営業トークって大事だよな。


 でも買いません。


 ユーリがそんな目で見ても買いません。


 二人して物欲しそうな顔してもダメです。


 い、色仕掛けしてもだめです。


 どこで覚えたんだそんな技。


 胸元を見せればコロッと落ちるような男ではありません。


「そして今なら、通常三つで銀貨7枚の所なんと!今回は特別に銀貨5枚でご提供させていただきます。イナバ様いかがでございましょうか?」


 そしてとどめの値下げ宣言である。


 さらに目を輝かせる二人。


 わかりました、買えばいいんでしょう買えば!


「そこまで言うならば仕方ないですね、ネムリのおすすめをいただくことにしましょう。」


「ありがとうございます!」


 決して色仕掛けに負けたわけじゃない、負けたわけじゃないんだからね!


 二人が喜ぶ顔が見れたそれだけで十分です。


 うん。


 さすがジャパネットネムリ恐るべし。


 最後にちゃっかりアムリの実で作った例のシェービングクリームをおまけにつけてもらったので、俺としてもまぁ満足できる取引になったワケで。


 まぁこんな感じで、ホクホクなネムリと喜んでいる二人と共に城塞都市サンサトローズへ向かうのであった。


 行きはネムリの馬車に乗ってサンサトローズに向かい、帰りはシルビア様と共にチャーターした馬車で帰る。


 良い商売をさせていただきましたという事で、今回は行きの代金を請求されることはなかった。


 荷馬車に乗り一路向かうはサンサトローズ。


 はじめての荷馬車にユーリは終始辺りをキョロキョロと見渡している。


 どうやら楽しい様だ。


「今度この道も追加で舗装されるそうですよ。」


「へぇ、これで少しは村までの時間が短縮されるわけですね。ですが今更になってなんででしょうか。」


「それはもちろんイナバ様の働きが大きいでしょう。最近村が活気づいていますし開発の動きも今後活発になることが予想されます。領主様としても村との交易が盛んになれば潤うことは間違いないですし、先行投資という奴ですね。」


 なるほどねぇ。


 確かに道が舗装されて村との時間が短縮されればより多くの人間が村へやってくることになる。


 商売をする者、働きに来る者、定住する者、ダンジョンを目指す者。


 人が動くときにはお金も一緒に動く。


 お金が動けば税金が発生する。


 そうすることで自分の領土が潤うわけだ。


 いきなり収入が増えるわけではないのにそこにお金をつぎ込める当たり、ここの領主は先を見る目があるという事だろう。


「ですが私のおかげというのは些か持ち上げすぎな所があるのではないでしょうか。」


「何を仰いますか!今や商店連合の新店長イナバシュウイチといえばサンサトローズでは知らぬ商人はおりませんよ。流れ星の如く現れて村と騎士団の窮地を救い、戦乙女シルビア様を娶ったとなれば一躍有名人ですからね。」


「確かにそれは事実ですが、それで領主様が動くでしょうか。」


「動きますとも。領主様としてもご自身の領内で起きた揉め事が片付いただけでなく、活発な開発にも関わってくださっているとなればそれを助けない手はありません。領内の活気はご自身の人気にもつながります。多くの税が安全に集められるとなれば喜んでイナバ様の手助けをされることでしょう。」


 そう言われれば満更でもない。


 実際領主様からなにか賜ったわけではないが、いろいろな所で便宜は図ってもらっている。


 村の豊かさは商店の豊かさ、ひいてはダンジョンの活発化につながる。


 足元を固めることができるのは非常に喜ばしいことだ。


「さすが御主人様ですね、私の知らないところでそんな活躍をされていたとは。」


「シュウイチさんはご自身の事を過小評価しすぎなんです。もっと自信を持ってもいいと思いますよ。」


「そうでしょうか。私一人の功績ではありませんし、私一人では何もできませんから。」


 他力本願100%男である。


 助けてもらわなければ所詮ただのサラリーマンだ。


「そうやって謙遜しないでください、旦那様が立派だと私もシルビア様も誇らしいんですから。」


「私も立派な御主人様の下で働けて光栄です。」


「素敵な奥様がいらっしゃるのですから、イナバ様はもっと胸を張るべきです。この人気があればサンサトローズでの商いは失敗することありませんよ。」


「それを言えばネムリもサンサトローズで1,2を争う商売人になったと聞いていますよ。騎士団だけでなく魔術師ギルドにも顔が利き、最近は戦士ギルドにも出入りしているとか。」


 最初の二つはこちらが用意したパイプだが、最後の一つは自力で確保した商売相手だ。


 ただの商人にそんな遠い所と商いをするパイプが作れるはずがない。


「騎士団と商いさせていただいていますので、必然的に戦士ギルドともおつきあいができてしまいます。騎士団と魔術師ギルドとをつないでいただいたおかげでございますよ。」


「つないだだけでは信頼は生まれません。信頼は商いの基本、その基本ができているからこそ今の関係が結べているのです。信頼を勝ち取ったのはネムリの実力ですよ。」


「そう言っていただけて非常に光栄でございます。」


 ジャパネットネムリの商売力は身をもって経験させてもらった。


 今後はサンサトローズに限らず他の都市とも交易をするようになるだろう。


 そうなった時に、ネムリには俺の商店とダンジョンをしっかり宣伝してもらって外からの冒険者を呼んでもらう計画になっている。


 これに関しては本人も快く承諾してくれているので非常にありがたい。


 口コミに勝る宣伝なし。


 噂は人の口と耳を経て多くの町へと流れていく。


 良い噂は流れにくく悪い噂は流れやすい。


 このまま信頼を保ち続けることができれば、いずれ王都にもダンジョンの噂が届く事だろう。


 それまでしっかりと良い商いを続けていかなければならないな。


 ダンジョンの成功は商いの成功だ。


 それだけに種まきを怠ってはならない。


「騎士団のおかげで街道の盗賊はすべていなくなりましたし、それだけでも我々としては計り知れない恩を受けております。安全に街道を行けるという事は何物にも代えられないものですから。」


「そう言えば、一番最初に向かった時に盗賊に襲われたんでしたね。」


 舗装された道に出た時に思い出した。


「その通りです。ちょうど正面に見える丘の近くでしたね、あの時荷馬車を止めていたらどうなっていたことか。」


「止めずに走り抜けてくれたネムリのおかげです。おかげで私たち二人も無事でいられますから。」


 幸運に恵まれていた。


 その幸運が今を作り出しているわけだから感謝してもしきれないな。


「さぁ、あの丘を越えるとサンサトローズが見えてきますよ。」


「いよいよですね!」


 ユーリが興奮している。


 わかるなぁ、その気持ち。


 あの丘を越えた時に見た光景は一生忘れる事はないだろう。


 それぐらい、城塞都市サンサトローズの持つインパクトはすごかった。


 そして同じ感動を今、ユーリが味わっている。


 子供かってぐらいはしゃいでいた。


 結局サンサトローズの街中に入るまで後二度ほどユーリは歓声を上げたのだった。


 城壁を間近で見て驚きの声をあげ、門の前の人だかりに感嘆の声をあげた。


 これだけ多くの人がいるのを見たことが無かったわけだから仕方が無い。


 見た目は大人、中身はまだ子供だもんな。


 はじめて都会に出たときに子供ながらに驚いた。


 きっとあの感じと同じ気持ちなんだと思う。


 世界は広い。


 これからユーリはもっと多くの感動に出会うんだろうな。


 俺も出来る限りその場面に立ち会えれば嬉しい。


 俺にとってもこの世界初めてのオンパレードになるわけだしね。


「それでは私はこのまま市場のほうに向かいますので、ここでお別れですね。」


「乗せて頂いて助かりました、また次の休息日に会えるのを楽しみにしていますよ。」


「ネムリさんも奥様によろしくお伝えください。」


「また良い品がありましたら教えてください、ネムリ殿。」


 西門でネムリと別れひとまず騎士団詰所に向かう。


 シルビア様に今日の予定を伝えていなかった。


「失礼します、シルビア様はこちらにおられますでしょうか。」


 受付の女性に面会をお願いする。


 すると右のほうからイケメンがやってくるのが見えた。


「イナバ様どうされました。」


「こんにちはカムリさん、シルビア様はこちらにおられますでしょうか。」


「シルビア様でしたらご自身のお部屋で書類と格闘している頃かと。」


 分団長ともなると書類仕事も多くて大変だろう。


 いつもはイケメンが補佐しているはずだけど今日はそうではないらしい。


「それでは邪魔になるといけませんので伝言だけお願いします。夕刻になったらお迎えに上がりますとだけ伝えて頂ければ大丈夫です。」


「夕刻ですね、わかりました。それまではどちらに?」


「魔術師ギルドのほうに顔を出す約束をしていますのでそこに、それとコッペンに挨拶を。」


「なるほど、休息日があけましたら開店でしたね。おめでとうございます。」


「ありがとうございます、近くにお越しの際はいつでもお越しください。」


 社交辞令の挨拶と伝言を任せて騎士団を後にする。


 今日の目的はここではない。


 目的は二つ、魔術師ギルドへの挨拶と裏の顔役コッペンへの挨拶だ。


 前者はメイン、後者は根回しといった感じになる。


 もちろん後者には女性陣二人は連れて行かないつもりだけど。


「コッペンさんとはどういう方なのでしょう。」


 ほら、そうやって気になっちゃう。


「コッペンは裏の世界の顔役です。この前の盗賊団討伐のときにも挨拶を済ませていましてね、今回は商店の開店ついての挨拶をしに行くんです。」


「商店連合であれば裏の世界に顔を出す必要など無いと思いますが。非合法の商品を扱うことは禁止されています。」


 それはわかっている。


 そもそもそんな御禁制の商品を扱う予定は無い。


「そういう挨拶ではないので大丈夫ですよ。どちらかと言うとダンジョンのほうの挨拶でしょうか。」


「ダンジョンとなると私の挨拶でしょうか。」


「ユーリとも違います。まぁちょっと危険な場所なので二人には悪いですがお留守番をお願いすることになります。」


「またそうやって危険なことを一人でしようとするんですから・・・。」


 エミリアが心配してくれるのは嬉しいけどこればっかりはね。


「大丈夫ですよ。」


 安心させるようギュッとエミリアの手を握ると、返事をするようにエミリアも手を握り返してきた。


 ただし、ちょっと強めに。


「では魔術師ギルドに向かいましょうか、エミリア場所は知っていますか?」


「中央広場を西に真っ直ぐ行けばすぐ見えてきますよ。」


「道案内お願いしますね。」


「お任せください。」


 行きましょうかといいながら場所を知らないわけで。


 このあたりもエミリアに頼る当たりさすがだと思う。


 だって知らない物は知らないんだもの。


 知ってるフリして迷子になるよりよっぽどいいよね。


「御主人様、用事が済みましたら町の中を見て回ってもよろしいでしょうか。」


 ユーリは町の事が気になるようでさっきからキョロキョロと急がしそうだ。


 ユーリをエミリアに任せておいて、その間に終わらせればバッチリだな。


「魔術師ギルドが終わったらエミリアに案内して貰ってください。その間に挨拶へ行こうと思います。エミリアお願いできますか?」


「大丈夫です。夕刻までに騎士団詰所前に戻っていればいいですね。」


「それでお願いします。私も急ぎ戻るようにしますので。」


 これで手はずも整った。


 いざゆかん魔術師ギルドへ

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