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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二十四章

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番外編~キャロルの受難~

どうしてこんなことになってしまったのか、どれだけ考えても答えは思いつかない。


私はただ普通に生きたかっただけ。


お父様の仕事はお兄様が、家はお姉様が守ることは前々から決まっていた。


私はリッカー家の娘として恥じないように過ごすだけ。


欲を言えば素敵な旦那様に出会いたいとか、良い家に嫁いで家を大きくしたいとかそんなことも思っていたけれど、こんな事になるなんて考えたこともなかった。


真っ暗でじめじめとした洞窟の中。


唯一見える明かりは檻の向こうにある小さな魔灯だけ。


いったいどのぐらいの時間が経ったんだろうか。


お父様は無事だろうか。


お兄様やお姉様は?


だめだ、また悪いことばかり考えてしまう。


私は邪念を振り払おうと何度も頭を左右に振った。


足元を何かが駆け抜けていく。


きっと鼠か何かだろう。


最初は驚いたけれど、もう慣れてしまった。


そろそろ食事の時間のはず。


しばらくするとほら、足音が聞こえてきた。


コツンコツンという足音が真っ暗な洞窟に反響する。


こんな真っ暗な洞窟にも人がいるようで、毎日食事を持ってきてくれる。


決して美味しいと言えるものではないけれど、飢え死にさせる気はないみたい。


でも持ってきてくれる人がとても不気味だ。


その人は檻の前で止まり、無言で料理の乗ったお盆を降ろす。


こちらを見るわけでもなく、ずっと無言。


まるで操り人形のように毎回同じ動きを繰り返している。


その人がいなくなったのを確認してから、檻の隙間から食べ物をとる。


今日もパンとチーズ、と思ったら今日はお肉が追加されている。


干し肉じゃないちゃんと焼いたお肉だ。


ここにきてこれで十六回目の食事。


何か心境の変化でもあったんだろうか。


味付けは塩のみ。


でも久々に食べるお肉は涙が出るぐらい美味しかった。


一日三回食事が出ると仮定して、ここにきて五日。


家に戻ってこれたのに、こんな事ならサンサトローズにとどまったほうがよかった。


せっかく助けてもらったのに、またこんな場所に連れ攫われてさ。


そういえば前は何者かに操られていたっていう話だったけど、食事を持ってきてくれる人がまさにそんな感じ。


もしかして同じ人が私を狙って?


そんなバカな。


でも可能性は否定できない。


だって、あの後家に戻って再会したお父様はまるで別人のようになってしまっていた。


町の人の話では、私がいなくなったころから人が変わってしまったとか。


真面目で、誠実。


それがリッカー家の信条だったのに、それを忘れてしまったかのように傍若無人にふるまうお父様。


そんなお父様を近くで見ているはずなのに、お兄様もお姉様も何も言わない。


まるで操られているみたい。


でもそんなことが本当にできるんだろうか。


そんなことを考えているとだんだんと眠くなってきた。


真っ暗闇の中に押し込められても、眠たくなるしおなかは空いてくる。


恐らく今は夜なんだろう。


だからもう寝ることにする。


食事が変わったように、明日は何か変わるかもしれない。


それを願って・・・。



これで31回目の食事。


今日のご飯もパンとチーズ。


でも今日はスープがついていた。


暗くてわからないけれど野菜か何かの入ったスープ。


塩味だけど久々のスープは美味しかった。


これで10日経った計算になる。


何か変わるかもと思ったけれど、何も変わらない。


毎日毎日同じぐらいの時間に料理だけが運ばれてくる。


気が狂いそう。


勇気を出して料理を運んできた人の手をつかんでみたけれど、私の顔を見るだけで何も言わなかった。


あの時の目は忘れられない。


生きているのに死んでいる。


そんな生気のない目。


私もいずれそうなってしまうんだろうか。


怖い。


でも狂って楽になるのならそれでもいいかもしれない。


お父様お兄様お姉様。


ごめんなさい、私はもうだめかもしれません。


そう思っていた時だった。


突然洞窟中がドドドドと音を立てて揺れだした。


まるで子供の時に経験した地震みたい。


時間にしては短いけれど、立っていられないほどの揺れは洞窟中をかき回した。


しばらくして揺れが収まり顔を上げると、信じられない光景があった。


先ほどの揺れで檻が曲がり、通れるぐらいの隙間ができていたんだ。


助かるかもしれない!


私はあわてて隙間に体を押し込んだ。


今だけは貧相な胸でよかったと思う。


お姉様みたいに胸が大きかったらつっかえていたかもしれない。


それと、ここの粗食も良かったのかも。


この10日で随分とやせた気がする。


だって服がゆるゆるなんだもの。


あぁ、早く外に出て体を洗いたい。


なにより外の空気を感じたい。


もうこんなじめじめとしたかび臭い場所はごめんだわ。


檻を抜け、かすかに見えていた魔灯まで走っていく。


久々に感じる明かりはあまりにもまぶしくて、なぜか涙があふれてしまった。


明るいってすごい。


たったこれだけの光なのに、とても安心する。


しばらくその明かりを頼りに自分の体を確認してみた。


随分と汚れてしまったけれど、おかしいところはない。


動ける。


動けるということは逃げることができる。


そういえばいつもの人は大丈夫だろうか。


生気のない目をしていても一応生きているんだろうし、そろそろ食事の時間のはずだ。


だが、檻と反対側の通路を見ても誰もいない。


奥の方にまた小さな明かりが見えるだけだ。


行くしかない。


今の私には先に進むしかないんだから。


大丈夫よキャロル、私ならできるわ。


もうだめかもしれないなんて弱気になっちゃだめよ。


大丈夫。


生きて外に出るんだから。


そう自分に強く言い聞かせて、私は明かりを目指して歩き出した。


でも、その願いはかなわなかった。


「なんでよ!」


思わず大きな声が出てしまう。


先ほどの揺れでくずれてしまったんだろうか、次の明かりまでもう少しというところまで来たのに道の大半が土で埋まっていた。


わずかに空いた隙間から奥の明かりだけが見える。


さすがにこの穴は通り抜けられない。


どうして?


どうしてこんなことになるの?


その場にへたり込んでしまう。


そしてまた涙があふれてきた。


こんなに泣き虫なんかじゃなかったのに。


どっちかっていうと男の子みたいだとお姉様に怒られたぐらいなのに。


どうしてこんなに涙があふれるの?


もう少し、もう少しで外に出れるかもしれないのに。


悔しくて何度も何度も土の壁を殴りつける。


すると、またバラバラと上から土が崩れてきた。


慌ててその場から離れる。


これ以上穴がふさがってしまったら出れなくなってしまう。


それどころか息ができなくなるかも。


こんなところで死ぬなんて、そんなの、そんなの絶対に嫌!


「どこかにほかの道があるかも。」


自分に言い聞かせるようにしてきた道を戻り、どこか横道がないかと探した。


でも、なかった。


悔しくて、でもおなかが空いて。


これ以上動いて動けなくなるのも嫌だったので、仕方なく私は眠りについた。



それからもう一回寝た。


誰も来ない。


おなかすいた。


のどが渇いた。


もう、ダメだ。


空腹で動けなくなり、その場に丸まることしかできない。


あぁ、私はここで死ぬんだ。


そう思うとなぜか心が落ち着いた。


あきらめたのかもしれない。


この苦しさから解放されるなら、いいかも。


「おーい!」


いよいよ終わりなのかも。


だって人の声がするんですもの。


「だれかいる~?」


ほらまた。


「もしも~し!」


あれ?


もしかしてこれは本当なの?


声はどんどんと近づいてきて、そして横に空いた小さな穴から何かの音が聞こえた。


「あれ、行き止まり?でも奥は見えるし・・・。」


ガサガサ、ガンガンと土の向こうから音がする。


これは幻じゃない。


助けが来たんだ!


そう思った瞬間に、眠っていた力が一気に戻ってきた。


「たす・・・けて。」


最初はうまく声が出なかった。


「助けて!」


でも、二回目はびっくりするぐらい大きな声が出た。


「え、誰かいるの?」


「お願い助けて!」


「わかった!ちょっと離れなさい!」


聞こえてきたのは女の人の声だった。


私は言われたとおりに壁から離れようとした。


力がうまく入らなくてすぐにこけてしまったけれど、這ってでも壁から離れた。


そして、ドドドドという音が前から聞こえてくる。


それと同時に土砂が上から降ってきた。


「っと、やりすぎちゃったかな。」


声はさっきよりも鮮明に聞こえてくる。


幻でも何でもない。


これは現実だ。


助かる。


本当に助かるんだ。


その場にへたり込み、立ち上がることができない。


「貴女、名前は?」


「キャロル・・・。」


「キャロルちゃんね、よく頑張ったわ。もう大丈夫、帰れるわよ。」


「帰れる?」


「えぇ、まさかまともな人がいるとは思わなかったけど来てよかった。生きていてくれてありがとう。」


「あの、他の人は・・・。」


「あー、うん。いるにはいるけど、今はあなたが最優先。こんなにちっちゃくなっちゃって、まずはこれをのみなさい。」


その人はかばんから小さな水筒を取り出して渡してくれた。


開けたくても力が入らない私を見かねて、代わりに開けてくれる。


慌ててそれを口に含むと冷たい水がのどを通り抜けるのがわかった。


お水だ!


そう思った次の瞬間、変なところに水が入りむせてしまった。


あぁ、せっかくのお水が。


「大丈夫、そんなに焦らなくてもいっぱいあるから。落ち着いて、果物もあるわよ。食べれる?」


私は大きく何度もうなずいた。


それと一緒にお腹がグゥと大きく鳴る。


普通は恥ずかしいはずなのに、全然気にならなかった。


もらったお水を飲みほし、果物をいくつか食べてやっと、私は一息ついた。


「キャロルちゃんね。」


「そうです。」


「どこかで聞いたことあるんだけど・・・。」


「リッカー=キャロルといいます。」


「あ!あの!?」


「あの?」


「なるほどだから聞き覚えがあったのね。でもなんでこんなところに?」


「わかりません。気づいたらこんなところにいて、奥の檻に入れられていました。でもこの間の地震で檻が壊れて、それでここまで来たんです。」


「でもあの壁があって通れなかったのね。はぁ、こんな所でリッカー家のご息女に会うなんて。さすがのイナバ様も想像できなかったでしょうね。」


え、今なんて言ったの?


イナバ様?


「えっと、イナバ様って?」


「シュリアン商店ってお店の店主さん、知ってる?」


「知ってます!」


「やっぱりねぇ。サンサトローズの冒険者の話は報告書で読んだわ。そういえば見つかった冒険者の中にリッカー家のご息女がいたんだっけ。それが貴女?」


「そうです。あの、父は、家族は?」


「それはわからないわ。イナバ様が調べるために王都に行ったけど・・・、とりあえず今は地上に戻ることを考えましょう。私が来たんだからもう大丈夫よ。」


大丈夫。


その人はそういいながら力強い目で私を見つめてくれた。


のちに、この人がヘルミーナさんという冒険者ギルドの職員だということが分かったのは、アミルトンという町に連れて行ってもらってからだった。


あの時の私は疲れ果てて町についたことすら知らずに、眠ってしまっていた。


生きてあそこから戻れた。


それだけがうれしくて。


その後もいろいろあったんだけど、でもそれは、あの受難に比べたらなんてことはない。


だって私は生きているんですもの。


お父様もお兄様もお姉様も。


みんな生きている。


それだけで十分だわ。


お待たせいたしました。

これにて今章も終了いたしました。

二度も被害にあうかわいそうな彼女の受難も、これで終わり。

となるといいですね。

ひとまず問題は解決し、物語はいつもの日常に戻ります。

が、ここで少し休憩を頂きたいと思います。


仕事が忙しいのと転売屋の方に力を注ぐためです。

こちらもゆっくり書き溜めていき、ある程度たまってから投稿したいと思います。

一区切りついたあの時やめておけばよかったと思いながらも、続きをかけたことが楽しくてここまで来れました。

プロット上ではまだ話は続きます。

おおよそ10章ほどで、一段落とったところでしょか。

他にも書いてみたい話などもあるので、ひとまず小休止とさせていただきます。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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