ダンジョン基礎講座その2
また断りきれないお願いを受けてしまった。
ここ最近は大きなトラブルなく充実した日々を過ごしていただけに、今回のお願いがどれほどのことか想像がつかない。
アリ退治に盗賊退治。
命の危険も感じたし何より大変だった三日間だった。
そういえば前回も休息日の付近だったような気がする。
実際商店で働いていないから休息日のありがたみとかはよくわからないが、この世界にいる神様とやらは休息させるつもりがないのだろうか。
村長、騎士団分団長と来て次は領主様か!とか構えた時期もあったが実際はそんなこともなく。
まぁ領主様の命令で村長が動いていることを手伝ってる感はあるけれど。
けどまさか精霊からお願いされるとは思っていなかったなぁ。
ファンタジー世界ってすごいなぁ。
なんでもありか!
ドリちゃんことドリアルドはバイバイと手を振って外に走ったと思いきや、フッと消えてしまった。
走る意味あったのかな。
残された三人は現状を上手く飲み込めないでいる。
「すごい相手にお願いをされてしまいましたね。私精霊様なんて初めてお会いしました。」
「話には聞いたことはあるが、本当に実在しているとは。」
どうやらかなりのレアキャラだったようだ。
精霊か。
ドリアードって半裸で描かれて事が多いような気がするけど、それと臆病でおとなしい感じ。
自分の思っているイメージとだいぶ違うなぁ。
ものすごいギャルだったし。
王様ゲーム!
とかいいそうなタイプ。
「エミリア、精霊について詳しく教えて頂けますか。」
「それほど詳しいわけではありませんがよろしいですか。」
「大丈夫ですお願いします。」
何も知らないよりも知っているほうが何倍も役に立つ。
情報は金より重いからね。
「精霊はこの世界の全ての現象や物に宿るモノのことを言います。よく言われるのが四元素を司る精霊ですね。火の精霊『エフリー』、水の精霊『ウンディーヌ』、土の精霊『ノマーヌ』、風の精霊『シルフィー』以上の四精霊が世界を構成する基礎を司っています。」
聞いたことのある名前ばかりだ。
種族のときと同じでこの世界から現代に戻った人が名前を変えて伝えたんだろう。
ファンタジーの基本だな。
「それぐらいは私も知っている。自然にあるもの全てが精霊によって生み出されたのだと。」
「他にも精霊がいるという事ですね。」
「その通りです。先ほどの四精霊はよく言われますが先ほどの森の精霊のように、四精霊から生まれた別の精霊もたくさん存在しますのでひとくくりに精霊はこれと断定することはできません。精霊の下に下級精霊や妖精もいますので、世界は精霊で満たされていると言ってもいいかもしれませんね。」
つまり自然界の現象や森羅万象全てに精霊は関わっているという事か。
「普段はあまり人前に出てこないものなのでしょうか。」
「あまりと言うかほとんど出てくることはありません。妖精などはよく見かけますが上位の精霊は魔女や精霊士、召喚士の方を介さなければまずお会いできません。今回のように気さくに話しかけてこられるとは思ってもいませんでした。正体を聞かれたときもてっきりいたずら好きの妖精か何かかと思ってましたので。」
あの時エミリアに答えを聴かなくてある意味正解だったみたいだ。
そのレアキャラに属する精霊がわざわざ俺の前に現れてお願いとはいったいどういう事なのだろう。
森の子っていうのも森の妖精とか何かなんだろうけど、わざわざ俺を指名する必要あったのかな。
「指名されるほど私は何か特別なことをしたんでしょうか。」
「それは私にもわかりません。妖精や精霊は独自の考え方を持っていますので、先ほどの話では村で村長の次に働いている人という言い方でしたけど。」
「それだとウェリスやドリスさんも該当しそうなものですが。」
「見ている人はちゃんと見ているという事だ、胸を張って喜んでいいのではないか。」
そういうものだろうか。
承認欲求は確かにあるし、人から評価されるのは非常に嬉しいがまさか精霊に評価されるとは思ってもいなかった。
「そういうものですかねぇ。」
「精霊に認められるなどめったにない事だ。ここはもっと喜んでいい所だぞ。」
「その通りです。ドリアルドやウンディーヌに認められた証があれば、どの国に行ってもそれなりの対応をしてくださいますし、国お抱えの精霊士として登用される事だってあります。ものすごい栄誉な事なんですよ!」
いつにもなくエミリアが興奮している。
魔法関係の人からすれば精霊とお近づきになれるというのは非常に名誉なことのようだ。
でも俺、普通の商人だし。
魔法の素質無いってはっきり言われたし。
武芸のほうは・・・。
鍛えれば何とかなると信じている。
がんばろう。
「とりあえずどんなお願いかわかるのが明日のお昼頃ですし、明日までは何もできませんね。」
「そうですね。明日は聖日で商店もお休みですから丁度いいかもしれません。」
そうか、休日勤務は厳禁だった。
さすがホワイト企業。
けど自主的な作業だったら怒られないんじゃないの。
「そうか、明日ダンジョンの中に入ろうと思ってたけどダメなのか。」
「まだ契約していませんので中に入ってしまうと魔物に襲われてしまいます。契約後でしたら自由に出入りしてくださってかまいませんので今しばらくお待ちください。」
「ならばわざわざ明日まで待たずとも今日してしまえばいいのではないか。明日は頼まれごとで手一杯かも知れぬし明日全てが終わるとも限らん。できることを先に片付けるほうが効率がいいぞ。」
確かにその通りだ。
ついついいつでもできることは先延ばしにしてしまいたくなるが、することが無いのであれば今してしまえばいい。
さすがシルビア様。
上に立つ者は考えることが違うね。
ちがう俺がずぼらなだけか。
シルビア様の考えが普通なんだな、うん。
「契約は今日できるのかな。」
「できますがダンジョンの最下層まで行かなければなりません。護衛も手配していませんし、もし何か有ったときに対応することが難しいです。」
そうなのか。
ダンジョンの最下層って事は敵も強いしさすがのシルビア様でも無理だよな。
「このダンジョンは何下層までできているのだ。」
「自然発生しただけですので5階層までですね。契約して整備すれば10階層までできると思います。」
「そのぐらいであれば私一人で十分だろう。ついでにイナバ殿の位も少し上げておけば後々こまることも少なかろう。」
思ったよりも少なかった。
それもそうか、手を加えないと大きくならないんだもんな。
まるで植物のようだ。
手を加えれば加えるほど美味しい食べ物ができたり綺麗に花が咲いたり大きくなったりする。
ダンジョン育成は植物育成と見つけたり。
小学校のとき生き物係だったからバッチリまかせてくれていいぞ。
全然関係ないけど。
「確かにシルビア様一人で行けるとは思いますが・・・。」
「エミリアもいるではないか。そんなに深いダンジョンでなければ魔物の数も知れているだろうし、自分のダンジョンで力比べができる最初で最後の機会だ。魔物と戦うという事をシュウイチ殿には覚えてもらわなければいかんからな。」
もうアリと戦ったけどね。
でも確かにその通りだ。
魔物の習性や行動を理解せずにダンジョンを作ったところでいいモノは出来上がらない。
行動を熟知し、それを踏まえて罠やモンスターを配置すればより良いダンジョンが作れるに違いない。
それに自分のダンジョンなんだから最初ぐらい自分で攻略しないとね。
超強い護衛つきだけど。
「確かにその通りです。何かあったらこの前のように全力で逃げ出すので大丈夫ですよ。」
「シュウイチさんがそういうのであれば構いませんが、でも慎重にお願いします。自然発生のダンジョンですからどんなモンスターが生まれているのかわかりません。魔力が薄いので強いモンスターはいないと思いますが、どのぐらいの数が生まれているかは未知数ですので。」
モンスターハウスがある可能性もあるわけだ。
部屋いっぱいのスライムとかいやだなぁ。
でもいよいよファンタジー世界っぽいことをするわけだ。
冒険とかダンジョンとか自分で出来たらと思うことはたくさんあったけど、それが現実になる。
興奮しないわけがなかろう!
勇者シュウイチの冒険が今はじまるのだ!
商人だけど。
「確かにそうだな。何が出てくるかわからない以上慎重に行くべきだ。私も気を引き締めて向かうとしよう。」
「では一度村に戻って準備をしましょう。それと、改めてダンジョンについてご説明させて頂いてから向かいますのでよろしくお願いします。」
「今すぐってわけにはいかないか。」
「ダンジョン運営の基本はお話しましたが、もう少し詳しく説明しておかなければなりません。これは社内規定なので絶対です。」
「私が聞いても大丈夫なのか。」
たしかに、部外者に聞かれてはまずいこともあるのではないだろうか。
特にダンジョン運営とかについて社外秘の情報もあるだろう。
「基本的なことしかお話しませんので大丈夫です。それに、シルビア様はシュウイチさんの家族になるんですから隠し事をする必要も無いですしね。」
貴女も家族になるんですよとは言わない。
だって顔真っ赤にするのがわかっているから。
あの恥ずかしがるエミリアも可愛いんだけどね。
「エミリアも一緒に家族になるのだろう。」
「あ!はい、そうですよね、私も、シュウイチさんと・・・。」
こら!真っ赤になってモジモジしちゃったじゃないか。
可愛いなぁもう。
「と、とりあえず戻りましょう。戻って食事をしてから詳しく聞かせてください。」
「そ、そうですね!もどりましょうか!」
手と足が一緒に出るエミリアと共に村へと戻る。
ダンジョンを運営すると言うのも簡単ではなさそうだ。
だが、これを学ばずしてダンジョンを大きくするすべは無い。
しっかり勉強させてもらおう。
村に戻ると村長に声をかけ事の次第を説明する。
「なるほど、それでは開拓のほうは問題ないという事ですね。」
「そのようです。ジメジメしているのでこの辺りはバッサリいっても構わないし灌漑施設を作る許可も得られました。これで安心して森を切り開けますね。」
「そうですね、ここまで早急に森を開いたことはありませんでしたから。精霊様がお怒りでないのが何よりです。泉の件もてっきり精霊様の怒りに触れたのではと内心びくびくしておりましたので。」
村長としては板ばさみの状態だったのだろう。
領主様の命令と森を大事にする気持ちと。
肩の荷が下りたようにほっとした顔をしている。
「しかしまた精霊様のお願いを賜るとはイナバ殿も大変ですな。」
「前回大変な思いをしましたので次はないと思っていたのですが、断るに断れませんでした。」
「イナバ殿でしたらきっとやり遂げることができましょう。その為にシルビアの力を存分にお使いください。」
存分にというかがっつりというか。
まだまだ他力本願ですので。
「昼にダンジョンへと潜ります。夕方までには戻れると思いますので心配しないでください。」
「ダンジョンにですか。シルビアもおりますから大丈夫でしょうが、戻らない場合は念の為に動ける者を向かわせます。」
「よろしくお願いします。危なくなったら逃げてきますから。」
安全第一。
いのちをたいせつに。
この作戦は絶対だな。
その後簡単な昼食を済ませて、エミリアの基礎講座を受講する。
「ダンジョンの仕組みについては面接のときにお話しした通りです。ダンジョンの存在理由は魔力を集めて自分を大きくすること。私たちはその性質を利用してダンジョンをより大きくする手伝いをするようなものです。冒険者を集める工夫をして魔力を集める。その為にアイテムを準備したり冒険者をサポートするアイテムを販売したりします。私たちがダンジョンを運営していることは皆さんご存知ですので文句を言われることもありません。」
「ダンジョンは一攫千金を目指す者達の一つの手段にすぎん。己の実力を試すべく挑戦する者もいれば、地位や名声欲しさに挑む者もいる。命を賭けるに相応しい宝があるからこそ彼らはあそこに潜っていくのだ。騎士団でも若輩者の実戦訓練として利用させてもらっておるしな。」
確かにモンスターとの実践を学ぶには便利だけど、危険すぎやしないか。
「騎士団の皆さんにはお世話になっています。大量の魔力を回収できますし道具も良く売れますから。」
なるほどね、確かにお得意様なわけだ。
「ダンジョンは侵入してきた者の技量に応じて魔力が増えていき、冒険者が倒れた時も同様に魔力と装備を回収する。ダンジョンと契約をすれば契約者は襲われないと言っていましたね、血を与えるとか。」
「その通りです。ダンジョン最下層にはダンジョンの核であるオーブが存在します。そのオーブにシュウイチさんの血を覚えさせることでダンジョンの主として認識させるのです。ダンジョンで生まれた魔物は主であるシュウイチさんを攻撃することはありませんし、シュウイチさんの命令があれば関係者も襲われることはありません。オーブを通してのみ命令することができますので、そのたびに最下層まで行かなければならないのがちょっと面倒です。ある程度大きくなれば転送装置なども作ることができますので楽になりますけどね。」
ダンジョンのオーブか。
まさにダンジョンマスターになるわけだな。
来る人をすべて倒してしまうとリピーターにならないから、低層は罠を張って撃退するような感じがいいだろう。
ある程度強くなれば奥まで進めるようになるし、そうなれば命のやり取りをする必要が出て来る。
ダンジョンである以上人に死んでほしくないなんて甘いことは許されない。
人の命を吸って大きくなる恐ろしい魔物と同じだ。
しかしここにくる冒険者もそれを理解したうえで中に入ってくるのだから、そこで情けをかけるというのはおかしいのだろう。
あー、でも好みの女性なら殺さないでおきたいよね。
助けに行ってそのあとは・・・。
「なにかよくないことを考えておるのではないか、シュウイチ殿。」
「勉強中に不謹慎ですよ、シュウイチさん。」
おかしい。
なぜ俺が考えている内容が伝わるんだ。
顔に出ていたのだろうか。
それとも気配か。
女性って怖い。
「オーブを通じて命令や召喚をする。それとは別に個別に罠を張って撃退もするわけですが、広いダンジョン全ての罠をいちいち作動回収補修とするのは無理があるような気がしますが。作業時間も限られていますし、休みの日は中に入ることもできません。」
階層が少ないうちは自分ですることが可能だろう。
どのぐらい広いかはわからないが、広ければ広いほど中の補修や改築は大変になる。
1人で管理するというのは無謀だと思うのだが。
「管理はダンジョン妖精にお願いします。ダンジョンと契約するときにお会いできると思いますがダンジョンの掃除から罠の配置、魔物の管理まで何でもできるすごい妖精なんですよ。」
まさかの妖精さん登場。
確かに何でもこなしてもらえるならありがたいけど、どのぐらいいるんだろう。
「ダンジョン妖精ですか。ブラウニーのような感じなのかな。」
「小人とは少し違いますが見た目はそっくりです。彼らはダンジョンの中に住んで外に出ることはできません。食事はダンジョンの魔力を摂取しますので必要ありませんし、何より可愛いです。ものすごく可愛いんです。」
すごい力の入りようだ。
女性は可愛いのに弱いからなぁ。
「そんなに可愛いのか。」
シルビア様が食いついた。
「それはもう、お持ち帰りしたいぐらいに。家にいたら便利なんですけど残念ながらお持ち帰りできません。」
一家に一匹便利な小人さんですか。
労働条件次第で来てくれたりはしないのだろうか。
でもそのためにはダンジョンに住まないといけないのか。
却下だ。
「ダンジョンを大きくさせたくさんの人に来てもらい商店を利用してもらう。これが一連の流れになります。」
「そして、そのたくさんの人に滞在してもらうために村を大きくする。1から村を作るはずでしたがこの流れでは既存の村を大きくすることになってしまいますね、その件については大丈夫なのでしょうか。」
村の横に村を作ったところでさほど離れていない村同士いずれは合体してしまいそうなものだが、新しく作った村が発展して今の村が衰退してしまうのも困る。ダンジョンと距離が近い場所にありすぎるというのが問題だな。
「その件に関しては改めてメルクリア様よりご説明があると思います。開店の時にはこちらに来られると仰っておりましたので。」
幼女再びか。
二か月たってから条件提示と言っていたな。
確かその中にはダンジョン整備と周辺開発も含まれていたはずだが、周辺開発が住居周辺の開発か。
ならダンジョン整備はどうなってるんだ。
「最初にお話を伺った時は、新しいダンジョンを商店が準備して大きくするという話でしたね。このダンジョンは商店連合の持ち物だと聞いていましたが、先ほどの話だと自然発生のダンジョンで中がどうなってるかわからないという事ですし話が矛盾していませんか。」
最初に聞いていたダンジョンの状況と違う気がする。
「商店連合が1から準備したダンジョンは、この前のダブルブッキングのダンジョンなんです。ここは昔に商店連合が開発するために抑えていたのですがこの前のようなありさまで結局手が入っていないんです。」
なるほどね。
それで中がどうなっているかわからないのか。
その方がいじりがいがあるってものだ。
「わかりました。とりあえずすべてはオーブを見つけて契約しなければ話が進まないという事ですね。」
「そのようだな。私にはよくわからない部分が多かったがシュウイチ殿がこの村を含めて大きなことをしようとしていることはわかった。夫を立てるのが妻の役目だ、全力で手伝わせてもらおう。」
「よろしくおねがいします、エミリア、シルビア様。」
「それでは行きましょうか。装備が準備でき次第出発しますのでよろしくおねがいします。」
いよいよダンジョン攻略か。
ダンジョンマイスターの腕がなるぜ!
ダンジョン基礎講座その2でした。
前書きが長すぎて講座が少なめでしたが、いよいよダンジョンに突入です。
現実にダンジョンとかあったら怖くて入れないと思いますが、
ゲーマーなら一度は憧れるシチュエーションですよね。




