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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第三章

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今日の予定は平穏のち大荒れ

 聖日明けの翌日はどうも体が重い気がする。


 これは元の世界でいう日曜日明けの月曜日と同じだからだろうか。


 休み明けは前日特に何もしていなかったとしても重たい気分になる。


 ブル-マンデーという奴か。


 どこぞのインド人は踊ればいいじゃないとどこぞのマリーさんのようなことを言っていたそうだが、残念ながらあの国には踊りの文化がほとんどない。


 踊りなんて運動会の時フォークダンスぐらいじゃないだろうか。


 好きなこの前で終わるなんてこともなくただ苦痛な時間だったような気がする。


 何故知らない相手と踊らなければならないのか。


 回転寿司じゃあるまいしくるくる回らなくてもいいのに。


 まぁ、昨日は休みのようで休みではなかったのでその疲れで体が重いと考えるべきだろうか。


 プライベートが充実しすぎているというのも困ったものだ。


 元の世界では考えられないリア充ともいえる。


 オタクで忙しい訳ではないなんてありえただろうか。


 結論だけ言おう。


 リア充最高だと。


 昨日はあれからエミリアと共にシルビア様を見送り、すぐに床に就いた。


 エミリアは引っ越しの準備で遅くまで頑張っていたようだけど無事に荷物をまとめることはできたのだろうか。


 もしかしたら深夜にも来るかもしれないドリアルドからの呼び出しもなく、久々にゆっくり眠れた気がする。


 昨日見たあの不思議な夢は見ることはなかった。


 二日連続であれば何かしらの理由があるのだと覚悟していたのだが拍子抜けだったな。


 たまたま変な夢を見たと思うべきか。


 あるよね明晰夢とか。


 あ、これは夢だなってわかって色々できちゃうあの夢だ。


 何をするかって?


 それはお子様には言えないような内容だよ。


 夢とわかれば何でもできる。


 夢だと錯覚して何でもしちゃうとお縄についてしまうので注意してほしい。


 危ない薬と現実逃避はダメ、絶対。


 現実逃避するならオタクの世界が一番だよ。


 誰も傷つかず、平和で、幸せな世界がそこには広がっている。


 おいでませ、夢のワンダーランドへ!


「シュウイチさん起きておられますか。」


「起きていますよ、どうぞ。」


 ノックの音とエミリアの声。


 朝から聞くエミリアの声は至福だなぁ。


 凛とした素敵な声だ。


 ゆっくりとドアが開くと、初めて出会った時のスーツを着たエミリアが立っていた。


 タイトスカートの黄金比考えた人最高過ぎるだろ。


 なんだよあの膝の見え方。


 そりゃあ何人も人の道を踏み外すはずだ。


 危なく押し倒してセクハラで訴えられるところだった。


 キスだってまだなのに。


「今日のその姿もまた素敵ですね。」


「ありがとうございます。今日は商店連合本部に行くので帰りは遅くなると思います、荷物は部屋にまとめてありますのでお手数ですが持って行っていただけますでしょうか。」


「そんなことでしたらお安い御用です。他にやっておくことはありますか?」


「ドリスさんにはご挨拶できず申し訳ありませんとお伝えください。ニッカさんの方には商店連合として改めてご挨拶させていただきますのでそちらの方もご連絡お願いします。」


 先に村長の家に向かってから新居へ向かうとしよう。


 いよいよ本格的に商店の準備が始まるな。


 この村でお世話になって約二か月。


 色々あったけど村の人は優しいし、縁もゆかりもない自分に良くしてくれる。


 恩返しの意味も含めてこれから村の役に立つことをしていくことができれば一番だ。


 この村が平和なまま豊かになってくれることを願う。


 その為の努力は惜しまないつもりだ。


「了解しました。遅くなるようでしたら迎えに行きますが大丈夫ですか?」


「初めてここに来たように本部との行き来は転送陣で行いますので大丈夫ですよ。直接新居の方に向かいます。」


 まだ商店が廃墟だった時に一度利用したな。


 黒い壁を抜ければいきなり商店についたからあれが転送だったんだろう。


 気づけばついていたからそんな実感わいてなかったんだけど。


「どこかに転送陣が置いてあるのでしょうか。」


「他のダンジョンや本部へは商店に備えてあります転送陣を使えば移動できます。今回はまだ商店に転送陣が接続されていないので、本部からここに接続してもらう予定です。」


 なんだそのワープ接続みたいな近未来設定は。


 でもメルクリアは自分で行き来していたし、魔法を極めていくと転移魔法なんてのも使えるようになるのかもしれない。


 〇ラクエおなじみの移動魔法は勇者のみの専売特許なので他のキャラでは使用できなかったな。


「そうですか。ダンジョンの方よろしくお願いします。」


「精霊様の件もありますので直接フィフティーヌ様に確認を取ってみます。あとはダンジョンの履歴やダンジョン妖精の件などもありますのでできる限りのことを今日中に終わらせてきますね。」


「無理だけはしないようにお願いします。」


「それはシュウイチさんもですよ。」


 可愛く笑って返事をくれるエミリア。


 無理をするなって言って聞いてくれるような子じゃないよね。


 俺も人のこと言えないけど。


「そろそろ迎えが来ます。」


「では見送りだけでも。」


 エミリアと一緒にリビングへと移る。


 突然床に魔法陣が描かれ始めた。


 おー、これぞファンタジー!


 これが本物の魔法陣か。


 ヤバイ興奮してきた。


 真ん中に立てば人体錬成とかできそうな光景だ。


「お待たせしましたエミリア様、ノアただいま参上です!」


 お、確かこの子はエミリアの後輩って言っていた子だな。


「ありがとうノア、無理を言いましたね。」


「エミリア様のお願いでしたらどんな所でもお迎えに伺います!」


 前回と全然キャラが違うな。


 やはり猫かぶりだったか。


「気を付けてねエミリア。」


「行ってきますシュウイチさん。」


「あ、いたんだ。」


 いたんだってなんだよ。


 いちゃ悪いか!


「こら、ちゃんとご挨拶しないとダメでしょ。」


「・・・おはようございます。」


 エミリアが妹を叱る姉のように見える。


 姉妹物もありだな。


 いつもはおとなしいキャラだけど仕事になるとお姉さまに早変わり。


 こんなエミリアもまた最高です。


 朝からごちそうさまです。


「おはようございますノアさん、エミリアをよろしくお願いします。」


「当たり前です。」


 プイっと音がするぐらいにそっぽを向かれてしまった。


 魔法陣にエミリアが乗ると光がゆっくりと消え始める。


 笑顔で手を振るエミリアが光の収束と共に姿を消した。


 転送って便利だなぁ。


 科学の世界だと物理法則や質量保存の法則などいろいろなしがらみによってなかなか開発されないワープ機能がこの世界では魔法という言葉だけで成功してしまうんだから、科学の方が優れているなんてことは言えないよな。


 非科学的な事だからこそ融通が利くんだと思う。


 ご都合主義最高です。


 さて、こちらにきて久々の単独行動だ。


 準備をするにせよ詳しい人間がいないんじゃ特別難しいことはできないし。


 魔物に襲われても大変なので森の奥に入るというのも論外だ。


 おとなしくお願いされたことだけやって後は片づけに従事するべきだな。


 それがいい。


 とりあえずは村長とドリスさんのところに顔を出すとするか。


 それで、商店に行く前にウェリスに声をかけて今週の進捗計画を聞くとしよう。


 なんだすることあるじゃないか。


 まずはできる事からコツコツと。


 エミリアの荷物を荷車に乗せて村長の家に向かう。


 家の前では村長とオッサンが立ち話をしていた。


 好都合だ。


「おはようございます、ニッカさんドリスさん。」


「よう兄ちゃん、随分と大荷物だな。」


「今日商店の方に移ろうと思いまして挨拶に伺いました。」


「それはそれはご丁寧にどうもありがとうございます。」


 村長が深々と頭を下げる。


 それにつられるように俺も頭を下げる。


 まぁ移るって言ってもすぐそこだからまだまだお世話になるわけでして。


「ドリスさんも家を貸して頂きありがとうございました。エミリアがよろしくお伝えくださいと言ってましたよ。」


「姉ちゃんは一緒じゃないんだな。」


「今日は商店連合の方に行くと先程迎えの人と共に出発しました。」


「ということは華の独身生活満喫か。」


 確かに独身生活か。


 だからと言ってすることもなくやることは決まってるけどね。


「満喫するにしてもすることは変わりませんから。」


「確かにそうだ、今日も土と木と戦うだけだからな。」


「泉の魔物の件は追って報告します。安全が確認され次第泉から水を引きますから準備をしておいてください。」


「これ以上仕事を増やすとか、よっぽど兄ちゃんは俺をこき使いたいみたいだな。」


 別に仕事を増やしたいわけではないんだけど。


 でもその方がオッサンにはいいんじゃないかな。


 仕事がないと暇そうにしてるし。


「お前はそれぐらい働いたほうが良かろう。することがなければそこいらでグータラしているだけだろうが。」


「ひどいこと言うなよニッカさん。俺だってやれることはやってたさ。」


「今では仕事に溢れている。毎日充実して酒もうまい、お前はこれ以上の贅沢があると思うのか?」


「できれば仕事をせずにうまい飯と酒があれば最高だけどな。」


 あーそれわかる。


 何もせずに寝てるだけで、誰か給料振り込んでくれないかなって思ってた時期が俺にもありました。


 実際そうなったら逆に何もしなさそうだから、人間体を動かした方が健康的なんだと思う。


「このバカ者が。」


 村長に頭をはたかれながらもうれしそうなオッサン。


 まさに父と息子という感じだな。


 血の繋がりはないけれどそんなことは関係なく人は人と繋がれる。


 とてもいいことだと俺は思う。


「では、挨拶はまた改めて伺いますので。」


「どうせすぐそこだろ、何かあったらすぐ来いよ。」


「その時は遠慮なくご迷惑かけさせてもらいますよ。」


 冗談を交わし、二人と握手をしてその場を去る。


 次はウェリスだな。


 ウェリス達は早くも伐採地で作業を始めていた。


 心なしか動きが機敏な気がする。


 肉と休息が効いているんだろうか。


「朝から皆さんヤル気満々ですね。」


「この前旨い肉をたらふく食べて昨日1日休んだからな、それに今週は休息日もあるからこのぐらいのペースでやらないと終わらないんだよ。」


 そうか、実労働日数は三日しかないのか。


 一応それも考えて計画していると思うが、なるほど元気なのはそれも理由だったか。


「魔物の件が片付いたら泉の方から水を引くので、夏はもっと忙しくなると思いますよ。」


「これ以上俺たちを酷使するなんてお前もなかなかひどいことをするな。」


「人聞きの悪い、大掛かりになりそうでしたら人を追加しますので大丈夫ですよ。それに、灌漑施設の実装は来年からですからウェリス達にはその下準備をしてもらう予定です。」


 今から水路を準備しても今年中の完成は不可能だ。


 それならばしっかりと準備して来年からの作付や育成に間に合わせる方が重要である。


 いきなり始めても失敗するだろうし、そもそも入れ作り方なんて知らない。


 ちゃんと専門家呼んで進めるべきだ。


 一応領主様の命令による公共事業みたいなものだしね。


 手抜き工事はダメ、絶対。


「この流れだとこの村にズルズル居座るような気がしてならないな。」


「鉱山送りよりはましだとは思いますよ。空気は綺麗だし食べ物は美味しいし、少々娯楽はありませんがいずれこの村が大きくなれば問題は解決されるでしょう。」


「俺は労働奴隷ではなく従軍奴隷だからな、いずれは騎士団に戻るだろうさ。」


 それはどうだろうか。


 人が増えれば犯罪が増える。


 犯罪が増えれば取り締まる人が必要になる。


 この国において治安機構は騎士団か自警団が該当するので村に残る可能性は十分残されている。


 むしろシルビア様はそれを狙っている気がするのだが。


 騎士団に関しては俺の管轄ではないのでそのあたりはお任せするとしよう。


 正確に言えば村の開発についても俺の管轄ではない。


 そこのところは忘れないで欲しい。


「そのあたりはシルビア様にご確認をお願いします。」


「俺はあいつらが無理なく奴隷期間を過ごせるなら文句はねぇよ。」


 どんなことがあってもウェリスは彼らの上司であることは忘れない。


 だからこそ、彼らもウェリスの後を付いていくんだろう。


 きついことを言いつつもしっかり部下のことを気に掛けてくれる。


 まさに理想の上司と言うやつなんだろうな。


「今日から商店の方に移りますので後の指示はドリスさんたちにお願いしてあります。」


「離れるって言ってもすぐそこだろ気が向いたら顔ぐらい出しに言ってやるよ。酒出してくれるならな。」


「酔って店の備品を壊さないなら大歓迎ですよ。」


 それぐらい許されてもかまわないだろう。


 休みの日ぐらいは自由になっても文句は言われない。


 一通り村の人に挨拶を済ませて村を出る。


 すぐそこだが餞別だ何だといろんな物を持たされてしまった。


 エミリアの荷物だけのはずが荷物があふれんばかりだ。


 あまり長いこと村にいたつもりは無いのだけど、本当にいい人ばかりだった。


 これからもお世話になるとしよう。


 今後は大切なお客様になるわけだからね。


 重たい荷車を引きながら商店のほうへゆっくりと向かう。


 天気は良く風も気持ちがいい。


 初夏の季節が一番好きだ。


 暑くもなく寒くもなく、さわやかな風が心地いい。


 因みに二番は秋の終わりごろ。


 少し肌寒いが食べ物が美味しく感じる季節。


 やはり食の楽しみがないと人生楽しくないよね。


 元の世界ではそれすら楽しめなかったからこっちの世界では是非満喫したい。


 これだけ四季がハッキリしているのならば旬の食べ物だってきっとあるはずだ。


 異世界の食べ物ネタって多かったし。


 この異世界でもきっと楽しめるに違いない。


 荷は重いが心は軽い。


 多少気になる事は残っているが後は野となれ山となれだ。


 商店の脇から新居へ向かい荷を下ろす。


 食べ物は台所に、荷物は各々の部屋に。


 それ以外はリビングにおいてのんびり仕分けするとしよう。


 今日は特にこれといったことをする必要は無いので、したいことをしていればいい。


 やらなければならないことは山積みだ。


 お風呂に入るなら薪割りしなければならないし、食事の準備もしなければならない。


 ガスなんてあるはず無いから火は自前だ。


 つまりはまず薪割をしないと生きていけないと。


 いやまてよ、水も準備しないといけないから井戸から水を汲んで甕に移しておく必要もあるな。


 空気が悪いから換気もしなければならないし、掃き掃除ぐらいはしておいたほうがいいだろう。


 なんだか主夫になった気分だな。


 家事は簡単なようで奥深いし、やればやるほど終わりが見えない。


 まさに無限ループの作業だ。


 だがそれに対する見返りも多いので、心が淀んでしまって辛い場合はまず掃除をすることをお勧めする。


 部屋が綺麗になるだけでも気持ちが明るくなることうけあいだ。


 ちなみに筋トレをしても気分が高まるので併用するとムキムキの筋肉と清清しい心の二つを手に入れることができる。


 俺には無理なので掃除だけで十分です。


 筋トレは少しずつはじめていきます・・・。


 薪割りをと外に出たときだった。


 商店の方に人影が見えた。


 おかしい、まだお店は空いていないしこんなところに人が来るとは思えない。


 ダンジョン目当てに来たことも考えられるが無名のダンジョンだしここに来る為には村を通らなければならない。


 ダンジョンに来た人には村人が事情を説明する手はずになっているはずだ。


 いったい誰だろう。


 斧をその場に置き走って商店のほうへ向かう。


 人影は商店を通り過ぎてダンジョンの方に向かっていった。


 いやいやダンジョンのほうが良くない。


 俺は契約しているから襲われないけどまだモンスターは中にいるし、さっき見えた姿は女性だ。


 ダンジョンの性質上、人が死ぬのは当たり前だが冒険者でもない人が死ぬのはさすがにいただけない。


 何かを探して入ってきたのであれば余計に止めなければならない。


 ダンジョンの入り口が見える場所まで来たときには女性の後ろ姿が消えるところだった。


 ヤバイ。


 心のどこかであの後姿を見たことがあると思いながら女性の後を追ってダンジョンへと入っていく。


 あの後姿をみていると心が少し暖かくなった気がした。


 それもほんの一瞬。


 焦りが心を支配していくのだった。


 誰もいない商店。


 誰もいない新居。


 そして見知らぬ誰かとダンジョンに二人。


 この出会いがこの先の状況を一変させることになるとはこの時の俺はまだ知らない。

時間は遅れましたがなんとか今日の分完了です。


話が動き出しましたので、次はちょっと番外編です。

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